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中等部4年編
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しおりを挟むアレイルとキャサリンをダンスへ送り出すと、ルーカスはフランク達の元へと戻った。
「……ヨハンは踊りに行ったんだな」
「うん。……暗い顔をしてどうしたんだい?」
ルーカスが不思議そうにそう尋ねると、皆は少し驚いた様にしてからマルセルとアーウィンが誤魔化した。
「……別にいつも通りだろ」
「そ、そうですよ。それよりテオ殿下は踊らないんですか?」
「リヴがお説教中だからね。……僕には相談出来ないこと? そうだったら、無理に聞き出さない」
ルーカスには誤魔化しが聞かず、真剣にそう尋ねられた。するとフランクが頭を掻きながら教えてくれた。
「あーもう! ヨハンとルーカスの事だよ!」
「僕とヨハン?」
「お前ら2人とも、見た目にコンプレックス抱えてんだろ? さっきヨハンを励ます時、ルーカスは自分の翼と角を醜いって言ってただろ」
フランクは悲しそうと言うよりも、理解が及ばないという表情でルーカスに向かってそう言った。
「それは……。身近な人達は贔屓目で見るから綺麗だと言ってくれるけど、傍から見れば醜いものでしょう?」
「いやいやいや、何処がだよ!? 贔屓目なしにしても綺麗どころか神々しいわ!!」
フランクの発言に皆はうんうんと頷いた。その勢いにルーカスは呆気に取られる。
するとヘクターが少し暗い表情で口を開いた。
「俺達は確かに、ヨハンのあの目を馬鹿にして、ヨハンの事を傷付けました。ですが、あの瞳を気持ち悪いと思った事は、1度も有りませんでした」
「今更こんなことを言っても意味はありませんが、それでも聞いてほしいです。私達は彼の瞳が羨ましかったんです」
「羨ましい?」
「はい。ヨハンがあの瞳で皆から蔑まれていたのは知っています。けれど、それでも羨ましかった」
ヘクターとアーウィンはホワイト家の遠い分家の為、帝都の学園には通わせて貰っているが家の方では特に待遇に可も不可もなくと言ったところだった。
そんなただの分家の2人は学園でSクラスに入ろうと何も変わらなかった。家の者から褒められる訳でもなく、かと言って直系の者達に目を付けられる訳でもない。
何をしようと、どんな功績を残そうと、彼らはただの分家でしかなかった。
「俺達は、何をしても誰かの目に留まることは無かった。けどヨハンは、悪い印象ではあったけど、皆の目に留まっていて、テオ殿下が学園に来るようになってからは、貴方にまで気にかけて貰えて……」
「けどそんな事を素直に誰かに話せる訳でもなくて、ヨハンを馬鹿にした態度を取って少しでも気を引いて貰おうとしました」
「……何故それを、僕に言うんだい?」
ルーカスのほんの少しだけ冷ややかな瞳と声が、ヘクターとアーウィンを問いかけた。すると2人は少し慌てた様子で言う。
「も、もちろん、ヨハンには謝罪した際に伝えました……! 言い訳にしか聞こえないということは分かっています!」
「それでも、決して彼の瞳を気味悪がったりはしていないと、知っていて欲しかったんです」
「こいつらがヨハンに話してた事は俺らも見てる。だからあんま責めてやるな」
マルセルがそう言うとフランクとギャレットも頷いた。
「そう……。ヨハンがもう許しているから、僕から責め立てることはしない。……2人共、少し屈んでくれるかい?」
ルーカスのそのお願いに、ヘクターとアーウィンは目を見合せて不思議そうにしながら少し屈んだ。
するとルーカスは彼らの頭に手を伸ばし、子供を褒めるみたいに彼らの頭を撫でた。
「誰にも相手にされないのは辛いよね。そこに居るはずなのに、存在しないみたいに無視される。君達は頑張ったよ。謝罪から逃げず、しっかりと反省した。もう、大丈夫だから」
そのルーカスの言葉に、2人の瞳に薄らと涙の膜が張る。それを決して零さぬよう、2人は瞼に力を入れた。
「そ、そうではなくて、、俺達と仲良くして貰う前から、貴方達の瞳も、翼や角に対しても、嫌悪感など抱えた事がないと伝えたかったんです!」
「そ、そうです! なんで私達が励まされてるんですか……!!」
「ふふ、そうだったんだね。2人とも、ありがとう。けれど気にしないで?」
イヴェールとしての記憶が戻れば、翼と角がある事が、普通になるはずだから。
「ま、ルーカスがそう言うんなら、私達も気にしねぇよ」
「お前が自分の翼と角を醜いって思ってるのが不思議だったんだよ。周りの目なんか気にする性分でもねぇだろ?」
「そうですよ! こんな純白で神々しいんですから!」
フランク、マルセル、ギャレットの3人が続け様に励ますようにそう言った。するとフランクがルーカスの角をじっと見ている。
「なんだい?」
「その角、ちょっと触ってみてもいいか? ほんとにちょっとだけだからさ!」
そう言うとフランクはルーカスの角に向けて手を伸ばした。
「うおっ! 痛ててててっ!!! 何するんですか、ノア様!」
ルーカスの角に触れる寸前に、丁度ルーカスの元へ戻って来たリヴァイがフランクの手首を強く掴み止めに入った。
「……今のは自業自得だろ」
「殿下に触れるな」
「こら、僕の友人に乱暴しない。レイアは許すくせに」
そう言ってルーカスはリヴァイの手を自身の角まで持っていき触れさせた。
「……息子ですので」
「おや、その息子にまで嫉妬をしているちぃは、誰だったかな?」
「…………」
ルーカスが揶揄うと、拗ねた様にリヴァイは黙り込む。しかしルーカスの角に触れているリヴァイの手の親指が、仕返しと言わんばかりに角と額の生え際を擽るように撫でた。
するとルーカスの背筋がぞわりとし、ルーカスは慌ててリヴァイから距離を取り角を隠すように手で覆う。
「擽ったい……」
その反応を見て、リヴァイは少しだけ満足そうに口角をあげた。
「フランク、腕は大丈夫かい? ああ、少し赤くなっているね。リヴ」
「……悪かった」
「いえ! 元はと言えばルーカスに触れようとした私が悪いので……」
ルーカスに名を呼ばれ、納得していないながらも謝罪したリヴァイに、フランクが慌ててそう言った。
「医務室に行ってくるかい?」
「いや、手加減して下さってるからもう痛くはねぇよ」
「じゃ、俺らもそろそろ誰か誘いに行くとするか」
「そうだね。テオ様、ノア様、後程にまた」
マルセルとギャレットがそう言うと、フランクとヘクター達を連れて行ってしまった。
「……殿下、私と踊って下さいませんか?」
「お説教で疲れているのでは無いかい?」
「いいえ」
「そう? では勿論、喜んで」
ルーカスがにこりと笑って手を取ると、2人は広い場所まで移動しダンスを踊ったのだった。
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