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第三部 宰相閣下の婚約者
596 帆立に罪はない
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――結果として、かつての〝ツェツィ・オンペル〟店舗には、不動産部門の責任者であるイフナース・クインテン青年が同行をすることになった。
私はともかくエリィ義母様、もとい「フォルシアン公爵夫人」がいる時点で、イフナース以外の不動産部門担当者たちが尻込みをしてしまい、まがりなりにも「大公殿下の孫婿」であるイフナースが、責任者として引き受けざるを得なかったのだ。
ギルド長以外は、イフナースのことは「義理の祖父が貴族」程度にしか知らないらしい。ただ、それでも職員のほとんどが根っからの平民層であるために、貴族の相手はイフナースに――と言うことになってしまったらしかった。
「そこで『私が行きます!』とでも言えれば、ギルド幹部になるためのポイントが稼げるだろうに……今の不動産部門はちょっと押しが弱い」
王都中心街へ向かう、ギルドが持つ馬車の中で、イフナースはそう言って肩をすくめた。
旧〝ツェツィ・オンペル〟のある地区へは、公爵家の馬車では入れないと説明したものの、エリィ義母様はあっさりとそれを了承した。
亡くなったツェツィーリア・ベルドヴァ男爵夫人がフォルシアン公爵領下の貴族とあっては、場所がどこであれ、自分も行くべきと固く決意しているのが見て取れた。
「さて、ユングベリ商会長。到着後のことですが、細かい設計図は後日業者選定終了後に詰めていただくとして、今日はどこをどんな風に改装したいと考えているか、今の時点での希望をお聞かせ下さい」
実務派のイフナースは、移動中にある程度説明を済ましてしまおうと考えているようだった。
馬車の中は私とエリィ義母様が隣同士、イフナースは二人の間の位置で向かい側に腰を下ろしている。
どちらとも必要以上に密着しないようにと、彼なりに気を遣ったんだろう。
そして恐らく、その位置は正しい。
真正面に座ったことが知られれば、エドヴァルドなりイル義父様なりが黙ってなさそうだからだ。
ただ、そんなことはおくびにも出さず、私はイフナースの話にうんうんと頷く。
「その、私の希望が叶えられる技術のある業者を選定すると言うことですか?」
「ざっくりと言えば、そうですね。もちろん一社ではなく複数お出しはしますよ。一社だけだとギルド側の癒着を疑われかねませんからね。日を決めて、業者をギルドの会議室に集めて、一社ずつ改装案と予算の説明をして貰います。そこから一週間前後かけて、一社に絞って貰う――と言うのが大まかな流れですね」
まさに競合コンペだな……と、内心でひとり納得する。
こちらに似た言葉があるのかは、分からないけど。
そうなると、さすがにそこには、エドヴァルドだけでなくヘルマンさんにもいて貰った方が良いだろうし、近いうちに要相談だなと私は思った。
「分かりました。こちらからその希望日を指定することは可能ですか?」
「ええ、もちろん。ただ一日だけだとさすがに集まる業者の幅が狭まってしまうので、出来れば複数の候補日をいただきたいですね」
「そうですね。それは頭に留め置くようにします。……エリィ義母様、いったんエドヴァルド様と相談させて貰っても良いですか?イル義父様まで参加となると、日時を決めるのが難しくなるんじゃないかと思うんです」
何よりプレゼンする業者が驚天動地の事態に陥る気がする。
そこまでは口にしなかったけど、エリィ義母様も何となく察したみたいだった。
「そうね……一応、こちらも何か援助したいと思っていると言うのは伝えて貰えるかしら?多分、理解はして下さると思うのだけど」
ベルドヴァ男爵家はもともと、フォルシアン公爵領下の貴族だ。
イデオン公爵の影が見え隠れする商会に任せきりと言うのも、どうにも落ち着かないのだろう。
「分かりました。そのあたりの力関係は、私では理解が及ばないところもありますから、伝えてみます」
何かフォルシアン公爵領下の特産品も追加で置けば良いと言うか、改装資金の援助を頼めば良いと言うか、店の後見人に加われば良いと言うか――多分、関わるのを却下するようなことだけはしない筈だけど、どれが一番五公爵間のパワーバランスを崩さないかは、エドヴァルドに判断して貰った方が良い筈だ。
共同の馬車留めに着いた時、私は馭者になって付いて来てくれていたファルコに、ラヴォリ商会のカール商会長代理に、店舗に来ている旨を知らせてくれるよう依頼した。
王都商業ギルドまでは一緒だったルヴェックは、王宮へサタノフの呼び出しに向かって貰っている。
旧〝ツェツィ・オンペル〟までの道のりは、もう一人フォルシアン公爵家の護衛であるステットと言う名の茶髪の青年が付き従ってくれていた。
身長はファルコより低そうだけど、横幅は明らかに勝っている。
見るからに「護衛」と言う感じの青年だ。
まずその見た目で何割かは襲撃を諦めるんじゃなかろうかと言う容貌だ。
それとエリィ義母様の指示で、フォルシアン公爵家の護衛の何人かは、ヒルダ・コンティオラ公爵夫人の所在確認に出た。
ただしこれは、各公爵サマ方には知られないようにと念押しをしてある。
出来ればもう少し事態が動くか、投資詐欺の証拠が集まるか、現行犯逮捕までいってしまうか、してからにしたい。
王都商業ギルドの自警団の方は、カルメル商会と共に、コンティオラ公爵令嬢に詐欺グループが接触する機会を伺って貰うことになった。
リーリャギルド長を筆頭に、自警団のランナーベック団長なんかは、自分達で捕まえる気満々のようだけど、こればかりは、いつ、講義と称した接触が為されるかが分からないので、あとはマトヴェイ部長と王都警備隊に話がいく前に、詐欺グループが動かないことを祈るしかない。
貴族が絡んでいるのだから、自警団だけではトカゲの尻尾切りになる可能性が高い。
貴族側も共に裁こうとするなら、警備隊を巻き込むのは必須案件なのだ。
下手をすると漁場閉鎖、あるいは商業経路の断絶など、ホタテの流通そのものに影響が出かねない。
(それだけは避けなくては)
お店の話も大事だけれど、ホタテも大事。
何とかこれ以上コトを大きくしないよう、動き方を考える必要があった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
たくさんのお見舞い、励ましのメッセージ有難うございました!
お待たせしました、連載再開します!
ただ、まだ完全な体調回復とは言えないので、もうしばらくは時間など不定期の更新になります。
来週くらいから、いつもの朝の更新が出来ればと思っているのですが……。
どうか引き続き宜しくお願いします!! m(_ _)m
私はともかくエリィ義母様、もとい「フォルシアン公爵夫人」がいる時点で、イフナース以外の不動産部門担当者たちが尻込みをしてしまい、まがりなりにも「大公殿下の孫婿」であるイフナースが、責任者として引き受けざるを得なかったのだ。
ギルド長以外は、イフナースのことは「義理の祖父が貴族」程度にしか知らないらしい。ただ、それでも職員のほとんどが根っからの平民層であるために、貴族の相手はイフナースに――と言うことになってしまったらしかった。
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亡くなったツェツィーリア・ベルドヴァ男爵夫人がフォルシアン公爵領下の貴族とあっては、場所がどこであれ、自分も行くべきと固く決意しているのが見て取れた。
「さて、ユングベリ商会長。到着後のことですが、細かい設計図は後日業者選定終了後に詰めていただくとして、今日はどこをどんな風に改装したいと考えているか、今の時点での希望をお聞かせ下さい」
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馬車の中は私とエリィ義母様が隣同士、イフナースは二人の間の位置で向かい側に腰を下ろしている。
どちらとも必要以上に密着しないようにと、彼なりに気を遣ったんだろう。
そして恐らく、その位置は正しい。
真正面に座ったことが知られれば、エドヴァルドなりイル義父様なりが黙ってなさそうだからだ。
ただ、そんなことはおくびにも出さず、私はイフナースの話にうんうんと頷く。
「その、私の希望が叶えられる技術のある業者を選定すると言うことですか?」
「ざっくりと言えば、そうですね。もちろん一社ではなく複数お出しはしますよ。一社だけだとギルド側の癒着を疑われかねませんからね。日を決めて、業者をギルドの会議室に集めて、一社ずつ改装案と予算の説明をして貰います。そこから一週間前後かけて、一社に絞って貰う――と言うのが大まかな流れですね」
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ベルドヴァ男爵家はもともと、フォルシアン公爵領下の貴族だ。
イデオン公爵の影が見え隠れする商会に任せきりと言うのも、どうにも落ち着かないのだろう。
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