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中等部4年編
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しおりを挟むウィリアムからリヴァイへのお説教が始まりしばらくすると、会場はダンスの音楽が演奏され始めた。
しかしウィリアムはお説教中で、ソフィアは女性、そして側近達は護衛を務めている為、ルーカス達の周りの人は誰一人として踊りに行かない。
「エイル、キャシー、君達も踊っておいでよ」
「いえ、私達は卒業した身でルーカス殿下の護衛として参加しているに過ぎませんので」
「私達が踊る必要はないかと。寧ろアールやヒュー達こそ踊りに行くべきではないでしょうか?」
キャサリンがそう言うと、突然名前が上がったフランクとギャレットは少し驚いた様子で断った。
「私達は別に……」
「どなたかと約束した訳でもないですし……」
あまり前向きでは無い2人の反応に、ルーカスは少し考えた。
「…………では、姉さんやナタリー達を誘ったらどうだい? クラスメイトだし誘いやすいでしょ?」
「……相手は皇女様達だぞ? 誘いやすいわけねぇだろ」
「今日は無礼講だから気にしなくていいのに。ヨハン、良かったら姉さんをダンスに誘ってくれないかな?」
「わ、私がですか!?」
ヨハンは心底驚いた様に声を上げた。
「ヨハンなら姉さんとお茶会も何度かしているし誘いやすいかなと」
「それはそうですが……。……私が誘ってもよろしいのですか? こんな目の……」
ヨハンは自分のオッドアイの瞳を、酷く気にしている。ルーカスが調べ、それはとても特別な力があり、断じて悪いものではないと分かったが、それでも長年のコンプレックスは中々払拭できないものであった。
しかしルーカスはヨハンの今の言葉に少しむっとしてしまう。
「僕の姉さんが、そんな事で君を拒むと思っているのかい?」
「いいえ! 断じてそのような事は……!」
「僕の醜い角も翼も気にしない姉さんが、君のその美しい瞳を蔑むわけがない」
そう言ってルーカスがヨハンの頬を掴み目線を合わせると、ヨハンは少しだけ目を逸らしてしまう。
「それでも気にしてしまうのならば……」
ルーカスはヨハンと目線を合わせたまま、突然、体内に仕舞っていた角と翼を外に出した。その光景に皆が目を見開いている。
「僕も外に出しておこう。異質な者同士、励まし合えば何も怖くはないでしょう?」
そうやって微笑むルーカスに、ヨハンは驚愕したまま動けないでいる。するとルーカスがヨハンの腕を引いて言う。
「ほら、行こう」
「……はい」
少しの覚悟が出来たようで、ヨハンは了承する。するとルーカスはとても嬉しそうな笑顔を見せた。
「あ、そうだ。キャシー、君も来なさい」
そう言ってキャサリンの腕も引くと、ルーカスはまずソフィアのもとへと行った。
「姉さん」
「あら、ルー。今日は角と翼を出した神様スタイルなのね。とっても美しいわ!」
「姉さん……。ヨハンが話があるみたいだよ」
ソフィアのそのアウトラインギリギリの発言に、ルーカスが氷の神イヴェールの生まれ変わりであることを知る側近達は苦笑いをした。
「そうなのね。どうされましたか、ヨハン?」
「あ、あの……。私と、踊って下さいませんか……?」
「まあ! 勿論喜んでお受け致しますよ。ヨハンから誘って頂けるなんてとても嬉しいわ!」
そう言って本当に嬉しそうなソフィアの表情に、ヨハンは少し驚いた後、安堵して息を吐いた。
「あ、ありがとうございます」
「よし! では次はキャシーだね」
「ルーカス殿下、一体何を……?」
「踊らない様子だから、勝手に皆から誘わせようと思って」
そう言うとルーカスはオーランドの元へと向かった。
「オーランド、キャシーが踊りたいみたいだから、誘ってあげてくれないかい?」
「ルーカス殿下……!? 私は……」
「おう、いいぜ! キャサリン様、踊ってくれるか?」
「殿下……」
「楽しんでおいで?」
諦める気のないルーカスに、キャサリンの方が折れた。
「……分かりました。離れる間、無茶なことはなさらないで下さいね?」
「気をつけるよ」
「……オーランド、誘ってくれてありがとう」
そう言ってキャサリンはオーランドの手を取り踊りに行った。するとその様子を見ていたセドリックとノーマンがルーカスの元へ来る。
「今日は翼と角は出したままかい? とても可愛いよ」
「ええ、とてもお美しいです」
「セドリック、ノーマン。うん、たまには良いかなと思って。2人も後でキャサリンの事を誘ってあげてね」
その言葉に、セドリックとノーマンは少し苦笑いをしながら尋ねた。
「キャシーはあまり乗り気ではない様子だったけど良いのかい?」
その問い掛けに、ルーカスは困った様に微笑んで言う。
「キャシーもエイルもリヴも、本当に良い子達なんだ。何があっても僕を最優先に考えて、いつも自分のしたい事を後回しにする。
それはきっと、僕が大人になっても変わらない。キャシーは成人の儀で僕からブローチを受け取ったし、リヴとエイルも僕から貰う事を決めているみたいだから。本当に優しい良い子達だよ。彼らの時間を奪ってしまうのが、申し訳ないくらいに……」
ルーカスは少し暗い表情になり、酷く申し訳なさそうだ。
「……皆様は、ルーク殿下といる時間がとても好きだと思います。だから、皆様にとっては奪われた時間ではなく、共に歩み楽しんだ時間なのですよ。勿論私達も同じです」
「そうだね。確かに護衛の仕事は大変だ。神経も使うし自分達よりも優れてる人を守る為には体力もいる。けどね、そんな大変な時間でさえも、私達にとってはウィルや、エド、ルー、ソフィ、リリーと共に居れる、大切な時間なんだ」
「そうです! だから、奪った時間だなんて言わないでください……」
「エイル……」
ルーカスの帰りが遅いため、アレイルがルーカスの元へやってきていたらしく、どうやら初めから話も聞いていたようだ。
「御二方の言う通り、私達にとって貴方といる時間はとても大切で幸せなものなのです。時間を奪ったなどと言われると、とても寂しいです……」
「……そうだね。僕も大切な人達から、そんな風に言われたら凄く寂しいと思う。ごめんね。
けれど、君達にも息抜きの時間は必要だと思うんだ。踊りに行くと言う名目でしか時間が取れないでしょう? ダンスでは息抜きにならないかな?」
そのルーカスの困った様な表情の問いかけに、アレイルにこりと笑って言う。
「いいえ、とても有意義な時間を送れるでしょう。私もどなたかをお誘いして踊って参りますね。お側を離れる間、呉々も無茶なことは為さらないようにお願いします」
「ふふふ、キャシーと同じ事を言っている。無茶しないから楽しんでおいで」
「ありがとうございます」
そう言ってアレイルはグレイスをダンスに誘って楽しそうに踊りに行ったのだった。
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