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王位継承編
18 【全自動】服を洗濯して乾かす魔導具
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「さて、次はゴムゴムスライムの素材だな」
先頭を歩くヤマザキが目標を確認する。
というのも、連れて来たパーティ。つまりヤマザキの愉快な仲間たちは、基本的に自由な人たちだったのだ。
川のせせらぎが響く、アイラの森の中。
流れる川の水を飲んで、「うまい」とデュワーズ。
魚を見て、「美味しそう……」と焼き魚を想像するヒビキ。
「ってことがあってハイランド王国にいるんだぁ」
マッカランの過去の話を聞いて、「えんえん」「しくしく」と涙するラフロイグとモンキー先生。
その先生の肩で寝る小猿・スモーキー。
みんなで楽しく冒険していたが、目的の魔物がなかなか見つからない。
「ゴムゴムスライムいないなぁ……」
ヤマザキは、改めてスライムのことを考えた。
スライムとは粘液性の高い半固形の魔物。
それなら水の近くにいるだろう。そう思って湖から川沿いを移動し、滝口まで歩いてきた。
「うわー綺麗!」
「神秘的な滝つぼですね」
デュワーズとヒビキが感動している。
眼前には、流水が急激に落下する滝が見える。ひんやりと涼しくて、とても癒される空間だった。
「気持ちいっすね、兄貴ぃ~」
「ああ……って俺が兄貴?」
「いいじゃないっすか」
「まぁ、かなり年上だしな」
「おじさんって呼ぶよりいいっしょ?」
「そうだな……わははは」
「あははは」
爆笑するラフロイグとヤマザキ。
「アイラの森はいいねぇ」
「はい、僕も初めて来ました」
モンキー先生とマッカランだ。
スモーキーはまだ夢の中にいる。
ヤマザキは、すっと新鮮な空気を吸った。
「ふぅ、もういいや……」
え? とみんな顔をあげた。
あんなに魔導具作りを頑張っていたのに、あきらめてしまうのか。
「おじさん、帰るの?」
「冒険は終わりですか?」
デュワーズとヒビキの質問に、「うん」と答える。
「メタルゴーレムと約束したんだ。森を汚さないって……だからゴムゴムスライムを無理に倒さなくてもいいや」
ふっ、とヒビキは笑った。
ニヤニヤしてるデュワーズは、両手を頭の後ろで組む。
「おじさんらしくていいですね」
「ほんっと、ゆったりしてるよね」
二人は顔を合わせて、うんうん、と首を縦に振る。
仲良いじゃん、とヤマザキは思った。
そしてマッカランの方へ顔を向ける。
「魔力を小さくしてくれないか?」
「なぜだい?」
「魔物たちに警戒されたくない。俺は考え方を変えたよ」
「ふぅん、どのようにだい?」
「無理に魔物を倒さない」
「はぁ?」
「モンキー先生とスモーキーのようになりたいのさ」
「わけ分かんないねぇ、でもあんたがそう言うなら、魔力を抑えるよぉ」
すっとマッカランは目を閉じる、
彼女はみなぎる魔力量を、グッと小さくした。
もっともヤマザキには見えないが、ヒビキたちが驚愕するほどの魔力コントロールであった。
モンキー先生は、心配そうにヤマザキを見た。
「本当にいいですか?」
ああ、とヤマザキが答えた。そのとき!
ぴょん、と一匹のまんまるスライムが川から飛び出てきた。
大人が両手を広げて、抱っこできるほどの大きさだ。
いや、一匹だけじゃない。
二匹、三匹、と次々と大量に出てくる。赤、青、黄、緑……色々なスライムのお出ましだ。
ヤマザキは、ニコッと笑った。
まったく敵対心がない。
そうスライムたちは思ったのか。ぬるぬるとヤマザキたちに近づいてくる。
「なあ、スライムたちに聞きたいんだけど」
突然、ヤマザキが話しかけたので、スライムたちは、ビクッとした。
だが、心の優しい人間と交流できるのが嬉しいのか、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。
「この中にゴムゴムスライムはいるかな?」
きょろきょろ、とスライムたちは自分たちの色を確認した。
ちょっと待ってね、呼んでくるから、と言っているような、そんな気がした。
どうやらヤマザキは、スライムの言葉が理解できるらしい。
「マジか……」
と、モンキー先生は身体を震わせる。
「ヤマザキさん! 魔物と話せるんですか?」
「うん、さっきメタルゴーレムに頭突きされてから、何となく」
「それ覚醒したんですよ!」
「どういうこと?」
「強い魔力を注ぎ込まれると覚醒するんです。もっとも才能がないとダメですが」
「ほう」
「ヤマザキさんいいですか……あなたの魔法属性は闇です」
闇? と聞き返した。
モンキー先生は、「はい」と説明を続ける。
「僕は基本的に土魔法使いですが、微量に闇の魔力があるのでスモーキーと仲良くなれたんです」
「ふぅん、でも俺の魔力は5って魔術師たちが言ってたぜ。しかも無能だ、雑魚だってさ」
「それは所詮、ただの魔導計測器の数字です。細かい属性なんて測れないのです。特に闇と無は計測が困難なんですよ」
「そうなのか」
「はい、城の魔術師たちはバカです。ヤマザキさんのような貴重な存在をほったらかして、レストランのコックにしておくんだから。まぁ、料理の腕も天下一ですけどね、あはは」
「それは、どうも。ところで、闇の魔力がある人って他にもいるの?」
「現在、ハイランド王国で闇魔法が使える人間は僕と、もう一人しかいません」
「だれ?」
「ダニエル王です」
あっそ、とヤマザキは言うと、ポケットから飴を取り出して、ぽいっと口に入れる。甘い、はちみつ飴だ。
みんな、モンキー先生の言葉を興味深く聞いていた。スライムたちもだ。
魔物は人間たちの言葉が分かる。
しかし話すことはできない。したがって、超音波でヤマザキに意思を伝えていた。海の生き物・イルカの会話と同じように。
すると赤色のスライムが、ぴょんと跳ねた。何か言っているようだ。
「ん? ゴムゴムがいたって? ぺろぺろ」
スライムたちは、ぴょんぴょん跳ねる。
今、呼んでる、と言っているらしい。
モンキー先生は大きく手を叩き、褒め称えた。
「ヤマザキさんヤバいです! 僕の闇魔力ではスライムたちと会話できませんよ! 圧倒的な闇です!」
「やめてよ、闇、闇って……何か俺が病気みたいじゃん」
「でも、闇なんですよ! ヤマザキさんは!」
一人で盛り上がるモンキー先生。
と、そのとき。スライムの中から、黒いスライムが、ぴょんと出てきた。
ちょっと恥ずかしがり屋のようだ。頬を赤く染めている。
ヤマザキは、ニコッと笑って挨拶をした。
「おれはヤマザキ、君はゴムゴムスライム?」
「ゴムッ」
こくっとスライムはうなずいた。
漆黒の艶がある丸い形状は、ゴムっぽい弾力がある。
マッカランは、「くくくっ」と笑う。
「なぁ、倒さないならどうやってこいつの素材を入手するのさぁ?」
友達になる、とヤマザキは答えた。
そして、すっと右手を差し伸べる。まるで握手するかのように。
「君が必要なんだ、いっしょに来てくれないか? ぺろぺろ」
「ゴムム……」
少しだけ近づいた。
だが、やっぱり恥ずかしいらしい。じりじりと後ろに下がってしまう。
「ふつう、すぐに仲良くなれないよね」
「おじさん、急ぎすぎです」
デュワーズとヒビキからダメ出しされた。
まぁ、そうだろうな。
とは思いつつも、何とかならないかな、と考える。
するとラフロイグが、「兄貴」と鼻をかきながら、
「エサあげたらどうっすか? 犬みたいに、わんわんって」
とアドバイスしてくれた。
たしかに、と思いポケットを探る。
「舐めるてみるか? ぺろぺろ」
「ゴム……」
ぽいっと黄金色の飴を放り投げた。
ぱくり、ぺろぺろ……ゴムゴムスライムは飴を舐める。
「口、あるんだ……」
デュワーズは唖然とした。
私も食べたい、とヒビキはよだれを垂らす。
ぺろぺろ……。
ぺろぺろ……。
ゴムゴムスライムは飴を舐め続ける。
どうだ? 仲良くなれるだろうか。
しばらくすると、ニコッと笑った。
「魔物って笑うんだ……」
デュワーズはさらに唖然とした。
おじさん、私にもください! とヒビキは飴をもらう。ぱくり、ぺろぺろ……。
「甘ぁ~い! これは仲良しの味です!」
ヒビキは両手をほっぺに当てて叫ぶ。
すると、ゴムッ! とゴムゴムスライムはヤマザキの両手に乗った。ちょっと重い。
「君、もっちりしてるね~」
「ゴム~」
ゴムゴムスライムが仲間に加わった。
めっちゃ、「ゴムゴムゴムゴム」言っている。
デュワーズは楽しそうに触っていた。
「かっわいい~♡」
「ゴムム~」
ヒビキは首を傾げた。
まったく魔物の気持ちが分からない。
「おじさん、何と言ってるんですか?」
「えっと、ぼく悪いスライムじゃないよ……」
「もういいです」
ヒビキは歩き出した。
もう冒険は終わり、といった感じだ。
あはは、とラフロイグは笑う。
「戦闘なしで魔物を仲間にするなんて、兄貴らしいっすね!」
「うん、戦わずして勝つ」
つんつん、と背中を突かれた。
マッカランが不服そうに腕を組んでいる。
「もう戦闘はなしかぇ? 魔力の不完全燃焼なんだよぉ」
「まぁ、また冒険しようぜ。ローランド地方とか気になる」
「いいねぇ、頼むよぉ、魔力が溢れてたまんないからねぇ」
「うん……」
戦闘できなくて、ムラムラしているマッカラン。
ちょっとよく分からない感情で、ヤマザキは、「ふっ」と笑った。
モンキー先生は、ぱちぱちと拍手している。
「やりましたね、ヤマザキさん」
「ああ」
「でも、どうやって素材を手に入れるつもりですか?」
「ん~、ちょっと聞いてみる」
抱っこするゴムゴムスライムと会話をするヤマザキ。
はたから見たら可愛くて、何とも微笑ましい。
しばらくすると、ゴムン、とゴムゴムスライムの一部分がちぎれた。
なんと、自分の身体を分けてくれるらしい。ヤマザキは嬉しいながらも、「大丈夫か?」と心配した。
「ゴムゴムン」
「ああ、よかった……自然と復活するのか」
「ゴムッ!」
「え? そのかわり飴をくれって? わかったわかった」
ゴムゴムスライムの開いた口に、ぽいっと飴を放り投げるヤマザキであった。
◉
「よっこいしょういち!」
どすん、と白い箱型の魔導具を床に置く。
ここは貴族街にある集合住宅。
モンキー先生の部屋に改良した魔導具を配達する、二人の男がいた。
「兄貴、けっこう重いっすね」
「ああ、だからラフロイグに手伝ってもらってるんじゃないか」
ヤマザキとラフロイグだ。
スモーキーが、「ウキキ!」久しぶりやな、と挨拶をする。
「お! スモーキー元気か?」
「ウッキキー!」
「え? モンキー先生がトイレの扉を閉めないだって……おい、気をつけなよ先生」
すいません、と汗をかくモンキー先生。
それより、とラフロイグが白い箱に触れる。
「こいつ、どこに置くんすか?」
「そうだな、ホースで水を捨てるから風呂場の近くがいいな」
「じゃあ、ここっすか?」
「うん、じゃあ試運転しよう」
ヤマザキは両手を広げた。
「じゃーん! 全自動、服を洗濯して乾かす魔導具だ!」
みんな、唖然とする。
モンキー先生は、「あの」と手をあげた。
「どうやって使うんですか?」
「簡単! このボタンが魔源」
「まげん?」
「うん、このボタンを押すと、ゴムに包まれた無の魔石から魔力が生まれる。そして、金属の配線に魔力が伝導して……このボタンを押すと洗濯が始まり、そのまますすぎ洗いまでやってくれる。運転時間はつまみを回せば調整できるぞ」
「おお、すごく簡単になってる! これなら主婦は歓喜ですね!」
ちょっと奥さん、驚くのはまだ早いわ! とヤマザキは続ける。ちょっとおねえっぽい感じで話すから、キモい。
「あらぁ、今日は雨だわ~困ったわ~洗濯物、乾かないじゃな~い」
「え? 主婦?」
「洗濯が干せないこんな日は、このボタンを押せ! 火と風の魔石を装着しておいた。これで乾燥までやってしまう。つまり雨の日でもふかふか、ぽかぽかに服が乾くぞ!」
神……と泣きながらモンキー先生は両手を合わせて拝んだ。
スモーキーも、「ウキキ」と泣いている。
何なんだ、こいつら、とラフロイグは呆れ気味だ。
それでも、最上階の眺めは最高であった。
自分の生まれた街が、あんなに小さい。
美しい川も橋も、遠くにはモーレンジの森の建設された慰霊碑も見える。
まさに絶景のロケーションだ。貴族はこんなところに住んでいるんだな、と思った。
「ラフロイグ、この家に興味があるのか?」
「ん、まぁ、景色がいいなぁって」
「そうだな。城には負けるが、いい景色だ」
「でも、俺には合わないっすね」
「そうか?」
「ええ、仲間と外で焚き火してた方がいいっす」
そうだろうな、とヤマザキは苦笑した。
貴族のモンキー先生。貧民のラフロイグ。奇妙な組み合わせだが、ヤマザキのおかげで知り合いになれた。
「ありがとう、ラフロイグ」
「いいっすよ、モンキー先生」
二人は握手を交わした。
ここには階級の差別なんてない。いっしょに冒険をした友達ということ以外、他にないのだ。
ヤマザキは外を眺める。
森の中に建つ慰霊碑が、きらりと太陽の反射で光り輝いて見えた。
「あ、ヤマザキさん、冷蔵魔導具も見てくれます? 最近、調子悪くて」
「おまっ、これ魔石を磨いてないな?」
「すいません、家事が苦手で……えんえん」
「ウキキー!」
「あ~あ、泣くな泣くな、修理してやるから」
この人、本当に先生か? とラフロイグは思う。
魔石が復活した冷蔵魔導具は、冷え冷えだ。ぱかっと扉を開け、中身を取り出したスモーキーは、もぐもぐとバナナを食べるのであった。
「ウキキー!」
先頭を歩くヤマザキが目標を確認する。
というのも、連れて来たパーティ。つまりヤマザキの愉快な仲間たちは、基本的に自由な人たちだったのだ。
川のせせらぎが響く、アイラの森の中。
流れる川の水を飲んで、「うまい」とデュワーズ。
魚を見て、「美味しそう……」と焼き魚を想像するヒビキ。
「ってことがあってハイランド王国にいるんだぁ」
マッカランの過去の話を聞いて、「えんえん」「しくしく」と涙するラフロイグとモンキー先生。
その先生の肩で寝る小猿・スモーキー。
みんなで楽しく冒険していたが、目的の魔物がなかなか見つからない。
「ゴムゴムスライムいないなぁ……」
ヤマザキは、改めてスライムのことを考えた。
スライムとは粘液性の高い半固形の魔物。
それなら水の近くにいるだろう。そう思って湖から川沿いを移動し、滝口まで歩いてきた。
「うわー綺麗!」
「神秘的な滝つぼですね」
デュワーズとヒビキが感動している。
眼前には、流水が急激に落下する滝が見える。ひんやりと涼しくて、とても癒される空間だった。
「気持ちいっすね、兄貴ぃ~」
「ああ……って俺が兄貴?」
「いいじゃないっすか」
「まぁ、かなり年上だしな」
「おじさんって呼ぶよりいいっしょ?」
「そうだな……わははは」
「あははは」
爆笑するラフロイグとヤマザキ。
「アイラの森はいいねぇ」
「はい、僕も初めて来ました」
モンキー先生とマッカランだ。
スモーキーはまだ夢の中にいる。
ヤマザキは、すっと新鮮な空気を吸った。
「ふぅ、もういいや……」
え? とみんな顔をあげた。
あんなに魔導具作りを頑張っていたのに、あきらめてしまうのか。
「おじさん、帰るの?」
「冒険は終わりですか?」
デュワーズとヒビキの質問に、「うん」と答える。
「メタルゴーレムと約束したんだ。森を汚さないって……だからゴムゴムスライムを無理に倒さなくてもいいや」
ふっ、とヒビキは笑った。
ニヤニヤしてるデュワーズは、両手を頭の後ろで組む。
「おじさんらしくていいですね」
「ほんっと、ゆったりしてるよね」
二人は顔を合わせて、うんうん、と首を縦に振る。
仲良いじゃん、とヤマザキは思った。
そしてマッカランの方へ顔を向ける。
「魔力を小さくしてくれないか?」
「なぜだい?」
「魔物たちに警戒されたくない。俺は考え方を変えたよ」
「ふぅん、どのようにだい?」
「無理に魔物を倒さない」
「はぁ?」
「モンキー先生とスモーキーのようになりたいのさ」
「わけ分かんないねぇ、でもあんたがそう言うなら、魔力を抑えるよぉ」
すっとマッカランは目を閉じる、
彼女はみなぎる魔力量を、グッと小さくした。
もっともヤマザキには見えないが、ヒビキたちが驚愕するほどの魔力コントロールであった。
モンキー先生は、心配そうにヤマザキを見た。
「本当にいいですか?」
ああ、とヤマザキが答えた。そのとき!
ぴょん、と一匹のまんまるスライムが川から飛び出てきた。
大人が両手を広げて、抱っこできるほどの大きさだ。
いや、一匹だけじゃない。
二匹、三匹、と次々と大量に出てくる。赤、青、黄、緑……色々なスライムのお出ましだ。
ヤマザキは、ニコッと笑った。
まったく敵対心がない。
そうスライムたちは思ったのか。ぬるぬるとヤマザキたちに近づいてくる。
「なあ、スライムたちに聞きたいんだけど」
突然、ヤマザキが話しかけたので、スライムたちは、ビクッとした。
だが、心の優しい人間と交流できるのが嬉しいのか、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。
「この中にゴムゴムスライムはいるかな?」
きょろきょろ、とスライムたちは自分たちの色を確認した。
ちょっと待ってね、呼んでくるから、と言っているような、そんな気がした。
どうやらヤマザキは、スライムの言葉が理解できるらしい。
「マジか……」
と、モンキー先生は身体を震わせる。
「ヤマザキさん! 魔物と話せるんですか?」
「うん、さっきメタルゴーレムに頭突きされてから、何となく」
「それ覚醒したんですよ!」
「どういうこと?」
「強い魔力を注ぎ込まれると覚醒するんです。もっとも才能がないとダメですが」
「ほう」
「ヤマザキさんいいですか……あなたの魔法属性は闇です」
闇? と聞き返した。
モンキー先生は、「はい」と説明を続ける。
「僕は基本的に土魔法使いですが、微量に闇の魔力があるのでスモーキーと仲良くなれたんです」
「ふぅん、でも俺の魔力は5って魔術師たちが言ってたぜ。しかも無能だ、雑魚だってさ」
「それは所詮、ただの魔導計測器の数字です。細かい属性なんて測れないのです。特に闇と無は計測が困難なんですよ」
「そうなのか」
「はい、城の魔術師たちはバカです。ヤマザキさんのような貴重な存在をほったらかして、レストランのコックにしておくんだから。まぁ、料理の腕も天下一ですけどね、あはは」
「それは、どうも。ところで、闇の魔力がある人って他にもいるの?」
「現在、ハイランド王国で闇魔法が使える人間は僕と、もう一人しかいません」
「だれ?」
「ダニエル王です」
あっそ、とヤマザキは言うと、ポケットから飴を取り出して、ぽいっと口に入れる。甘い、はちみつ飴だ。
みんな、モンキー先生の言葉を興味深く聞いていた。スライムたちもだ。
魔物は人間たちの言葉が分かる。
しかし話すことはできない。したがって、超音波でヤマザキに意思を伝えていた。海の生き物・イルカの会話と同じように。
すると赤色のスライムが、ぴょんと跳ねた。何か言っているようだ。
「ん? ゴムゴムがいたって? ぺろぺろ」
スライムたちは、ぴょんぴょん跳ねる。
今、呼んでる、と言っているらしい。
モンキー先生は大きく手を叩き、褒め称えた。
「ヤマザキさんヤバいです! 僕の闇魔力ではスライムたちと会話できませんよ! 圧倒的な闇です!」
「やめてよ、闇、闇って……何か俺が病気みたいじゃん」
「でも、闇なんですよ! ヤマザキさんは!」
一人で盛り上がるモンキー先生。
と、そのとき。スライムの中から、黒いスライムが、ぴょんと出てきた。
ちょっと恥ずかしがり屋のようだ。頬を赤く染めている。
ヤマザキは、ニコッと笑って挨拶をした。
「おれはヤマザキ、君はゴムゴムスライム?」
「ゴムッ」
こくっとスライムはうなずいた。
漆黒の艶がある丸い形状は、ゴムっぽい弾力がある。
マッカランは、「くくくっ」と笑う。
「なぁ、倒さないならどうやってこいつの素材を入手するのさぁ?」
友達になる、とヤマザキは答えた。
そして、すっと右手を差し伸べる。まるで握手するかのように。
「君が必要なんだ、いっしょに来てくれないか? ぺろぺろ」
「ゴムム……」
少しだけ近づいた。
だが、やっぱり恥ずかしいらしい。じりじりと後ろに下がってしまう。
「ふつう、すぐに仲良くなれないよね」
「おじさん、急ぎすぎです」
デュワーズとヒビキからダメ出しされた。
まぁ、そうだろうな。
とは思いつつも、何とかならないかな、と考える。
するとラフロイグが、「兄貴」と鼻をかきながら、
「エサあげたらどうっすか? 犬みたいに、わんわんって」
とアドバイスしてくれた。
たしかに、と思いポケットを探る。
「舐めるてみるか? ぺろぺろ」
「ゴム……」
ぽいっと黄金色の飴を放り投げた。
ぱくり、ぺろぺろ……ゴムゴムスライムは飴を舐める。
「口、あるんだ……」
デュワーズは唖然とした。
私も食べたい、とヒビキはよだれを垂らす。
ぺろぺろ……。
ぺろぺろ……。
ゴムゴムスライムは飴を舐め続ける。
どうだ? 仲良くなれるだろうか。
しばらくすると、ニコッと笑った。
「魔物って笑うんだ……」
デュワーズはさらに唖然とした。
おじさん、私にもください! とヒビキは飴をもらう。ぱくり、ぺろぺろ……。
「甘ぁ~い! これは仲良しの味です!」
ヒビキは両手をほっぺに当てて叫ぶ。
すると、ゴムッ! とゴムゴムスライムはヤマザキの両手に乗った。ちょっと重い。
「君、もっちりしてるね~」
「ゴム~」
ゴムゴムスライムが仲間に加わった。
めっちゃ、「ゴムゴムゴムゴム」言っている。
デュワーズは楽しそうに触っていた。
「かっわいい~♡」
「ゴムム~」
ヒビキは首を傾げた。
まったく魔物の気持ちが分からない。
「おじさん、何と言ってるんですか?」
「えっと、ぼく悪いスライムじゃないよ……」
「もういいです」
ヒビキは歩き出した。
もう冒険は終わり、といった感じだ。
あはは、とラフロイグは笑う。
「戦闘なしで魔物を仲間にするなんて、兄貴らしいっすね!」
「うん、戦わずして勝つ」
つんつん、と背中を突かれた。
マッカランが不服そうに腕を組んでいる。
「もう戦闘はなしかぇ? 魔力の不完全燃焼なんだよぉ」
「まぁ、また冒険しようぜ。ローランド地方とか気になる」
「いいねぇ、頼むよぉ、魔力が溢れてたまんないからねぇ」
「うん……」
戦闘できなくて、ムラムラしているマッカラン。
ちょっとよく分からない感情で、ヤマザキは、「ふっ」と笑った。
モンキー先生は、ぱちぱちと拍手している。
「やりましたね、ヤマザキさん」
「ああ」
「でも、どうやって素材を手に入れるつもりですか?」
「ん~、ちょっと聞いてみる」
抱っこするゴムゴムスライムと会話をするヤマザキ。
はたから見たら可愛くて、何とも微笑ましい。
しばらくすると、ゴムン、とゴムゴムスライムの一部分がちぎれた。
なんと、自分の身体を分けてくれるらしい。ヤマザキは嬉しいながらも、「大丈夫か?」と心配した。
「ゴムゴムン」
「ああ、よかった……自然と復活するのか」
「ゴムッ!」
「え? そのかわり飴をくれって? わかったわかった」
ゴムゴムスライムの開いた口に、ぽいっと飴を放り投げるヤマザキであった。
◉
「よっこいしょういち!」
どすん、と白い箱型の魔導具を床に置く。
ここは貴族街にある集合住宅。
モンキー先生の部屋に改良した魔導具を配達する、二人の男がいた。
「兄貴、けっこう重いっすね」
「ああ、だからラフロイグに手伝ってもらってるんじゃないか」
ヤマザキとラフロイグだ。
スモーキーが、「ウキキ!」久しぶりやな、と挨拶をする。
「お! スモーキー元気か?」
「ウッキキー!」
「え? モンキー先生がトイレの扉を閉めないだって……おい、気をつけなよ先生」
すいません、と汗をかくモンキー先生。
それより、とラフロイグが白い箱に触れる。
「こいつ、どこに置くんすか?」
「そうだな、ホースで水を捨てるから風呂場の近くがいいな」
「じゃあ、ここっすか?」
「うん、じゃあ試運転しよう」
ヤマザキは両手を広げた。
「じゃーん! 全自動、服を洗濯して乾かす魔導具だ!」
みんな、唖然とする。
モンキー先生は、「あの」と手をあげた。
「どうやって使うんですか?」
「簡単! このボタンが魔源」
「まげん?」
「うん、このボタンを押すと、ゴムに包まれた無の魔石から魔力が生まれる。そして、金属の配線に魔力が伝導して……このボタンを押すと洗濯が始まり、そのまますすぎ洗いまでやってくれる。運転時間はつまみを回せば調整できるぞ」
「おお、すごく簡単になってる! これなら主婦は歓喜ですね!」
ちょっと奥さん、驚くのはまだ早いわ! とヤマザキは続ける。ちょっとおねえっぽい感じで話すから、キモい。
「あらぁ、今日は雨だわ~困ったわ~洗濯物、乾かないじゃな~い」
「え? 主婦?」
「洗濯が干せないこんな日は、このボタンを押せ! 火と風の魔石を装着しておいた。これで乾燥までやってしまう。つまり雨の日でもふかふか、ぽかぽかに服が乾くぞ!」
神……と泣きながらモンキー先生は両手を合わせて拝んだ。
スモーキーも、「ウキキ」と泣いている。
何なんだ、こいつら、とラフロイグは呆れ気味だ。
それでも、最上階の眺めは最高であった。
自分の生まれた街が、あんなに小さい。
美しい川も橋も、遠くにはモーレンジの森の建設された慰霊碑も見える。
まさに絶景のロケーションだ。貴族はこんなところに住んでいるんだな、と思った。
「ラフロイグ、この家に興味があるのか?」
「ん、まぁ、景色がいいなぁって」
「そうだな。城には負けるが、いい景色だ」
「でも、俺には合わないっすね」
「そうか?」
「ええ、仲間と外で焚き火してた方がいいっす」
そうだろうな、とヤマザキは苦笑した。
貴族のモンキー先生。貧民のラフロイグ。奇妙な組み合わせだが、ヤマザキのおかげで知り合いになれた。
「ありがとう、ラフロイグ」
「いいっすよ、モンキー先生」
二人は握手を交わした。
ここには階級の差別なんてない。いっしょに冒険をした友達ということ以外、他にないのだ。
ヤマザキは外を眺める。
森の中に建つ慰霊碑が、きらりと太陽の反射で光り輝いて見えた。
「あ、ヤマザキさん、冷蔵魔導具も見てくれます? 最近、調子悪くて」
「おまっ、これ魔石を磨いてないな?」
「すいません、家事が苦手で……えんえん」
「ウキキー!」
「あ~あ、泣くな泣くな、修理してやるから」
この人、本当に先生か? とラフロイグは思う。
魔石が復活した冷蔵魔導具は、冷え冷えだ。ぱかっと扉を開け、中身を取り出したスモーキーは、もぐもぐとバナナを食べるのであった。
「ウキキー!」
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こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
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