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第三部 宰相閣下の婚約者
【防衛軍Side】ウルリックの謳歌(5)
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「カロッジェ様、お疲れさまでした」
部屋の中からは、相手にこれでもかと下手に出ている声が聞こえる。
「ここまでは予定通りか?」
「はい。今頃ブロッカ子爵が総仕上げとして現金を受け取っている頃合いかと」
「よし。ではここは引き払って、王都中心街の宿〝ブルクハウセン〟に向かう」
「そこで金の分配ですね」
「ああ。ただしここは別々に出る。何せ私は麗しの姫を醜聞と破産から救って差し上げねばならないから、おまえらと繋がりがあると思われたら困るんだ!」
……花畑在住の令嬢は、ままあるものと思っていたが、畑に令息もいたとは知らなかった。
「自分で金を巻き上げておいて、無利子の金貸しを申し出るとか、どんだけ鬼畜なんです」
ぎゃはは、と品のない笑い声が聞こえる。
「それに護衛の義妹から口添えさせるのに、俺ら悪者扱いですよね? ちゃんと謝礼弾んで下さいよー?」
「分かった、分かった! ちゃんと割増ししてやる」
「…………」
将軍の口が「阿呆か?」と明らかに動きかけていたので、私は慌てて人差し指を口元にあてた。
そしてまだ会話は洩れ聞こえてくるが、私は将軍とゼイルスに隣の部屋を指差した。
あの様子だと、まだ意気揚々と自慢話をしそうだからだ。
そして元の部屋、つまり隣室に戻ったところで、将軍が「もう押さえて良いのではないか? 充分にペラペラ喋っているだろう」と、声を出した。
ゼイルスも無言だが頷いている。
「まあ詐欺の件は充分に分かりましたが、出来れば〝痺れ茶〟の話も引き出せないかと……」
恐らくは投資詐欺で金を巻き上げるか〝痺れ茶〟を流通させるかの二択でここまで複数の貴族や商会を巻き込んできている筈なのだ。
投資詐欺だけでも捕らえるには充分だろうが、ちょっとそれだけではここまで来た甲斐がない。
自分たちでなくても良かったじゃないか、と思われるわけにはいかない。
「どうせなら『お花畑劇場』を最後まで演じて貰おうかと思うんですよ。その勇者気取りの小芝居が実は全部茶番だと知られていたとなれば、なかなかに羞恥心が限界突破でしょうし、隠していること自体が馬鹿らしくなると思うんですよね」
「お花畑劇場?」
「あの様子だと、護衛の義妹とやら戻って来たらさぞや仰々しい演説が始まりますよ。いかに自分がコンティオラ公爵家を想ってセルマまでやって来たのか、的な」
「……娘を囮に使う、と?」
義に厚い将軍は案の定眉根を寄せている。
ゼイルスの表情は読めないが、特に反対をしている風には見えなかった。
「ただ部屋に入ってしばらく、いかに自分が苦労して助けに入ったかと言う厚顔無恥な演説を聞くだけですよ? 怖い以前に笑いを堪えるのに苦労するんじゃないかと思いますけどね」
「うん?」
「自分がいかに素晴らしい人物であるかを王都コンティオラ家で説いて貰わないとならないんですから、女性が危険に晒されることはありませんよ」
「そ、そうか」
納得したような、していないような将軍とは別に、ゼイルスは「確かに……」と、呟いていた。
「では、食堂で食事中の二人は、引き離さずそのまま戻しましょうか。男だけ捕らえて女性を保護するつもりでしたが、今ならまだ間に合うでしょう」
そう言ったゼイルスが「私が食堂に指示をしに行きますよ」と、あっと言う間に姿を消した。
二対一で意見を通された恰好になり、将軍が不満気に口元を歪めている。
「将軍。将軍であればお一人で隣を叩き潰せるのは分かっていますから。それまでにちょっと主犯に吐かせたいんですよ」
「むう……軍の人間では誰も変装出来ぬからな……」
公爵邸〝鷹の眼〟ハジェスでもいれば、女装させたとでも言いたげな将軍だが、それだけ一般人の囮には否定的なのだろう。
我らが貴婦人、レイナ嬢がギーレンに行く時にもそうだったが、そもそも「だったら自分が」との思いが強いのだ。
「将軍、主犯だけ下さい。後はお任せしますから」
これは後々、多少暴れても目を瞑らないといけないかも知れない。
そう思っていると、宿の入口付近を除いて、罠を設置し終わったと言うアシェルたちが中へと戻ってきた。
「テレンス、装置はまだあるか?」
「あ、はい。建物内の分も何個か残して置けとの話でしたから」
「分かった、隣の部屋に護衛の義妹と言う娘と見張りとが戻って来て、中に入ったところで入口近くにもセットしておいてくれ」
お花畑劇場開演中に、ふと我に返って逃げ出そうとする出演者の一人や二人出て来るかも知れない。
再度聞き耳を立てるのに、設置場所に気を遣えば良いだけだ。
「――副長、戻ってきましたよ」
こちらの扉を少しだけ開けて外の様子を窺っていたアシェルが、女性と護衛の戻りを不意に告げた。
「おまえから見て、娘の様子はどうだ?」
「歩き方を見る限り、怪我はしていませんね。さすがに表情は硬いですがそれは致し方のないところかと」
「これで関係者全員が部屋に揃っているのか?」
「いえ。侯爵家の馬車の馭者が、馬車の整備を馬留で行っていますよ。逆に言えばそれだけ、とも」
「ああ、じゃあソイツはちょっと休んでいて貰おうか。馬車に放り込んで寝かせておいてくれ」
「承知」
「馬車から下りるところにでも罠は追加で」
「わ……分かりました」
ピクリと頬を痙攣させたアシェルが、外に出るついでに隣の部屋の扉をさっきのように薄く開けていった。
「――おお、貴女がアジーラ嬢か!もう心配いりませんよ‼」
そして案の定、お花畑劇場の開演のベルがすぐさま鳴り響こうとしていたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
すみません!
色々あって遅くなり……もう1話だけ、副長編お付き合いお願いします……!
部屋の中からは、相手にこれでもかと下手に出ている声が聞こえる。
「ここまでは予定通りか?」
「はい。今頃ブロッカ子爵が総仕上げとして現金を受け取っている頃合いかと」
「よし。ではここは引き払って、王都中心街の宿〝ブルクハウセン〟に向かう」
「そこで金の分配ですね」
「ああ。ただしここは別々に出る。何せ私は麗しの姫を醜聞と破産から救って差し上げねばならないから、おまえらと繋がりがあると思われたら困るんだ!」
……花畑在住の令嬢は、ままあるものと思っていたが、畑に令息もいたとは知らなかった。
「自分で金を巻き上げておいて、無利子の金貸しを申し出るとか、どんだけ鬼畜なんです」
ぎゃはは、と品のない笑い声が聞こえる。
「それに護衛の義妹から口添えさせるのに、俺ら悪者扱いですよね? ちゃんと謝礼弾んで下さいよー?」
「分かった、分かった! ちゃんと割増ししてやる」
「…………」
将軍の口が「阿呆か?」と明らかに動きかけていたので、私は慌てて人差し指を口元にあてた。
そしてまだ会話は洩れ聞こえてくるが、私は将軍とゼイルスに隣の部屋を指差した。
あの様子だと、まだ意気揚々と自慢話をしそうだからだ。
そして元の部屋、つまり隣室に戻ったところで、将軍が「もう押さえて良いのではないか? 充分にペラペラ喋っているだろう」と、声を出した。
ゼイルスも無言だが頷いている。
「まあ詐欺の件は充分に分かりましたが、出来れば〝痺れ茶〟の話も引き出せないかと……」
恐らくは投資詐欺で金を巻き上げるか〝痺れ茶〟を流通させるかの二択でここまで複数の貴族や商会を巻き込んできている筈なのだ。
投資詐欺だけでも捕らえるには充分だろうが、ちょっとそれだけではここまで来た甲斐がない。
自分たちでなくても良かったじゃないか、と思われるわけにはいかない。
「どうせなら『お花畑劇場』を最後まで演じて貰おうかと思うんですよ。その勇者気取りの小芝居が実は全部茶番だと知られていたとなれば、なかなかに羞恥心が限界突破でしょうし、隠していること自体が馬鹿らしくなると思うんですよね」
「お花畑劇場?」
「あの様子だと、護衛の義妹とやら戻って来たらさぞや仰々しい演説が始まりますよ。いかに自分がコンティオラ公爵家を想ってセルマまでやって来たのか、的な」
「……娘を囮に使う、と?」
義に厚い将軍は案の定眉根を寄せている。
ゼイルスの表情は読めないが、特に反対をしている風には見えなかった。
「ただ部屋に入ってしばらく、いかに自分が苦労して助けに入ったかと言う厚顔無恥な演説を聞くだけですよ? 怖い以前に笑いを堪えるのに苦労するんじゃないかと思いますけどね」
「うん?」
「自分がいかに素晴らしい人物であるかを王都コンティオラ家で説いて貰わないとならないんですから、女性が危険に晒されることはありませんよ」
「そ、そうか」
納得したような、していないような将軍とは別に、ゼイルスは「確かに……」と、呟いていた。
「では、食堂で食事中の二人は、引き離さずそのまま戻しましょうか。男だけ捕らえて女性を保護するつもりでしたが、今ならまだ間に合うでしょう」
そう言ったゼイルスが「私が食堂に指示をしに行きますよ」と、あっと言う間に姿を消した。
二対一で意見を通された恰好になり、将軍が不満気に口元を歪めている。
「将軍。将軍であればお一人で隣を叩き潰せるのは分かっていますから。それまでにちょっと主犯に吐かせたいんですよ」
「むう……軍の人間では誰も変装出来ぬからな……」
公爵邸〝鷹の眼〟ハジェスでもいれば、女装させたとでも言いたげな将軍だが、それだけ一般人の囮には否定的なのだろう。
我らが貴婦人、レイナ嬢がギーレンに行く時にもそうだったが、そもそも「だったら自分が」との思いが強いのだ。
「将軍、主犯だけ下さい。後はお任せしますから」
これは後々、多少暴れても目を瞑らないといけないかも知れない。
そう思っていると、宿の入口付近を除いて、罠を設置し終わったと言うアシェルたちが中へと戻ってきた。
「テレンス、装置はまだあるか?」
「あ、はい。建物内の分も何個か残して置けとの話でしたから」
「分かった、隣の部屋に護衛の義妹と言う娘と見張りとが戻って来て、中に入ったところで入口近くにもセットしておいてくれ」
お花畑劇場開演中に、ふと我に返って逃げ出そうとする出演者の一人や二人出て来るかも知れない。
再度聞き耳を立てるのに、設置場所に気を遣えば良いだけだ。
「――副長、戻ってきましたよ」
こちらの扉を少しだけ開けて外の様子を窺っていたアシェルが、女性と護衛の戻りを不意に告げた。
「おまえから見て、娘の様子はどうだ?」
「歩き方を見る限り、怪我はしていませんね。さすがに表情は硬いですがそれは致し方のないところかと」
「これで関係者全員が部屋に揃っているのか?」
「いえ。侯爵家の馬車の馭者が、馬車の整備を馬留で行っていますよ。逆に言えばそれだけ、とも」
「ああ、じゃあソイツはちょっと休んでいて貰おうか。馬車に放り込んで寝かせておいてくれ」
「承知」
「馬車から下りるところにでも罠は追加で」
「わ……分かりました」
ピクリと頬を痙攣させたアシェルが、外に出るついでに隣の部屋の扉をさっきのように薄く開けていった。
「――おお、貴女がアジーラ嬢か!もう心配いりませんよ‼」
そして案の定、お花畑劇場の開演のベルがすぐさま鳴り響こうとしていたのだった。
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すみません!
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