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第二部 宰相閣下の謹慎事情
434 天才ギルド長は無双する
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「え、何これ、どう言う状況?」
さすがの史上最年少、天才ギルド長でも、目の前の光景をすぐには理解出来なかったらしい。
引き連れてきた何名かと共に、店の中を見渡しつつ、目を瞬かせていた。
「私は何ともありませんよ、ナザリオギルド長。ユングベリ商会長と店を訪ねて来たところ、強引な売買契約を強要されそうになっていたみたいだったので、商会の従業員や雇われの護衛達が阻止して下さったんですよ」
「何だい、それ!ってか、ユングベリ商会、どんな護衛雇ってるワケ?そこで縛られてるヤツとか、リーサンネ商会の中でも指折りの過激派だよ?今まで、商法の裏をかいて何軒も不正契約を結んで、相手を潰していたんだ。僕やジーノが、なかなか決定的なところを押さえられなくて、やきもきしていたのに、それを!」
え、ナザリオギルド長、八つ当たりですか?
私は、これ以上愚痴られる前にと、イユノヴァさんが強要されかかっていた契約書類を、ナザリオギルド長にサッと差し出した。
「どうぞ。買い取り額に対する手数料率も法外ですし、特にここに書いてある、取扱品『パオリーノ島産の茶葉』の部分は、フォサーティ卿に話を持ち込めば、間違いなく喰いついてくれると思います。噂の『妙な茶葉』ですよ、ギルド長」
妙な茶葉、と言った事でナザリオギルド長の表情が僅かに動いた。
そうして、私以上のペースで書類の束を読み進めている。
「……話はリーサンネ商会と〝ソラータ〟だけには収まらないってコト?」
「ここに、港の停泊権を一隻分買い取る事って一文ありますけど、荷運び用と思しき船の所有権はマルハレータ伯爵家にあるそうです。商会じゃないんですよ。ほら、もうそれだけで怪しさ満点ですよね?」
「………」
文書の一文を私が指さしたところで、ギルド長が静かになった。
「ユングベリ商会長」
「何でしょう」
「ちょっと、取引の話をしようか」
「……はい?」
藪から棒に何だ、と首を傾げる私に、ナザリオギルド長は、さっきまでイユノヴァさんが座らされていた椅子を、ちょいちょいと指さした。
「商会長が今考えている取引、僕が全部まとめてあげるから、説明して?その後一緒に王宮で、今の話ジーノに説明しに行くよ!」
「はい⁉」
いきなり何を!と目を剥く私に、イユノヴァオーナー、とこちらの話を聞かないまま、ナザリオギルド長はさくさくと話を始めていた。
「もう、ユングベリ商会との店舗共有の件は話をした?」
「い…いえ、まだ、助けて頂いた御礼もままならなかった状況で――」
そう言ったイユノヴァ青年はおもむろに立ち上がると、私の方へと深々と頭を下げた。
「改めまして、ヨゼフィーナ共々危急をお救い下さり有難うございます。僕がイユノヴァ・シルバーギャラリーのオーナーである、イユノヴァです」
「レイナ・ユングベリです。あの、どうかそのお礼はウチの従業員達にお願いします。私は、この書類を取り上げさせた程度の指示しか出していませんから」
慌てて両手を振る私に、イユノヴァ青年はすぐさま身体の向きを変えて、マトヴェイ外交部長やバルトリ達の方に向かっても、深々と頭を下げた。
それから「ギルド長」と、改めてナザリオギルド長に向き直っていた。
「僕は、この方が経営される商会であれば、店舗共有の話はぜひお願いしたいと思います。と言っても、イラクシ族の後継者が定まらないと、いつまたこんな騒ぎが起きるか分からないですし、そこがちょっと不安で……」
「え、ちょっとストップ。何、この騒ぎって強制買収の話だけじゃなく、そっちの話も絡んでるってコト?」
ちょっと喰いつき気味のナザリオギルド長に、イユノヴァ青年の方が引き気味なので、ここは仕方なく私が間に立つ。
「あ、それは、あの辺の連中に聞いてみた方が良いですよ?ただただ、店が欲しいリーサンネ商会と、イラクシ族内で権力を握るための『婿がね』として、この方に戻って来て欲しい勢力と、とにかく王都から北方遊牧民族を一人でも追い出したい〝ソラータ〟と、今回に限っては利害が一致しちゃってますから。十中八九、手は組んでいる気がしますけどね」
多分そこに、茶葉を使って王女に恩を売りたかったグイド・フォサーティ宰相令息やら、王宮内での活動資金を稼ぎたかったベッカリーア公爵家やら、更に絡み合っている筈だ。
…ここは言えないけど。
明らかに、その辺りは面倒なコトになる。
ジーノ青年への丸投げ一択で話を進めないと、この後、ラヴォリ商会の商会長とのアポもドタキャンさせられる羽目になりかねなかった。
「その書類と、そこで転がってる連中引き渡しますから、フォサーティ卿ならそれで充分理解出来るんじゃないですか?」
宰相家の謹慎に関して、ナザリオギルド長が知っているのか知らないのか分からない為、ここは、敢えて触れないと言う方向で話すしかない。
「私、午後一番で別の仕事の打ち合わせがあるので、いきなり王宮について来いと言われても困るんです。まだ、他の商品の取引先も開拓出来てませんし」
イユノヴァ・シルバーギャラリーとの店舗共有に関しては「イラクシ族の問題に目途が立てば」と言う条件付での契約を考えていると私が言うと、ナザリオギルド長は「うーん…」と、口元に手をあてた。
「まあ確かに、この店舗内の改装とか店に置く商品の取引先と取引額を決めるとか、試作品作るとか、あれこれ公的な手続きとかしてると、イラクシ族の内部問題をどうにか解決させるのと、同じくらいの日数はかかるかも知れないよね」
「ええ。なので――」
「大丈夫、大丈夫!さしずめ、今メドを立てたいのって、ガラス…は、紹介カード出したんだよね?あとはエプレの契約農家を探すのと、着せ替え人形を作れる人、アングイラを卸してくれる店とかかな?あ、塩と花も少しは必要か……」
さすがやはり、企画書要らずで内容は全て頭に入っているっぽい。
「まあ海産物関連は、そこの海産物市場でメニュー開発と販売まで請け負ってくれる店を探すのが一番効率良いよ。基本が現地、乾物のみ他領他国へ輸出――とかね。エプレと人形に関しては、イラクシ以外の民族に頼むのが一番良いだろうね。自分達が儲けから取り残されると知れば、イユノヴァオーナーに構ってる場合じゃないって、ひょっとしたら考えてくれるかも知れないしね」
むしろ王都でイユノヴァオーナーから、店舗共有しているユングベリ商会に口利きが出来ないか、泣きついてくるかも知れない。
北部に戻って来いなどと言えない状況を作り出すのも一案だよね、とナザリオギルド長は微笑った。
「どうする、試してみる?それなら、僕の伝手で取引先を紹介するよ?ジーノに会って許可取れば、万事オッケーだよ」
「……いえ。非っ常ーに魅力的なお話ですけど――」
即答しない私に、あとひと押しと思ったのか、ナザリオギルド長が「よし、じゃあ、その午後イチの商談、僕も付き合ってあげるよ!」などと口にしはじめ、私は「……はい?」と、再度聞き返してしまった。
「僕を誰だと思っているのさ、バリエンダール王都商業ギルド長だよ?大抵の相談には乗れるよ。相手だって、むしろ僕が行ったら喜ぶんじゃない?」
「………」
私はとっさに答えを返す事が出来なかった。
さすがの史上最年少、天才ギルド長でも、目の前の光景をすぐには理解出来なかったらしい。
引き連れてきた何名かと共に、店の中を見渡しつつ、目を瞬かせていた。
「私は何ともありませんよ、ナザリオギルド長。ユングベリ商会長と店を訪ねて来たところ、強引な売買契約を強要されそうになっていたみたいだったので、商会の従業員や雇われの護衛達が阻止して下さったんですよ」
「何だい、それ!ってか、ユングベリ商会、どんな護衛雇ってるワケ?そこで縛られてるヤツとか、リーサンネ商会の中でも指折りの過激派だよ?今まで、商法の裏をかいて何軒も不正契約を結んで、相手を潰していたんだ。僕やジーノが、なかなか決定的なところを押さえられなくて、やきもきしていたのに、それを!」
え、ナザリオギルド長、八つ当たりですか?
私は、これ以上愚痴られる前にと、イユノヴァさんが強要されかかっていた契約書類を、ナザリオギルド長にサッと差し出した。
「どうぞ。買い取り額に対する手数料率も法外ですし、特にここに書いてある、取扱品『パオリーノ島産の茶葉』の部分は、フォサーティ卿に話を持ち込めば、間違いなく喰いついてくれると思います。噂の『妙な茶葉』ですよ、ギルド長」
妙な茶葉、と言った事でナザリオギルド長の表情が僅かに動いた。
そうして、私以上のペースで書類の束を読み進めている。
「……話はリーサンネ商会と〝ソラータ〟だけには収まらないってコト?」
「ここに、港の停泊権を一隻分買い取る事って一文ありますけど、荷運び用と思しき船の所有権はマルハレータ伯爵家にあるそうです。商会じゃないんですよ。ほら、もうそれだけで怪しさ満点ですよね?」
「………」
文書の一文を私が指さしたところで、ギルド長が静かになった。
「ユングベリ商会長」
「何でしょう」
「ちょっと、取引の話をしようか」
「……はい?」
藪から棒に何だ、と首を傾げる私に、ナザリオギルド長は、さっきまでイユノヴァさんが座らされていた椅子を、ちょいちょいと指さした。
「商会長が今考えている取引、僕が全部まとめてあげるから、説明して?その後一緒に王宮で、今の話ジーノに説明しに行くよ!」
「はい⁉」
いきなり何を!と目を剥く私に、イユノヴァオーナー、とこちらの話を聞かないまま、ナザリオギルド長はさくさくと話を始めていた。
「もう、ユングベリ商会との店舗共有の件は話をした?」
「い…いえ、まだ、助けて頂いた御礼もままならなかった状況で――」
そう言ったイユノヴァ青年はおもむろに立ち上がると、私の方へと深々と頭を下げた。
「改めまして、ヨゼフィーナ共々危急をお救い下さり有難うございます。僕がイユノヴァ・シルバーギャラリーのオーナーである、イユノヴァです」
「レイナ・ユングベリです。あの、どうかそのお礼はウチの従業員達にお願いします。私は、この書類を取り上げさせた程度の指示しか出していませんから」
慌てて両手を振る私に、イユノヴァ青年はすぐさま身体の向きを変えて、マトヴェイ外交部長やバルトリ達の方に向かっても、深々と頭を下げた。
それから「ギルド長」と、改めてナザリオギルド長に向き直っていた。
「僕は、この方が経営される商会であれば、店舗共有の話はぜひお願いしたいと思います。と言っても、イラクシ族の後継者が定まらないと、いつまたこんな騒ぎが起きるか分からないですし、そこがちょっと不安で……」
「え、ちょっとストップ。何、この騒ぎって強制買収の話だけじゃなく、そっちの話も絡んでるってコト?」
ちょっと喰いつき気味のナザリオギルド長に、イユノヴァ青年の方が引き気味なので、ここは仕方なく私が間に立つ。
「あ、それは、あの辺の連中に聞いてみた方が良いですよ?ただただ、店が欲しいリーサンネ商会と、イラクシ族内で権力を握るための『婿がね』として、この方に戻って来て欲しい勢力と、とにかく王都から北方遊牧民族を一人でも追い出したい〝ソラータ〟と、今回に限っては利害が一致しちゃってますから。十中八九、手は組んでいる気がしますけどね」
多分そこに、茶葉を使って王女に恩を売りたかったグイド・フォサーティ宰相令息やら、王宮内での活動資金を稼ぎたかったベッカリーア公爵家やら、更に絡み合っている筈だ。
…ここは言えないけど。
明らかに、その辺りは面倒なコトになる。
ジーノ青年への丸投げ一択で話を進めないと、この後、ラヴォリ商会の商会長とのアポもドタキャンさせられる羽目になりかねなかった。
「その書類と、そこで転がってる連中引き渡しますから、フォサーティ卿ならそれで充分理解出来るんじゃないですか?」
宰相家の謹慎に関して、ナザリオギルド長が知っているのか知らないのか分からない為、ここは、敢えて触れないと言う方向で話すしかない。
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「まあ確かに、この店舗内の改装とか店に置く商品の取引先と取引額を決めるとか、試作品作るとか、あれこれ公的な手続きとかしてると、イラクシ族の内部問題をどうにか解決させるのと、同じくらいの日数はかかるかも知れないよね」
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むしろ王都でイユノヴァオーナーから、店舗共有しているユングベリ商会に口利きが出来ないか、泣きついてくるかも知れない。
北部に戻って来いなどと言えない状況を作り出すのも一案だよね、とナザリオギルド長は微笑った。
「どうする、試してみる?それなら、僕の伝手で取引先を紹介するよ?ジーノに会って許可取れば、万事オッケーだよ」
「……いえ。非っ常ーに魅力的なお話ですけど――」
即答しない私に、あとひと押しと思ったのか、ナザリオギルド長が「よし、じゃあ、その午後イチの商談、僕も付き合ってあげるよ!」などと口にしはじめ、私は「……はい?」と、再度聞き返してしまった。
「僕を誰だと思っているのさ、バリエンダール王都商業ギルド長だよ?大抵の相談には乗れるよ。相手だって、むしろ僕が行ったら喜ぶんじゃない?」
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