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遣い

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ファミレスで小腹を満たした後、荷物持ちとして立花さんを家まで送る。

その途中、立花さんの家と駅の間くらいにある公園の近くで刑事に声を掛けられた。

「こんなところで奇遇だね。大荷物だけど、2人で買い物に行ってたのかな?」
この刑事、このタイミングで声を掛けてくるなんてやっぱり僕の思っている通りなのかな?

「はい。隣町まで」

「デートの邪魔して悪いけど、少しだけ話をすることは出来ないかな?長い間拘束するつもりなんてないから、そこの公園のベンチにでも座って。飲み物くらいはご馳走するよ」

「別にデートじゃないですよ。それで、その話というのは僕だけじゃなくて立花さんにも聞きたいことがあるってことですか?」

「そうだね。クラス委員の子以外は見つかったわけだけど、全員が見つかったわけではないし、犯人も見つかっていない。犯罪を犯していた子も少なからずいたにも関わらず、誰も失踪していた間何をしていたか話してくれないからね。少しでも情報が欲しいんだよ」
これはどっちだろう……クロなのかな。

「僕も聞きたいことがあるので、少しの間だけなら大丈夫ですよ」
断るともっと面倒なことになりそうなので刑事と話をすることにする。


「先に君が聞きたいことというのに答えようか」
自販機で飲み物を買ってもらい、刑事とは対面に立花さんと並んでベンチに座る。

「それは最後で大丈夫です。それで、刑事さんは何を聞きたいんですか?」

「もちろん行方不明の事件のことだよ。前に君に見つかったら心配になる人を聞いた時、君は彼女の名前を口にしていた。それだけなら君が彼女と仲良く買い物をしていても不思議ではないのだけれど、君は彼女のことを知り合い以上友達未満だと言っていたね。それにしては随分と仲が良さそうに見えるのだけれど、彼女が行方不明になっている間に仲がよくなるような何かがあったのではないかな。その辺りを聞かせてもらえないかな?」

「立花さんがゲームを始めたいというので、ゲームに詳しい僕が買い物に付き合っていただけですよ。荷物も多いので家まで送ってから、後でオンラインで繋がる予定でした」

「それは友達ではないクラスメイトに頼むようなことなのかい?何人かのグループの中の1人として誘われたというなら違和感はないのだけれど」
刑事は立花さんに聞く。
刑事はクロ置きとして、異世界のことではないから立花さんは答えることは出来るだろう。
なんて答えるのか少し気になる質問だ。

「斉藤君が以前に私と友達未満だと言ったのはショックですけど、私は斉藤君のことを友達だと思っていたので、おかしなことをしている自覚はありませんでした」
立花さんが無難な答えを返した。

「それは悪いことを言ってしまったね。質問を変えて、何か行方不明となっていた時のことで思い出したことがあれば教えて欲しいのだけれど」
立花さんは話せないことに対して覚えていないとでも言ったのだろう。

「ごめんなさい。覚えてないです」
立花さんは謝り口を閉ざす。

「そうか。2人はこれからゲームをするとのことだけど、時間に余裕があるのであれば最後の1人が見つかるように捜査に協力してもらえないだろうか?これからではなく、時間のある時に」

「それは選択肢のある頼みですか?」

「強制するつもりはないよ。そもそも、難しいことを頼む気はないんだ。たまにこうして話をして、何か気付いたことや思い出したことがあれば教えてくれればそれでいいんだ」

「“いいえ”と答えたら“はい”と答えるまで頼むつもりはないんですね?」

「それはもちろんだよ。トラウマを抱えているかもしれない中学生に何度も話を聞くということは周りから批判的な意見も多い。だから善意で協力してもらえるように頼むしかないんだ」
言いたいことはわからなくはないが、僕が疑っていることが間違ってなければ、とんだ茶番だ。

「答える前に始めに聞こうとしていたことを聞いてもいいですか?」
立花さんが答える前に、問い詰めることにする。

「何が聞きたいのかな?」

「あなたは人間ですか?」
この刑事は他の人と比べると以前からおかしかった。
人間かどうかと聞きはしたが、人間ではないと確信したわけではない。

「ひとでなしと言いたいのかな?事件を解決するためとはいえ君達に不快な思いをさせたのなら謝罪するが、そこまで傷付いているようには見えなかったな」

「いえ、言葉の通りの意味です。なんで刑事さんは立花さんから話を聞いて事件を解決しようとしているんですか?」

向こうでの行いはこちらの世界に反映される。
それが神が僕たちに与えたルールだけれど、周りがそう認識するだけで実際に事は起きていない。

狩谷君が向こうでたくさん人を殺したけど、こちらでは実際に誰も死んではおらず、狩谷君が大量殺人を行ったという現実だけが植え付けられている。
だから、その過程として本来ならいるはずのその事件を追っている刑事も報道者も実際にはいないはずだ。

それは行方不明事件についても同様で、まだリタイアしていない僕に色々と刑事が付きまとうのはおかしくないけど、立花さんを巻き込んだのは決定的におかしい。

桜井君とあれからたまに連絡をとっているけど、初めに警察から事情聴取をされただけで、その後警察の関係者どころか記者が訪ねてきたということも無いと聞いている。

そんな中、この刑事だけはその枠の外で動いているようにしかみえない。
僕と一緒にいるから立花さんに聞いたという可能性もあるけど、おかしいのはそこだけではない。

「……彼女に話を聞いたのは失態だったみたいだね」
刑事がやれやれといった感じに答える。

「えっと……何の話?」
置いてけぼりになっている立花さんに聞かれる。

「この刑事は行方不明の事件を本気で解決しようなんて思ってないってこと。以前僕を拘束したのも別の理由があってですよね?あなたは誰で、どこまで関与しているんですか?」
僕がこっちの世界に戻ってきている時にタイミングよく刑事に連行されて、そのせいで神下さんが最低限の話だけして姿を消す。
あの時気付かなかったのがおかしなくらいに、噛み合い過ぎている。

「私が刑事であることに変わりはないよ。ただ、私は神と話をすることが出来る。いつでも自由にというわけではないけどね。君が言ったあの時、君を夕方まで拘束するようにお声を頂いた。なぜ君を拘束する必要があったのかその理由までは知らない。今日も神からのお言葉を聞き、君達に話しかけた」

「なんと言われたんですか?」

「君の時間を定期的に奪うようにと」

「それじゃあやっぱり僕が“いいえ”と答えていたら“はい”と言うまで離すつもりはなかったということですね?」

「そうなるね。なんとかして協力してもらう約束をするつもりだったよ。先程の質問に答えるなら、神と取引をしてズルをしている刑事だね。今回みたいに神に協力することで、私自身も神から恩恵を与えられている。本当に解決しないといけない事件の犯人が何処にいるのか分かったり、消された証拠が出てきたりね」

「そうですか。一応答えておきますが、先程の頼みの答えはいいえです。無駄な時間だと確定しましたので気持ちが変わる事はありません」

「仕方ないね。これは私の力不足だ。私の正体がバレてしまった以上、これ以上私が君に関わることはないだろう。邪魔して悪かったね」
ベンチから立ち上がり、刑事は去っていった。




刑事視点

「これでよろしかったのでしょうか?最善にはやはりなりませんでしたが……」
公園を出た後、天に向かって話しかける。
先程彼にも言った通り、彼の時間を定期的に奪えれば最善だったが、それが無理なら彼がこちらの意思で気付かされたと思わないように全てを話すようにとのご指示だった。

「おつかれ。疑われたままだと後々都合が悪いからね。また必要な時はお願いするからその時はよろしく」
軽い口調の言葉が頭の中に直接入ってくる。
お怒りでないようで安心だ。

「わかりました」
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