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side 神下える③

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田中くんの体の調整というのをやらされた翌日、言われていた通り昼過ぎに先輩天使に呼ばれる。

「今日が本番になります。忙しくなりますので気を引き締めておいて下さい」

「わかりました」

連れて行かれたのは昨日と同じドーム状の建物だ。
田中くんの体がある部屋へと入る。

「もう少し時間がありますので待ってて下さい」

「はい」

少し経った後、別の天使が部屋に入ってきた。

「それでは後はお願いします」
その天使は先輩天使に箱を渡した後出て行った。

「それはなんですか?」

「これは田中風磨の魂です」
田中くんの魂……
魂がここにあるということは田中くんは死んでしまったということであろうか……。
昨日見た資料でも処刑される寸前だったし。

「気になることもあると思いますが、今日は時間がありません。やりますよ」

「あ、はい」

「それではここから魂を取り出してその体に移植します。その機械を使って下さい」

掃除機?
先輩天使が指差す機械は見た目掃除機のようだ。

「これですか?」

「そうです。コードをカプセルに繋げて下さい」

私はよくわからないまま言われた通りコードを繋ぐ

「それではその機械の口を魂に近づけてスイッチを入れて下さい」
先輩天使が言いながら箱の蓋を開ける

中には少しくすんだ青色の光の玉があった。

「これで良いですか?」
私は掃除機のような機械の先端を魂だという玉に近づける

「大丈夫です。スイッチを入れてください」

スイッチを入れると機械に玉が吸い込まれた。

ガタガタ!

「ぅわ!」

急に田中くんの体が動き出し、もがき始めた。

「拒絶反応が出ていますね。そこの青いボタンを押してください」
先輩天使は冷静だ

私は慌てて青いボタンを押す

カプセル内にガスが充満して田中くんが動かなくなった。

「何をしているんですか?」

「それは後で説明します。今はあまり時間がありません。そこの機械を取ってください」

「……わかりました」
後で説明してくれるようなので、今は指示に従ってスマホのような機械を取る

「カプセルの赤色のボタンを押してください」
今度は赤いボタンを押す
するとカプセルの上半分がカパっと開いた。

「さっきの機械のコードをここに突き刺して下さい」

「えっ……?」
先輩天使は田中くんのおでこを指差している

「早くしてください。取り返しがつかなくなります」

先輩天使は本気で言っているようなので、私は震えながらもコードの先端を田中くんのおでこに当てる。

先端は針のように尖っている。
当てただけなのにプスッと少し刺さり、血が垂れる。

「もっと奥まで刺してください」
先輩天使が言うけど、無理だ。そんなこと出来ない。

「……貸してください。私がやります」
動こうとしない私を見て先輩天使が私からコードを奪い、おでこに突き刺した。
頭蓋骨があるはずなのに、ズブズブっと入っていく。
明らかに頭蓋骨を貫通している。

「っうぷ」
私は戻しそうになる。

「あなたには荷が重かったかもしれません。次回からこういった作業は私がやることにします」

「…………お願いします」
正直できるようになる気がしないので、ありがたい申し出である。

「責めているわけではありませんので気にしないで下さい。誰にでも向き不向きがあるのですから。気を取り直して機械の画面を見てください」
仕事は続くようだ……もうやめたい

「その画面に見えるのは田中風磨の精神です。地球での生活しか知らない体とこちらの世界での体験をした魂との違いから拒絶反応を起こしています。これから体に信号を送り、この体に魂を馴染ませます」

私はいまいちよくわからないまま、先輩天使の言う通りに機械を操作する。

「お疲れ様です。これで魂がこの体に馴染みました。後はこれを最高神様のところへお届けして終わりです」
何をしていたのかよくわからないけど、うまくいったようだ。
うまくいったとしても、田中くんの体を弄んでいるようで良い気はしない。

「田中くんはこの後どうなるんですか?」

「それはあなたには言うことが出来ませんが、わざわざ動くようにしたのですからある程度は想像がつくでしょう。最高神様から言うなとは言われていますが、バレないようにしろとは言われていません」
確かに先輩天使の言う通り予想はつく。
日本に帰るか、この世界で生き返るかのどっちかだ。
可能性としては他にもあるだろうけど、可能性として高いのはこの2つだと思う。

「あの、教えて欲しいんですがなんで体が2つあるんですか?田中くんは下界にいたんですよね?でも天界にも体がありました。動かない状態で……。どちらかは偽物なんですか?」

「どこまで答えて良いのか私にはわかりませんので、一緒に最高神様のところに行きましょう」
先輩天使が田中くんを担ぎ、最高神がいる神殿に入る。
先輩天使は見た目とは異なり力持ちのようだ。

「最高神様、準備が整いました」
先輩天使が要件を伝える

「うん、ご苦労。君は下がって良いよ」
最高神が先輩天使を下がらせる

「失礼します」
先輩天使は神殿から出て行く

「それで、僕に聞きたいことがあるんだよね?」

「あ、はい。なんで田中くんの体が2つあるんですか?どちらかの体は偽物なんですか?」

「どちらが偽物ということはないけど、どちらかを選ぶならあのドームにあったこの体が偽物になるのかな。君達を隔離空間に呼んだ時に僕の力で体を2つにした。寸分変わらない全く同じ体だよ。ただ、魂は2つに出来ないんだ。2つの体には魂が入っているか入っていないかの違いしかない。魂が入っている方をあの隔離空間に、入っていない方をカプセルに入れてあのドームにしまっただけだよ」

「……クローンってことですか?」

「そう言う認識で構わないよ。実際にはクローンとは異なるけど、神の力で成していることを説明しても理解出来ないと思うからね」
さっき先輩天使に教えてもらってやったことも半分以上よくわかっていない。
結果はわかるけど、過程に関しては言われたままやってただけで何をどうしたのかいまいち理解できなかった。

「そうですね……。田中くんはこれからどうなるんですか?」

「君から僕の知らない所で話が漏れることはないから教えてもいいか……。元の世界に送るよ」
元の世界に帰れるようだ。
教えてくれないと思ったのに答えてくれた。

「田中くんは処刑されたんですよね?」

「されたよ」

「……私も死んだら同じようなことをされるんですか?」

「そうなるね」
私も自殺すれば体を移し替えられて帰ることが出来るってことだよね。
移し替えられる体って人間の体なのかな?それとも天使?
わかってても死ぬのは怖いな。

「言っておくけど、君の場合は簡単に死ぬことは出来ないよ」

「え、なんでですか?」
勇気を出せば帰れると思っていたのに……

「試してみればわかることではあるけど、天使の体というのは人間とは根本が異なるんだよ。君が自分の首を切ったとしよう。人間ならもちろん即死だ。でも天使は死なない。苦痛はあるけどね」

「不死身ってことですか?」

「違うよ。普通の方法では死ねないというだけ。君に関しては元のプロジェクトから逸脱し過ぎているからね。どうするべきか僕は寝ずにひたすら考えたんだよ。それで君には他の人とは違う枠で動いてもらうことにした」
最高神はそう言ったけど、明らかに寝てない人の顔ではない。

「あの、そのプロジェクトというのは教えてくれないんですか?」

「それは話すことは出来ない。知りたければ自分で調べるといいよ」
色々と教えてくれる気になったのかと思ったけど、これに関しては教えてくれないようだ。
調べればいいと言っているので、どこかに知る余地は残されているということなのかな?

「……わかりました。それで私はこれからどうしたらいいんですか?」

「まず君が知りたいだろう情報を教えるよ。君のもう1つの体は人間の姿のままだよ。だから君がどうにかして死ぬことが出来れば、元の姿のまま元の世界で生き返ることが出来る。あのドームの中にはいつでも入れるようにしておくから、後で自分の目で確認するといいよ」

「……それはよかったです」

「それを踏まえて聞きたいのだけれど、君は死にたいかい?」
死にたいか聞かれると死にたいとは答えにくい。
帰りたいかという意味で聞いているのはわかるけど……。

「……死ぬ以外に元の世界に戻る方法はないんですか?」

「あるよ。どうやったら帰れるのかを教えることは出来ないけどね。ただその場合、君は天使のまま帰ることになるだろう。絶対ではないけどね。君が帰る方法は色々とあるけど、死ぬというのは1番簡単な方法だね」

「それは他の人も同じですか?」

「1人を除いて同じだよ。誰かを教えることは出来ないけど、今回のプロジェクトで特殊なのは君とその1人だけだ。それ以外の人に関しては概ね思惑通りに事は進んでいる。それでさっきの答えを聞かせてくれるかな?その答え次第で君のこれからの扱いを決めさせてもらうよ」

「元の世界に帰りたいです。もちろん人間の姿のまま。死ぬとか、体を移し替えるっていうのは怖いけど……」

「それなら君には特別に権限を与える。まずは下界に行けるようにしてあげる。下界に住む人と今のままでは接触は出来ないけどね。それから君を死なせることが出来る可能性がある者は下界に3人だけいるよ。その3人がいなくなった時点で君は下界で死ぬことが出来なくなる。ちなみに天界にいる者には君を殺さないように命じてあるから、殺して欲しいと頼んでも無駄だよ」

「下界の人と接触する方法を見つけて、その3人の内の誰かに殺してもらえってことですね」

「そうだね。理解が早くて助かるよ。達成することが出来たなら責任を持って君を元の世界に帰してあげよう」

「……えっと、その3人が誰か教えてもらう事は出来ないんですか?」

「教えないよ。自分で調べてね。ただ、ヒントだけはあげる。2人は君達と同じ地球人で、もう1人は元からこの世界に住んでいる人だよ。それから下界の人に死んだら元の世界に帰れる事を教えてはいけない。それと天界で得た情報を下界の者に話す場合は、先に僕に確認をとるように。君と僕とで念話を使えるようにしておくからちゃんと守るように」

「……はい」

「基本的には今まで通り自由にしていてもらっていいけど、天界で寝食をするなら仕事はするようにね。それから下界に降りる場合はさっきの子を付けるから声を掛けるように。君が勝手なことをして暴走しないようにする為のストッパーだからね」
あの仕事は続けないといけないようだ。

「わかりました。ありがとうございます」
とりあえず、先輩天使に話をして下界に降りてみようかな。
接触出来ないって言ってたのもどういうことかわかるだろうし……
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