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帰還

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揺られる感覚で目を覚ますと、僕は馬に乗せられて運ばれていた。

「やっと目を覚ましたか」
馬を走らせていた人に言われて顔を向けると、レイハルトさんがいた。

「……ただいま戻りました。今はどこに向かっている最中ですか?」

「騎士団に君を運んでいるところだ。3日前、君は神様の血液を口にした後、激しく苦しみだし、その後姿を消した。私達は交代で君が戻るのを待っていたんだ」
レイハルトさんから説明を受ける。
当然ではあるけど、神の世界に行っている間、僕の存在はこの世界から消えていたようだ。

「ご心配お掛けしました。みんな集まったところで詳しく話をしますが、最悪の未来を防ぐことは出来ました」

「そうか……よかった」

「今回のことですが、神様から他言しないように言われています。アリオスさん、ルージュさん、委員長以外の人は集めないでください。……他に話を知っている人はいませんよね?」

「私はルージュ以外には話していない」

「わかりました。他の3人にも後で確認します」


「ご心配お掛けしました。僕が消えていた時のことを説明します」
第1騎士団の会議室に集まり、話を始める。

「この世界を作り変えるかどうかという議会が神様達により行われていて、結論として保留となりました。すぐに作り変えられることはなくなりましたが、役割を果たしていないと判断されれば作り変えられることになります。ただ、これはどの世界でも同じことなので、この世界を作り変えるかどうかの議題は否決されたと考えていいかと思います」
200年という期間については言ってはいけないとのことなので、保留になったと伝える。

話していいのは、神の議会によって5年後に世界を作り変える方針が無くなったということだけ。

「……感謝する」
アリオスさんが一言礼を告げる。

「今回のことは全て他言しないように神様から言われています。僕がレイハルトさん達に、神様が住んでいる世界について話すことも口止めされているので、これから話すことについて理由を教えることは出来ません。そのつもりで聞いてください。フランちゃんに関わることを言いますが、これから言うこと以外は、中心人物であるフランちゃんにも話してはいけません」
口止めされていることを言っていいだけで、隠し事がこれだけ楽なのかと、しみじみ思う。

「了解した」
レイハルトさんが返事をして、残りの3人からも目で了承の意を受ける。

「フランちゃんには、これから定期的に神事として召喚を行なってもらいます。これはフランちゃんが死んでからもずっと続けないといけないことです。ですから、国として他の世界の住人を連れてくることが出来る者を探して確保する必要もあります。それから、召喚者が死ぬことで召喚された者は元の世界に帰還出来るそうです。これはフランちゃん自身から聞いたことでもあり、聞かなくても知ることが出来たことです。なので、召喚の術者が死なないように警備は厳重にお願いします」
他の世界から拉致する召喚を定期的に行うために、これは神事だから悪いことではない、良い事だと浸透させて、この世界に住む人が反発しないように洗脳しないといけない。
神事として行う必要はないが、その方が恒例行事として未来まで残る可能性が上がると僕が勝手に考えて、神事として行うように言った。

「理由は言えないってことだから、これは質問ではなくて、私の憶測の話を聞いてもらいたいってことなんだけど」
委員長が前置きをしてから話し始める。

「元々クオン君は今回の神の選定に自身を含めないように言いに行ったはずなんだけど、多分それでは未来を変えることは出来なかった。そして今の話になるってことは、この世界が作り変えられる真の要因は神の選定の頻度の少なさであって、クオンくんがつまらなくなったというのは、議会の流れが変わった要因の1つに過ぎないのだと思う。つまり、元々この世界は作り変えられることになっていたってことで、理由はわからないけど、クオン君の存在はそれを覆すほどだったということかな。ちょうど拮抗しているところに、何柱かの神がクオン君がつまらなくなったと意見を変えたというのが、クオン君がいなくなる前に受けたっていう神託の真相だと思う。ルージュさんはどう思いますか?」
委員長が的確な答えを話して、ルージュさんに意見を求める。

「私も同意見です。しかし、定期的にあなた達の世界から人を連れてくるというのは、私達の住む世界を守る為だとしても許されることではないのではないですか?」

「召喚を行うことは議題を保留にする為の絶対条件です。これは善悪の話ではなく、選択肢が他にないので覚悟を決めろという話です。もっと言えば、今回であれば30人がこの世界に呼ばれ、僕と委員長以外は死んだわけですが、巻き込まれた僕達のことを気に掛ける余裕はこの世界にはないということです。1つ言い忘れましたが、何度召喚しても、同じ方法で召喚する分には術者の元に召喚されることはないと思います。それでは試練になりませんので。ですから、周りからは召喚の術式を本当に発動したとは思われないでしょう。真実を知る者だけがその重みを背負い続けるだけです」
召喚された者が騒ぎを起こしたとしても、あれは形式として行なっているだけであり、知らぬ存ぜぬで突き通すしかない。

「それをまだ幼いフラン様に背負わせなけれはならないのか」
レイハルトさんが苦しそうな顔をして呟く。

「フランちゃんとこの世界を天秤に掛けて、フランちゃんを選ぶなら、この神事をやらせないという選択もありだと思いますよ。とりあえずこの話は僕からフランちゃんに話しておくので、どうするかはフランちゃんが王都に戻ってからよく話し合ってください。これ以上僕が提供出来る情報はないので、今日はこれで失礼します。くれぐれも口外しないようにだけ頼みますね」
ルージュさん達は罪悪感を感じていたみたいだけど、確定情報ではないにしても、委員長から死んだら元の世界に帰れることは聞いているだろうし、現在進行形で連れてこられている2人のうちの片方が言い出したことであればおかしな結論は出さないだろう。


4人を残して会議室を出て、フランちゃんの元に行く。

「久しぶり。フランちゃんに大事な話があるんだ」
エドガードさん達には決して部屋に近づかないように言って、2人きりで話をする。

「はい。なんでしょうか?」

「フランちゃんが女王になったらやってほしいことがあって、前に言ってた禁忌の魔術、あれを定期的に発動してほしいんだ。他の時空から人を呼び寄せるやつね。とりあえず一度発動してもらって、その後は5年ごとくらいでいいかな」
5年に一度は召喚してくれれば、仮に行えない時があったとしても十分な頻度ではあるだろう。

「あの魔術は私が使えると勘違いしていただけで、実際には使えませんでした」

「大丈夫、フランちゃんはちゃんと発動出来るよ。だって1年前にフランちゃんに呼ばれたのが僕なんだから」

「えっ…………あの、えっと……ごめんなさい」
フランちゃんは驚きを隠せないまま、謝罪する。

「別に怒ってないから気にしないで。むしろ僕は感謝しているから」

「……そうなんですか?」
頭を下げ続けていたフランちゃんが少しだけ顔を上げて、恐る恐る口にする。

「いい経験をしていると思うよ」

「それでもご迷惑を掛けたことには変わらないので、ごめんなさい」

「本当に気にする必要はないよ。それで、さっきの頼みだけど聞いてくれるかな?理由は話せないんだけど、これは神様からの頼み事なんだ」
元々何も聞いていないフランちゃんには、レイハルトさん達とは違い、何も話すことは許してもらえていない。
なので、必要なことなんだとゴリ押しでやらせるしかない。

「聞いてもいいですか?」

「神様から口止めされているから話せることは少ないけど、それでもよければなんでも聞いて」

「お兄さんは神様とお話が出来るんですか?」

「いつでも自由にとはいかないけどね」

「5年ごとにってことは、よんだ方がご帰還することは出来ないということですよね?私が死んでしまったら5年後に召喚することは出来なくなってしまいますから」

「フランちゃんが死ななくても元の世界に戻る方法はあるから気にしなくていいよ。実際、僕はいつでも帰れるからね。ルージュさんにはこのことを話してあるから、王都に戻ったらどうするか話し合って決めて」

「……わかりました」

「それから、この話は口外したらダメだからね。僕とレイハルトさん、アリオスさん、ルージュさん、それから委員長しか知らないことだから、他の人には話さないように。エドガードさん達にも秘密だよ」
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