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(殺人)鬼の居ぬ間に

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クオンがゴルバロと会議室を出た後も魔王討伐会議は進められる。

「私もクオンから少年のことは聞いてはいる。ゴルバロと少年が裏で繋がっていない限り信じるに値すると私は思うのだが、異論のある者はいるか?」
レイハルトはネロの占いを真として会議を進めることに反対の者がいないか確認する。

「…………いないようだな。君にとっては二度手間となるが、その資料に書かれているクオンが呪詛返しというスキルを使用した場合どうなるか、再度占ってもらえるか?」
レイハルトがネロに占いを頼む。
失敗するというのはクオンが伝えているが、どのように失敗するかで別の対処法が見つかる可能性もある。

「わかりました。まず、クオンさんがスキルを使用した時に神の像がどうなるか占います。……束縛からの解放、つまり、呪いは解かれるようです。しかし、解放された神?はそのまま寝てしまいます」
ネロはカードをめくり占いを進めていく。

「クオンのスキル自体は発動するということか」

「そうみたいです。次に魔王について占います。……魔王は目を覚まします。そして、死を振り撒きます。束縛のカードは出ませんでしたので、狙いである石化はしないようです」

「魔王に呪いは効かないと……」

「そうなのかもしれません。次に呪いの行く末を占います。……少し離れたところにいる僕の知っている人、クオンさんに言われて占った時はクオンさんのことを的確に示していましたので、これはクオンさんのことだと思いますが、その人の元に向かいます」

「呪いを返そうとした術者が呪いを受けることになるのか」

「最後に目を覚ました魔王と戦うことになる騎士団長様を占います。……言いにくいですが、死んでしまうようです」
ネロがレイハルトに墓地のカードを見せながら占いを終える。

「……ありがとう。君のおかげで私はその道を外れることが出来る」
レイハルトはネロに礼を言うが、その顔は暗い。
死ぬことがではなく、最も確率が高いと思われた作戦が失敗することがわかってしまったからだ。

「それから、5年以降先のことを占うと、この墓地のカードか、無を意味するこの何も書かれていないカードしか出ないんだ。前はこんなことなかったんだけど、クオンさんは国王を捕まえたことをきっかけに、何もしなくても5年後に魔王が目覚めて世界を滅ぼすという道に未来が変わったんじゃないかって言ってたよ」
ネロは最悪の未来を告げる。

「進むしかないということだな。今すぐに魔王が暴れる可能性が低いと受け取っておく。何度も頼んですまないが、魔王を倒す方法がないか占ってもらえるか」

「道は2つ見えます。どちらも具体的な方法が僕には分かりませんが、一つ目の道に進むには鍵となる2人を見つける必要があります。1人は近く、もう1人はこのカードの示す場所にいるみたいですが、僕には何を指しているのかわかりません。クオンさんに頼まれた時も、同じでした。二つ目の道ですが、こちらに進むと大量の血が流れるみたいです。魔王を倒すことは出来るけど、大勢の犠牲が出るのかもしれません。そして、こちらの道に進むには強固な檻が必要のようです。それと、魔王に関することはもやがかかったみたいに、これ以上詳しく占うことが出来ません」
ネロはめくったカードを見せながら説明する。

「それ以外に魔王を倒せる方法はないということか?」

「これはあくまで占いであって、確定した未来ではないです。僕の占いの範疇を超える何かが起きれば結果は変わるかもしれないです。5年以降先のことがおかしくなったのも未来が予期せぬ方向に変化した結果です」

「作戦を練り直す必要があるようだな。信じていないわけではないが、資料に載せてある他の方法を実行するとどうなるかも占ってもらえるか?」

「わかりました」

「それから、先程のカードの意味を教えてもらいたい。クオンから、カードは真実を現すが、君がどのようにカードから読み取るかで、真実とはズレが生じる場合があると聞いている」

「もちろんです。説明します」


ネロが占いをするのと同時進行で、先程の鍵を見つける為の話し合いが始まる。

「檻というのは実際の檻ではなく、強力な拘束をするアイテムを意味しているようだ。それから、クオンに頼まれた時はスカルタで占いをしたそうだ。特殊な力をもった人物がスカルタと王都に1人ずついる可能性もあるが、その時はスカルタに、今は王都にいる可能性が高いと私は考えている。その1人というのはクオンのことだと思うが、他に心当たりのある者はいるだろうか?」
レイハルトが進行のまま会議が進む。

「私も1人は元団長と仮に置いて会議を進めることには賛成です。しかし、彼は何か大事なことを隠しているように見えます。特殊な力というのが何を示すのかわかりませんが、全貌が明らかになった際に彼が力を行使してくれない可能性が残ります」
ルージュはレイハルトの現に同意しながらも、心配を口にする。

「……本人が戻ってきたところで確認する。隠し事であれば大勢の前では言いにくいだろう。私が1人で確認し、作戦に関わることか判断する。他にないか?」
レイハルトが答え、話を進める。

「発言失礼します。私もクオン君が占いの現す人物の可能性が高いと思いますが、スカルタから王都に来ている方がまだいます。以前に見させて頂いたあのスキルの可能性も捨てきれません。クオン君がこの場に呼んだ理由も気になります。あまり公にはしていないようでしたので、差し支えなければ話をしてもいいですか?」
委員長はサラボナに視線を送り尋ねる。

「構わないわよ。ただ、ここだけの話にしてもらえるとありがたいわね」

「以前、クオン君の頼みでサラボナギルド長は空間を切り裂くスキルを使いました。その直後、それまでそこにはいなかった人物が姿を現しました。その人物は私とクオン君の共通の知り合いで、切り裂かれた空間の先で偶然見つけたから連れ出したという説明をクオン君はしました。クオン君の本意は分かりませんが、その連れ出した知り合いというのは天使です。詳しくは省きますが、サラボナギルド長には私達が住むこの世界と、天使が住む世界とを繋ぐ力があると思います。そして、天使が住む世界には魔王と対峙できる者がいる可能性も考えられます。あの時、クオン君からなんと言われていたのか教えてもらえませんか?」
委員長はこの世界に自身を連れてきた子供姿の神を想像しながら情報を提供する。

「彼からスキルを使って欲しいと頼まれ、破格の条件を提示されたから応じることにしたわ。スキルを使うタイミングも場所も指定はなく、何がしたいのかわからなかったが、スキルを使う直前に一つだけ条件を言われた。スキルを発動する瞬間に目標を彼の近くのサボテンにするように。それから、あそこにはもう1人誰かいたように見えたわ。見間違いじゃなければね」

「その天使というのは先日まで騎士団で匿っていた彼女のことでいいのか?」
レイハルトは確認する。

「そうです」

「そうなると話を聞くことは出来ないな。彼女は魔物として討伐されている」

「クオン君に一度王都から離れてもらってもう一度ネロ君に占ってもらえれば、クオン君かどうかは絞れると思います」
転移出来ることは伏せて、委員長は選択肢を絞る案を提示する。

「もう1人が誰かというのも片方が判明してからの方がいいだろう。クオンには手間を掛けさせるが協力してもらうとして、もう一つの大量の血が流れる道に議題を移す。先に私達が総攻撃を掛けた場合のことを占ってもらった。未来は変わらず死が待っている。大事なのはどちらにも出てきた強固な檻だ。心当たりのある者はいないか?」

「話を遮ること謝罪する。先にクオン元騎士団長のことをお聞きしたい。話を聞く限り相当に特殊な人物のようだ。我々は騎士団長に就任した際に顔を合わせた程度にしか彼のことを知らない。そして、話を聞く限り彼には謎が多すぎる。話せないこともあるだろうが、だからこそ彼が席を外している今話をしておくべきではないか?」
第5騎士団団長エイダンは場の空気を読んだ上で提案する。
エイダン自身も卑下する行為だとわかっているが、それよりも優先すべきことがあると自ら憎まれ役を買って出た。

「……そうだな。本当に言えないことは言わなくてもいい。その判断は各々に任せる。隠したとして責めるつもりはない。だが始める前に一つ、クオンは悪ではない。悪と思われる行動にも何か理由があるはずだ。その上で話をしてもらいたい。クオンを貶めることが目的とならぬように」
レイハルトは忠告を加えた上で、エイダンの提案を飲む。

「私から話をさせてください。私の憶測も含まれますが、先に聞いておいた方がこの後他の方が話したことにも繋がると思います。まずは私とクオン君が異世界から来たというところから──」

委員長がクオンのことを話し始め、アリオス、レイハルト、サラボナと順番に話をする。


「お待たせしました」
そして、そんなことが起きていたとは知らないクオンが戻ってくる。
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