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序章篇
8 叛乱、興る-3-
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士官たちは司令室の巨大モニターを茫然と見つめていた。
ペルガモンが巨費を投じて整備したここには、彼の政治に必要な多くの機能が搭載されている。
国の象徴ともいえる宮殿に物々しい装備を施すあたりは彼らしいが、各地から寄せられるデータはどれも怒りの種にしかならない。
「なんだこれはっ!?」
ペルガモンは激怒した。
領土を示す地図が耳障りな警告音とともに赤く染まる。
小さな赤い点が国境付近のラウアン地区で灯り、その数秒後に隣接するオーヴォ地区、エゼル大湖に伸びる。
さらに数分後、そこからはるか南の山脈を這うように無数の赤い光が灯った。
「申し上げます! クレスタ東で暴動! ズゥーカの工廠が何者かに制圧されています!」
「申し上げます! アルター地区で第二小隊が叛乱、将校を人質にしているとの情報が! オーヴォ地区との交信が途絶えました! オットー指揮官の……」
叛乱が起こったことを示す赤い点は東西に現れ、瞬く間に全土に伝播した。
「申し上げます! ローンロッド港の施設、14……」
「うるさい! 見れば分かる!」
目を離したわずかな間にも、赤い点はウイルスのように増殖している。
(この同時多発の叛乱……周到に準備されたものなのか……?)
類を見ない規模の叛逆の報せに、士官たちの顔も青ざめていた。
「クレスタ基地を占拠した集団の正体が確認できました。ゲルバッドです。さらに北、オルコード海域の封鎖にはバルダーズ・ネアンが関与していることが判明しました」
また怒鳴りつけられるのを恐れ、彼らは声量を落として報告した。
「ゲルバッドにバルダーズ・ネアンだと……?」
どちらも危険分子として指定されている第一級のテロ集団だ。
規模が大きく世間に与える影響は大として、わずかな情報でも討伐隊を送り込んで殲滅してきた。
特に後者は昨年、ついに本拠地を見つけ出し、幹部を抹殺したことで完全に潰えたとの報告を受けている。
「両組織は他十数カ所の暴動に関与していると思われます」
「なぜだ!」
芽は摘んできた。
だが勢力は衰えるどころか武装勢力は短時間で政府を翻弄するには充分すぎるほどの実力を有していた。
「これもあいつらかっ!」
彼はようやく理解した。
若くして才気煥発、自身の代行者として優れた手腕を発揮してきた重鎮は、味方であるうちは頼もしいが敵に回すと厄介だ。
二人に頼りすぎていたことを彼は今になって悔やんだ。
しかし後悔は一瞬でよい。
重鎮に対する失意は先日、プラトウ襲撃を命じたタークジェイとの交信が途絶え、レイーズたちとも連絡がとれなくなった時に味わっている。
“空が光り、巨大な蛇のような何かが艦を呑み込んだ。重鎮たちが生存者をレイーズの艦に収容保護したようだ”
プラトウの南にある基地から受けた報告は概ねこのようだった。
詳細な情報をよこすように命じたが、どういうワケか数時間後にはこの基地とも連絡がつかなくなった。
「報道管制を敷け! 国民の目に映すな!」
彼は即位して初めて“国民”という言葉を遣った。
「ただちに鎮圧しろ。煽動者も呼応した者もひとり残らず捕らえ――殺せ」
もはや重鎮が裏切ったかどうかは問題ではない。
二人にこだわるよりも、この全土に燃え広がった火災を鎮めるのが先だ。
主要な戦力は諸国との戦に赴いている。
これまでの内乱は現地の部隊で押さえ込める程度のものばかりだったため、今回の騒動に対応できる充分な準備がなかった。
まるで巨大な敵国が領土内に突然出現したかのような現況に、彼の権限に於いて命じられるのは残存する全戦力の投入のみである。
牽制も威嚇も交渉も不要の、彼にとっては久しぶりの殺戮だ。
「逆らう者は皆殺しにしろ!」
鎮圧は大都市から、という彼らしい単純な指示が与えられる。
残念ながら僻地の小競り合いにまで送り出せる戦力はない。
しかも本来ならそれを押さえるべき地方の軍でさえ叛乱に加わったという地域もあるくらいだから、政府の受けた傷は想像以上に大きい。
「わしも出るぞ。愚か者どもに無慈悲な死を与えてやる」
その時、宮殿の外で爆発が起こった。
空が光り、続いて二度、三度と地面が揺れる。
「まさか……もうここまで来ているのか……?」
司令室を見回したペルガモンは出撃を思いとどまった。
いま自分が離れれば対応に遅れがでるかもしれないという不安がよぎった。
ペルガモンが巨費を投じて整備したここには、彼の政治に必要な多くの機能が搭載されている。
国の象徴ともいえる宮殿に物々しい装備を施すあたりは彼らしいが、各地から寄せられるデータはどれも怒りの種にしかならない。
「なんだこれはっ!?」
ペルガモンは激怒した。
領土を示す地図が耳障りな警告音とともに赤く染まる。
小さな赤い点が国境付近のラウアン地区で灯り、その数秒後に隣接するオーヴォ地区、エゼル大湖に伸びる。
さらに数分後、そこからはるか南の山脈を這うように無数の赤い光が灯った。
「申し上げます! クレスタ東で暴動! ズゥーカの工廠が何者かに制圧されています!」
「申し上げます! アルター地区で第二小隊が叛乱、将校を人質にしているとの情報が! オーヴォ地区との交信が途絶えました! オットー指揮官の……」
叛乱が起こったことを示す赤い点は東西に現れ、瞬く間に全土に伝播した。
「申し上げます! ローンロッド港の施設、14……」
「うるさい! 見れば分かる!」
目を離したわずかな間にも、赤い点はウイルスのように増殖している。
(この同時多発の叛乱……周到に準備されたものなのか……?)
類を見ない規模の叛逆の報せに、士官たちの顔も青ざめていた。
「クレスタ基地を占拠した集団の正体が確認できました。ゲルバッドです。さらに北、オルコード海域の封鎖にはバルダーズ・ネアンが関与していることが判明しました」
また怒鳴りつけられるのを恐れ、彼らは声量を落として報告した。
「ゲルバッドにバルダーズ・ネアンだと……?」
どちらも危険分子として指定されている第一級のテロ集団だ。
規模が大きく世間に与える影響は大として、わずかな情報でも討伐隊を送り込んで殲滅してきた。
特に後者は昨年、ついに本拠地を見つけ出し、幹部を抹殺したことで完全に潰えたとの報告を受けている。
「両組織は他十数カ所の暴動に関与していると思われます」
「なぜだ!」
芽は摘んできた。
だが勢力は衰えるどころか武装勢力は短時間で政府を翻弄するには充分すぎるほどの実力を有していた。
「これもあいつらかっ!」
彼はようやく理解した。
若くして才気煥発、自身の代行者として優れた手腕を発揮してきた重鎮は、味方であるうちは頼もしいが敵に回すと厄介だ。
二人に頼りすぎていたことを彼は今になって悔やんだ。
しかし後悔は一瞬でよい。
重鎮に対する失意は先日、プラトウ襲撃を命じたタークジェイとの交信が途絶え、レイーズたちとも連絡がとれなくなった時に味わっている。
“空が光り、巨大な蛇のような何かが艦を呑み込んだ。重鎮たちが生存者をレイーズの艦に収容保護したようだ”
プラトウの南にある基地から受けた報告は概ねこのようだった。
詳細な情報をよこすように命じたが、どういうワケか数時間後にはこの基地とも連絡がつかなくなった。
「報道管制を敷け! 国民の目に映すな!」
彼は即位して初めて“国民”という言葉を遣った。
「ただちに鎮圧しろ。煽動者も呼応した者もひとり残らず捕らえ――殺せ」
もはや重鎮が裏切ったかどうかは問題ではない。
二人にこだわるよりも、この全土に燃え広がった火災を鎮めるのが先だ。
主要な戦力は諸国との戦に赴いている。
これまでの内乱は現地の部隊で押さえ込める程度のものばかりだったため、今回の騒動に対応できる充分な準備がなかった。
まるで巨大な敵国が領土内に突然出現したかのような現況に、彼の権限に於いて命じられるのは残存する全戦力の投入のみである。
牽制も威嚇も交渉も不要の、彼にとっては久しぶりの殺戮だ。
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鎮圧は大都市から、という彼らしい単純な指示が与えられる。
残念ながら僻地の小競り合いにまで送り出せる戦力はない。
しかも本来ならそれを押さえるべき地方の軍でさえ叛乱に加わったという地域もあるくらいだから、政府の受けた傷は想像以上に大きい。
「わしも出るぞ。愚か者どもに無慈悲な死を与えてやる」
その時、宮殿の外で爆発が起こった。
空が光り、続いて二度、三度と地面が揺れる。
「まさか……もうここまで来ているのか……?」
司令室を見回したペルガモンは出撃を思いとどまった。
いま自分が離れれば対応に遅れがでるかもしれないという不安がよぎった。
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