ヒロインかもしれない。

深月織

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【結婚式篇】

プログラムⅣ◆乾杯/受付嬢A

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(地味な顔のほうが、こういうときお得なんですよねー)
 高砂にいる新婦を見て、こっそりそう思った。
 着飾った姿が普段の装いとのギャップで何割も増しになっている。
(うんうん、綺麗ですよ鈴鹿ちゃん先輩。見違えましたよ)
 新婦の容姿を正直にランク付けるとすれば並の並、愛嬌のある笑顔がそれを底上げしている。
 印象で可愛らしいと思われる、普通の女性だ。
 それが晴れの場で、改めて整えてみせると、驚くほど綺麗に映える。
 自分や、秘書室の綺麗所のようにいつもキッチリ作っていると、多少着飾ったところであまり変化は見られない。
 どちらが良いのか個人の印象によるが。
 彼女と新婦とは一年だけ同じ部署にいて、新人社員と教育係として世話になった間柄だった。
 長身の自分としては、つむじが見下ろせそうな小柄な先輩に最初は驚いたものの、教育係としては要点を押さえて簡潔にわかりやすく指導してくれたので、見掛けに反してデキるなと思ったものだ。
 ――先輩、もうちょっと顔弄ってみません?
 幼く見られることを気にしているくせに、ほぼ素っぴんと変わらないナチュラルメイクから脱却しない鈴鹿に、昔そう訊ねたことがある。
「わたしが化粧しても七五三にしかならないし、失礼じゃない程度でいいんだよ」と笑って返されたが。
(手の込んだメイクは浮くだけだから、って言っていたけれど、なかなかどうして)
 プロの手によって今日の新婦は持ち前の童顔――もとい可愛らしさを損なわず、大人っぽく仕上げられていた。
 新郎の引き立て役にならないかと失礼ながらも心配していたが、入場した瞬間それは杞憂だとわかった。
(一対、ってああいう人たちのことを言うんだろうな)
 ヒールで底上げされていても身長差がなくならないデコボコカップルだが、何故か並んでいる姿がしっくりくる。
 冷徹で知られる副社長が、あんなにやさしい眼差しで見つめる相手は花嫁になった彼女しかいない。
 無表情か、冷笑か。彼のそんな表情しか知らなかった人々が驚いていたが、そんなもの二人をよく見ていれば珍しくもない光景だった。
 彼に本当の笑顔を浮かべさせるのは彼女だけ。
 彼女が一番綺麗に見えるのは彼の隣。
 ちゃんと見ていればわかることなのに、浅はかな人が多くて困ったものだ。
 仕事の評価から判断するに当然だと思う引き立てに、やっかんだ噂を流したり、パッと見の印象だけで下に見て、成り代われると思い込んだ人々は何を根拠にしているのだろう。
 自分や二人と親しい人々のように、焦れったい状態を端から眺めたほうがずっと楽しいのに。
 立場上出席しないわけにはいかなかったらしい反木内派の面々が、不満を隠しきれない様子でいるのをチラリと見やる。
 同じ部署、仲の良い者たちで固められたらしい座席割だが、不満分子を隔離することになってちょうどよかったようだ。
(先輩だって、せっかくのめでたい場に、辛気くさい顔したあなたたちを呼びたくなかったでしょう)
 ――いや、案外見せつけてやるつもりかもしれない。
 数度の失敗を流せても、ある一定のラインを越えたら厳しくなるのが鈴鹿というひとだった。
 今までの平社員から、違った立場になる鈴鹿が、この辺りで不満分子に釘を刺しておこうと思っても不思議ではない。
 意外とあのちびっ子先輩はしたたかなのだ。
 でなければ、あの遊び相手には良さそうだけれど伴侶には面倒そうな男と、対等ではいられないだろう。
(男漁りするなとは言わないけれど、やることやってからしろよ。なんて、私でも思っちゃうもの)
 そういう彼女も、入社当時は良い男を探すのに熱心だったが、仕事のコツやおもしろさを感じ出してからは二の次になっていた。
 すると何故か、逆に縁が転がってくるもので――現在、熱烈なアタックを受け、交際を保留中の相手がいたりする。
 好意はあっても、踏ん切りがつかなかったが。
(しばらく仕事に生きようと思っていたのに、先輩たちのラッブラブな姿見てると、悪くないなと思っちゃうじゃないですか)
 恋も仕事も両方取り。見習ってみようかな、なんて思わせてしまう二人の晴れ姿を、彼女はカメラに一枚収める。
 写真を見せながら、今日の幸せな二人のことを、誰かに話す自分の笑顔を想像しながら。
 ――きっと、彼も微笑んでくれるだろう。

「――本日は、来生、木内両家の結婚式のため、お集まりいただきありがとうございます。新郎の父という立場ではありますが、二人を出会いから見守ってきた人々の代表として、僭越ながら乾杯の音頭をとらせていただきます」
 先程のサプライズの余韻がまだ残っているのか、頬を上気させた来生社長がマイクの前に立った。
 普通なら、会社上司あたりが乾杯の音頭を担当するのだろうが、現在副社長である新郎の上司は義父の社長しかいないわけで――変則的だが、あの新郎新婦相手に当たり前とか定例なんて似合わないから、いいのだろう。
 会社朝礼のときよりも緊張した面持ちで、社長が口を開く。
 明るいムードメイカーで、おちゃらけたイメージが強い社長だが、彼の話す言葉には他人の耳を引き付ける力がある、と以前から思っていた。
 起立した招待客全てにグラスが行き渡ったことを確認し、社長は壇上の新郎新婦に向かって片手を掲げる。
「史鷹、鈴鹿さん、本当におめでとう。二人の末永い幸せと、新しい家族の誕生を祝いまして、ご唱和願います。――乾杯!」
 乾杯の声が会場に響き渡った。

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