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第七章 ~華やかで煌びやかな地下の世界・武士団ギルド編~
道場訓 六十五 ヤマトタウンの表と裏
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キキョウが死ぬ? それも惨たらしい目に遭って?
その言葉を聞いて俺は眉間に深くしわを寄せた。
「ギルド長、それは一体、どういう――」
ことですか、と聞こうとしたときだった。
「それってどういうことですか!」
エミリアが俺の言葉を掻き分けてコジローに尋ねる。
「確かにキキョウさんが非合法な魔薬を持っていたことは事実です……ですが、それで一般人に対して何かしらの犯罪を起こしたわけじゃありません。どうしてそれで死刑になるんですか?」
「まあ、落ち着けよ。本来、非合法な魔薬は前もって冒険者ギルドで購入したもので、目的と使用場所を提示して魔物限定で使用すれば罪に問われるようなことはない。凶悪な魔物が出没するダンジョンの下層や国が定めた闘技場とかだな。だが、あの嬢ちゃん――キキョウ・フウゲツの場合は違う」
そこでコジローは一拍の間を空けると、淡々とした口調で説明し始めた。
「キキョウの場合は冒険者ギルドではなく、よりにもよって裏社会の売人から魔薬を買ったんだろうな。しかも顧客リストに名前が載っていたということは、品質の良いブツをそれなりの連中から顔を知られた状態で買ったんだろう。だとしたら、キキョウもこうなることは遅かれ早かれ分かっていたはず」
待ってください、と俺はそこでコジローの話を中断させた。
「あなたの言いたいことはよく分かりました。でも俺たちも素人じゃない。非合法な魔薬のことは一般人よりもよく知っている。だからこそ、あなたの言った意味が分からないんです。どうして魔薬の購入と所持だけでキキョウが死刑になるんですか? それだけなら相応の保釈金を払えば釈放になるはずですが?」
それとも、と俺は言葉を続けた。
「このヤマトタウンでは非合法な魔薬の購入と所持だけで死刑になるんですか?」
そうとしかコジローの言葉を捉えられなかった。
ただ、そうなるとやはり腑に落ちない。
あまりにも罪に対するキキョウへの処罰が重すぎる。
などと考えていると、コジローは「お前さんは勘違いしている」と今度は俺を諭してくる。
「お前さんはキキョウが裁判沙汰になって死刑になると思ってんだろうが、実際はそんなことで死ぬんじゃない。ある場所に連れていかれて結果的に殺されることになるんだ」
俺とエミリアは互いの顔を見合わせ、頭上に疑問符を浮かべた。
それほどコジローの言っている意味が理解できなかったのだ。
コジローは俺を見ながら両腕を組む。
「話を少し戻そう。お前さんが心配したように、非合法な魔薬の購入と所持だけなら罪には問われるものの重罪にはならない。このヤマトタウンの役人、他だと警邏隊(街の警察組織)と呼ばれている連中が裏社会の奴らを取り締まる本当の目的は小遣い稼ぎと実績作りだ。それこそ顧客リストに名前が載っていたからといって、片っ端から裁判沙汰にして死刑なんてしていたら役人たちが裏社会の奴らから報復される」
そこまでは分かる。
分からないのはその先だった。
「ただ、最近になってその役人の連中の動きが妙におかしくなった。取り締まりが強化されたんだ。今までは1ヶ月に1~2回だった取り締まりが、ここ最近になって1週間に1回とかのペースになっている」
「それは良いことなのでは?」
訊いたのはエミリアだ。
「確かに事情を知らない人間からすれば、街の治安維持に貢献する良いことに聞こえるだろう……だがな、金髪の嬢ちゃん。世の中ってのは正しいことだけで動いているんじゃねえんだよ。この世ってのは陰と陽、つまり本来なら相反する2つの性質が上手いこと混ざり合って出来てるのさ」
「それはあなたたち武士団ギルドと任侠団のようにですか?」
こくりとコジローは頷いた。
「おうよ。俺たちが表なら任侠団どもが裏。互いに認め合うことはねえが、それでも俺たちは今まで上手いことやってヤマトタウンを表と裏から回してきたんだ……今まではな」
「今までは?」
俺とエミリアがほぼ同時に声を上げる。
「ああ、任侠団の連中にも存在価値はある。連中が俺たちの目に届かない場所に幅を利かせていたことで、道理も義理も分かってねえ手につかないゴロツキやチンピラ連中が大人しくしていたんだ。まあ、必要悪ってやつだな。ところが、最近になってある連中が任侠団に近づいたことでヤマトタウンの勢力図がおかしくなった。その連中ってのは――」
「〈暗黒結社〉ですね?」
続きの言葉は俺が引き継いだ。
「そうだ。魔法に関する事件の裏には必ず潜んでいるという〈暗黒結社〉。どうやら奴らと任侠団が裏で手を結んだらしくてな。お陰でヤマトタウンの裏の均衡がたちまち崩壊しちまった」
それだけじゃない、とコジローは忌々しく歯ぎしりした。
「どうやら連中は役人とも手を組んだらしく、俺たち武士団ギルドへの襲撃や個人の闇討ちなんかを積極的に行うようになりやがった。しかも俺たちがやり返そうとすると、俺たちだけが目をつけられちまう。そのせいでこっちはもうお手上げよ。旧友だったゲイルにも協力してもらい、色々と動いてみたんだがどうにもダメだ。全部が後手に回って埒が明かねえ」
コジローは仏頂面で首を左右に振った。
「それでもゲイルはまだ動いてくれると言ってくれたんだが、何せ勢いづいた任侠団どもの襲撃は激しくてな。特に俺に対する闇討ちがひどく、こうして武士団ギルドに立て籠もってねえと命がいくつあっても足りねえんだわ。そんで困っていたところにお前さんらが現れたってわけさ」
なるほど、だからゲイルさんは俺にコジローさんの護衛を頼んだのか。
そして、これでようやく武士団ギルドのサムライたちが殺気立っているのか納得した。
けれども、まだ肝心な部分が納得できていない。
「このヤマトタウンの現状は把握しました。けれど、まだ大事な部分の教えて貰っていません。なぜ、役人に捕まったキキョウは殺されるんですか? それにある場所とは一体?」
俺とエミリアが固唾を飲んでいると、コジローは「闘技場だ」と答えた。
「キキョウは任侠団が取り仕切る、裏の闘技場で開催されている闇試合の生贄として殺されるんだ」
その言葉を聞いて俺は眉間に深くしわを寄せた。
「ギルド長、それは一体、どういう――」
ことですか、と聞こうとしたときだった。
「それってどういうことですか!」
エミリアが俺の言葉を掻き分けてコジローに尋ねる。
「確かにキキョウさんが非合法な魔薬を持っていたことは事実です……ですが、それで一般人に対して何かしらの犯罪を起こしたわけじゃありません。どうしてそれで死刑になるんですか?」
「まあ、落ち着けよ。本来、非合法な魔薬は前もって冒険者ギルドで購入したもので、目的と使用場所を提示して魔物限定で使用すれば罪に問われるようなことはない。凶悪な魔物が出没するダンジョンの下層や国が定めた闘技場とかだな。だが、あの嬢ちゃん――キキョウ・フウゲツの場合は違う」
そこでコジローは一拍の間を空けると、淡々とした口調で説明し始めた。
「キキョウの場合は冒険者ギルドではなく、よりにもよって裏社会の売人から魔薬を買ったんだろうな。しかも顧客リストに名前が載っていたということは、品質の良いブツをそれなりの連中から顔を知られた状態で買ったんだろう。だとしたら、キキョウもこうなることは遅かれ早かれ分かっていたはず」
待ってください、と俺はそこでコジローの話を中断させた。
「あなたの言いたいことはよく分かりました。でも俺たちも素人じゃない。非合法な魔薬のことは一般人よりもよく知っている。だからこそ、あなたの言った意味が分からないんです。どうして魔薬の購入と所持だけでキキョウが死刑になるんですか? それだけなら相応の保釈金を払えば釈放になるはずですが?」
それとも、と俺は言葉を続けた。
「このヤマトタウンでは非合法な魔薬の購入と所持だけで死刑になるんですか?」
そうとしかコジローの言葉を捉えられなかった。
ただ、そうなるとやはり腑に落ちない。
あまりにも罪に対するキキョウへの処罰が重すぎる。
などと考えていると、コジローは「お前さんは勘違いしている」と今度は俺を諭してくる。
「お前さんはキキョウが裁判沙汰になって死刑になると思ってんだろうが、実際はそんなことで死ぬんじゃない。ある場所に連れていかれて結果的に殺されることになるんだ」
俺とエミリアは互いの顔を見合わせ、頭上に疑問符を浮かべた。
それほどコジローの言っている意味が理解できなかったのだ。
コジローは俺を見ながら両腕を組む。
「話を少し戻そう。お前さんが心配したように、非合法な魔薬の購入と所持だけなら罪には問われるものの重罪にはならない。このヤマトタウンの役人、他だと警邏隊(街の警察組織)と呼ばれている連中が裏社会の奴らを取り締まる本当の目的は小遣い稼ぎと実績作りだ。それこそ顧客リストに名前が載っていたからといって、片っ端から裁判沙汰にして死刑なんてしていたら役人たちが裏社会の奴らから報復される」
そこまでは分かる。
分からないのはその先だった。
「ただ、最近になってその役人の連中の動きが妙におかしくなった。取り締まりが強化されたんだ。今までは1ヶ月に1~2回だった取り締まりが、ここ最近になって1週間に1回とかのペースになっている」
「それは良いことなのでは?」
訊いたのはエミリアだ。
「確かに事情を知らない人間からすれば、街の治安維持に貢献する良いことに聞こえるだろう……だがな、金髪の嬢ちゃん。世の中ってのは正しいことだけで動いているんじゃねえんだよ。この世ってのは陰と陽、つまり本来なら相反する2つの性質が上手いこと混ざり合って出来てるのさ」
「それはあなたたち武士団ギルドと任侠団のようにですか?」
こくりとコジローは頷いた。
「おうよ。俺たちが表なら任侠団どもが裏。互いに認め合うことはねえが、それでも俺たちは今まで上手いことやってヤマトタウンを表と裏から回してきたんだ……今まではな」
「今までは?」
俺とエミリアがほぼ同時に声を上げる。
「ああ、任侠団の連中にも存在価値はある。連中が俺たちの目に届かない場所に幅を利かせていたことで、道理も義理も分かってねえ手につかないゴロツキやチンピラ連中が大人しくしていたんだ。まあ、必要悪ってやつだな。ところが、最近になってある連中が任侠団に近づいたことでヤマトタウンの勢力図がおかしくなった。その連中ってのは――」
「〈暗黒結社〉ですね?」
続きの言葉は俺が引き継いだ。
「そうだ。魔法に関する事件の裏には必ず潜んでいるという〈暗黒結社〉。どうやら奴らと任侠団が裏で手を結んだらしくてな。お陰でヤマトタウンの裏の均衡がたちまち崩壊しちまった」
それだけじゃない、とコジローは忌々しく歯ぎしりした。
「どうやら連中は役人とも手を組んだらしく、俺たち武士団ギルドへの襲撃や個人の闇討ちなんかを積極的に行うようになりやがった。しかも俺たちがやり返そうとすると、俺たちだけが目をつけられちまう。そのせいでこっちはもうお手上げよ。旧友だったゲイルにも協力してもらい、色々と動いてみたんだがどうにもダメだ。全部が後手に回って埒が明かねえ」
コジローは仏頂面で首を左右に振った。
「それでもゲイルはまだ動いてくれると言ってくれたんだが、何せ勢いづいた任侠団どもの襲撃は激しくてな。特に俺に対する闇討ちがひどく、こうして武士団ギルドに立て籠もってねえと命がいくつあっても足りねえんだわ。そんで困っていたところにお前さんらが現れたってわけさ」
なるほど、だからゲイルさんは俺にコジローさんの護衛を頼んだのか。
そして、これでようやく武士団ギルドのサムライたちが殺気立っているのか納得した。
けれども、まだ肝心な部分が納得できていない。
「このヤマトタウンの現状は把握しました。けれど、まだ大事な部分の教えて貰っていません。なぜ、役人に捕まったキキョウは殺されるんですか? それにある場所とは一体?」
俺とエミリアが固唾を飲んでいると、コジローは「闘技場だ」と答えた。
「キキョウは任侠団が取り仕切る、裏の闘技場で開催されている闇試合の生贄として殺されるんだ」
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