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第7章 レース編

第200話 お仕置き実行

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全てが用意されたアレグリアの闘技場では観客が主役たちを待っていた。
前回の闘技大会では闘技場の中に戦う場所が作ってあったが、今回は闘技台が全て撤去されて何も無い更地の状態だ。
これは全て”後半の為”の用意である。
会場にはいつもの様に実況を説明してくれる解説者が居て、広い闘技場にも魔法で声が届くようになっている。

既に会場は超満員だ。
宣伝を広めた甲斐が有った。
【龍王杯闘技大会で優勝した2人に告ぐ! 黒龍王の名において召喚する大陸最強の者達に勝つ事が出来れば、2人に龍の加護を与えん。ただし、負ければ今後一切の我が儘は行わないと国民の前で誓ってもらおう! 来たるべき決戦の日は○○で、当日は先着順の入場無料。ただし未成年はお断り】

【特別対決の後、黒龍王から武神達の戦いを国民にお披露目する】
これをイグレシアとペンタガラマにアレグリアの主要箇所に掲示したのだ。

10日前に特別な掲示版を出した途端、物凄い反響だった。
事実はエルヴィーノとアンドレアにパウリナ。
プリマベラにロリしか知らないのだから。
当然エルヴィーノに執拗に聞いて来る義父たちだ。
しかし、逃げ道も用意した。
それはアンドレアとプリマベラに硬く約束されたと義父たちに話したのだ。
自分の妻達が関与しているので逆ギレされてはかなわないと思ってくれたのだろう。

「しかし国王よ。私達以外で大陸最強とは片腹痛いなぁ」
「そうだ。我らこそ最強のコンビ。我らの上は存在しないのだ。ガァッハハハハッ」
(ハイハイ)

そして獣人の種族長達には招待状を出してある。
【この戦いを見る者は王族の加護が有り、その場に居ない種族は生き延びてみせよ】
意味が解らない種族長達だったが、黒龍王の招待で有れば行かない訳が無い。

直系聖女は内々的に知っているが、有力な聖女や教会関係者も多数招待してある。
ペンタガラマに来た事が無いイグレシアの教会関係者はまだ沢山居るので良い機会だとロリと相談しての事だ。

掲示版を出した次の日には闘技場に行列が出来ていた。
何故ならば無料だからだ。
今回は賭博では無く”見せしめ”なのだから。
戦い好きな獣人達が見たいと思わせる対戦と、彼らの心を強くとらえる効果をねらった印象的な宣伝文句だった。
細工は流々、仕上げを御覧じろって感じだな。

闘技会場には優勝者2人の説明をする司会進行兼解説者の声が制圧している。
あの時の戦いを見た者も大勢いるだろう。
応援の声が響いている。
そして選手の入場だ。

「それでは皆様お待ちかねの御両人のお出ましです。最近は究極の魔法変化を手に入れ、その姿は伝説の炎の精霊と酷似しているとか、噂ではその精霊本体では無いかと囁かれている、灼熱の魔法剣使いルブルム・ディアボリスとぉ、その姿を見た魔物はたちどころに逃げて行くと冒険者仲間達にとっては強ぉい味方でぇ、敵対者には必ず死を送ると言われるエクソシズモの登場でぇぇす!」

会場には大きな拍手と声援が送られている。
(恥ずかしいぃ。俺は過去にこんな恥ずかしいと思った事は無い)
変化の魔法で分からないとは言っても、ほぼ会場の者には知れ渡っている2人が考えたセリフを解説者に言わせているのだ。
(確かに2人には協力した。しかし、あの姿で堂々と紹介されている場面は恥ずかしくて直視出来ない。多分、俺の顔は赤くなっていると思う)
自分の事では無いが一応家族と言う認識が有るのだろう、とても真似できないとエルヴィーノは思っていた。

そして、黒龍王が呼びたされると歓声が鳴り響いた。
久しぶりだったので驚いたが、平静を装って中心へと向かう。
後ろには机に椅子を持って召使いが並んで歩いて来る。
所定の場所に配置され三人ならんで書面に名前を書いた。

その書面は二種類有り、一枚は
【黒龍王が召喚した者に勝てば、今後何をしても家族や一族に対する免罪符になる】
そしてもう一枚は
【黒龍王が召喚した者に負ければ、今後一切、家族や一族と国民には迷惑をかけない】
2人にとっては恐ろしい契約書だった。
書面には三人の名前が記され、2人組は不敵な微笑みを浮かべていた。

召喚する者の執拗な追及を退けられたのも、この免罪符のお蔭だ。
2人は歓喜して喜んでいたよ。
挙句にエルヴィーノが感謝されたくらいだ。
もう手に入れたも同然のように喜んでいる2人を見て哀れに思ったくらいだ。
全ては2人に首輪を付ける為だとも知らずに。
司会者から会場に説明がなされ、契約書は厳重に保管された。
勝負が決まった時点で不要になった契約書は焼却される事になっている。

司会進行兼解説者を含む義父の2人にも、戦いは全員が変身して行うと伝えて有り一旦全員が会場を後にした。
それは妻達も含めて四人が変身する場面を見せたかったのだ。
ルブルム・ディアボリスは”全員が変身して闘う”と聞いた時点でフォーレが変身したファルソだと思い込んでいた。
他にも同様の者が居て変化させるのだろうと。
そのようにネル殿にも話し、対策を練っていた。

「それでは再度対戦者の入場と黒龍王様による召喚の儀式をお願いします」
義父達は元の姿のままで中心に歩いて行った。
エルヴィーノは司会者からの要求で立ち上がり腕を上げた。
(本来はそんな必要は無いのだが、対面だとか威厳が無いとか義母に言われたからだ)
「我が最愛の者達よ、来い!」

すると会場に中心から離れた場所に召喚されし者達を見て驚いたのは父親達だ。
「何ぃ! 何故ロリが!」
「馬鹿なっ、何故パウリナが!」
闘技場の観衆もざわめいている。

「皆様ご覧ください。黒龍王様が召喚した大陸最強の2人とは聖魔法王国アルモニアの王妃、サンクタ・フェミナ様こと、ロリ・ヴァネッサ・シャイニング様とぉぉぉ、我らが国の王妃パウリナ・モンドラゴン様でございまぁぁぁぁぁす!」

2人の紹介で良く知る者達は、パウリナの召喚に疑問を持っていた。
それはロリの様な特別な力を持っていないと知っていたのだが、わざわざ呼び出された事に意味が有ると思いパウリナを凝視していた。

「お父様達、油断すると痛い目に合いますよ」
「くくくっ。ロリよ、父の強さを見せてやろう」
「今回はコテンパンにするんだからねぇ!」
「はぁぁ、パウリナよ。我の強さを知らないからそんな事を言えるのだ。良い機会だ。我らの強さを思い知るが良い!」

親子の対話が終わると司会者が指示を出す。
「それでは皆さん変化してください!」
「獣神変化!」と叫んだネル殿の身体が膨れ上がって行った。
もう1人も「プルガトリオ!煉獄」と叫ぶと有名な精霊の姿に成った。

「皆さんご覧ください。獣神変化と叫び身体が盛り上がって行きます。まさか獣王なる為に必要な特別の魔法を使えるとは思っても見ませんでしたぁ!」
だが闘技場の半分は知っている事実だ。
「その横に居た男が、まるで伝説の炎の精霊の様な姿をしております!」
これには多少ざわめく観衆だ。そして

サント・アルマドゥラ神聖魔闘鎧! 」
ロリの身体が発光し終息した後には金色こんじきに輝く黄金の鎧の上から純白のローブを羽織り、手には黄金の杖を持ち先端には七色に輝く、ロリの顔程ある石がはめ込んである。
「皆さんご覧ください! サンクタ・フェミナ様です。神聖女様です。私も初めて目の当たりにしましたが、眩いお姿は正に神々しい限りです!」
闘技会場に轟く声援が凄い! これは教会関係者だろう。
サンクタ・フェミナと連呼する声が鳴り響いている。

「続きまして最後の変化ですが、最後は黒龍王様の御妃であらせられるパウリナ妃様の変化です。黒龍王様からの指示に伴い説明の後で変化となります」
闘技会場が少しずつ静かになって行く。

「いにしえの時代より語り継がれた獣人の戦士が存在しました。獣人達の為に力を使いはたして消えて行った名も無い戦士。その者は群青の瞳をしていたと古文書には記されております。サンクタ・フェミナ様同様、龍の加護を持つパウリナ様が変化致します。括目してください! 伝説の神獣降臨で群青の聖戦士様の御来臨でぇぇぇぇぇす!」

「何だとぉぉぉ!」
親子の目が合いパウリナが「神獣降臨」と叫び飛び上がった。
正確には頭上に回転跳びだが、回転中に変化して現れた巨大な体躯は闘技会場の音を一切無くしてしまった。

その姿は
頭から背中、尻尾までフワフワの白銀の体毛で、中に金色の毛も混ざっている。
そして最大の特徴は額から延びる紺色の巨大な一本角に金色の螺旋模様が付いているのだ。
「ニャーゴ!」

巨体になっても可愛い泣き声だ。
道常神獣降臨は約3mの体長で、巨大な魔物と言っても過言では無いが、その身体から溢れるような気品は遠い最上段の闘技場に座ってみる獣人達にも肌で感じ取れた。

ドワァァァァ!! っと溢れ出す歓声だった。
何度か歓声は聞いた事も有るが、こんな凄いのは初めで全ての獣人達は鳥肌が立ってしまった。

「みっ、みなさん。御覧になられたでしょうか? 我が種族から、あの・・・あの伝説のぉ・・・」
司会者は泣いていた。
「申し訳ありません。感動しました。伝説の神獣降臨を行なえる者が存在した事に感謝しましょう」
闘技会場は叫び声や歓喜の声で何も聞こえない状態だ。
当然中心の四人も同じだ。
ロリはグラビダットを使いヒラリとパウリナの背中に乗った。
対戦相手の父親は口をだらしなく開け固まっていた。

そして、パウリナはゆっくりと駆け出したのだ。
一歩また一歩、空を駆って。
エルヴィーノは耳を塞ぎ周りを見渡すと、族長達が泣きながら叫んでいた。
他の獣人達もそうだ。
上空から観客の顔が解る位まで近寄りゆっくりと掛けて行く2人。
そしてロリが魔法を唱えた。

サントゥアリオ・ディ神の聖域オス」
「闘技会場の皆様、ご覧ください。サンクタ・フェミナ様が我々の為に広域防御壁を展開されております。黒龍王様に教えて頂きましたが、この聖なる魔法、サントゥアリオ・ディオスはこれから始まる戦いで観客の皆さんには魔法防御、物理防御を施し、一切危害を与え無くする為です。流石はサンクタ・フェミナ様です」
すると、教会関係者が負けじと腹の底から声を出し声援している。

会場全体を覆うような巨大な魔法防御壁を作り、中心で待つ父親の元に降り立った。
「おい、ヤバいな」
「あぁ、長引くと不味いぞ」
「初激で倒す勢いで行かないとダメか」
「全くだ。多分我らの必殺技も通用せんぞ」
「どんな攻撃をしてくるかだな」
「向こうの出方を見るか」
「あぁそうしよう」
親たちは回避に回ろうとしたその時。

「ご覧ください。全ての観客を覆い、気品漂うお体は優雅に空中を駆けておられます。そして中央に、まさに降臨されたようです!」

獣人族、教会関係者は先ほどまではバラバラの声援だったが、今1つの思いとなって闘技会場の外まで届いていた。

「会場の皆様、黒龍王からの助言です。”勝負は一瞬。括目せよ”と仰いました」
司会進行兼解説者の声を聴くと、闘技会場の音が無くなってしまった。
全ての目は四人を見ていた。

2対2。
距離は50m位。
先ほどまでの耳をつんざく音は無くなり、静寂が闘技会場を支配していた。
ジリジリと詰め寄るルブルム・ディアボリスとエクソシズモだが、娘達は念話で話していた。
それは何故かパウリナが神獣降臨した時だけ2人で念話出来るのだ。

(ねぇ、大丈夫かな?)
(ん? 威力の事)
(そうだよ)
(大丈夫よ。カマラダ様とラソン様が調整したでしょ)
(そうだけど)
魔法の練習で微妙な放出が可能になったパウリナだが、人に、まして父親に使うのは気が引けるのだ。
(大丈夫よ。気絶させるだけだから)
(・・・)
(カマラダ様とラソン様に私も信じて!)
(分かった。一緒に唱えて)
(勿論よ)

静寂に包まれる中、それは一瞬だった。
イラ・デ・ディオス神の怒り
「グルグルグルにゃぁ!」
ロリが杖を前方に掲げと叫ぶと同時に唸ったが誰にも聞こえていなかったようだ。
パウリナの角が電気を帯び、刹那の瞬間、細かい網目状の雷撃が闘技会場を覆い尽くした。
これは瞬時に回避する父達を想定して全方位に電撃を放ったのだ。
勿論背中の人には影響無しだ。
観客は闘技会場一面が一瞬光で見えなくなりバチンッと音が鳴ったのは理解した。

その場に倒れていたのは変化が解かれた男が2人だった。
「しょ、勝者は群青の聖戦士様とサンクタ・フェミナ様ああぁぁ!」
どわあああああぁぁっと湧き上がる闘技会場だ。
そして、すぐさま医療班が駆けつける。







お仕置き終了。
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