聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第一部 宰相家の居候

200 裏切者は進呈します

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
 
 本日の王立植物園食堂ランチ。

 ・黒ごまとかぼちゃサラダのピタサンド
  ※黒ごまはピタに混ぜ込んで貰い、かぼちゃサラダをサンド。

 ・魚の切り身とキノコの葉包み焼き(白身魚、朴葉、ぶなしめじ)
 ・レタスとたまごの中華風スープ(レタス、ごま、ごま油、人参)

 研究をしているのか、給食担当の管理栄養士をしているのか……以下略。

 そろそろ、料理に使える植物や野菜を纏め上げないと、植物園の宣伝広告の為の紙面の見本にも取り掛かれないと思っていたところへ、ちょうど、ソルディーニ園長が選抜したと言う、記事と挿絵を書けそうな従業員さん達を連れて、わざわざ研究室の方へ来てくれたので、午前中はキスト室長も交えて、紙面のイメージを伝える事に終始した。

 もちろん彼らにも、イメージ見本として作成した、小説宣伝風の紙面は見せた。

 恋愛小説風、しかも某王家と一文字違いと言うあたりで、まずソルディーニ園長の顔が痙攣ひきつり、甥の第二夫人の妹を手籠めにしたと言った辺りで、さすがに従業員達も顔色が変わった。

「大丈夫ですよ。発行責任はユングベリ商会が全部背負ってますから、皆さんは植物園の紹介記事だけ考えて下されば」

 ここ数日で、既に多くの店舗で置いてくれているので、じわじわ反響が広がれば良いと思ってる。

 午後はと言えば、キスト室長や他の研究員さん達が、植物や野菜から、有毒成分以外の所謂「身体に良い成分」がどんなものなのかを確かめようと、アレコレと抽出作業を行ってくれている。

 私はその横で、ひたすら「食用になる野菜と植物」を書き出していた。

 途中、廊下でさりげなさを装って、イザクやシーグに様子を聞いてみると、イザクはリュライネンとほぼこもりきりの所為せいか、どこかからの接触があったりとか、そう言った事はまだないらしい。

 私も基本は大勢の従業員研究員たちと行動を共にしていたからか、今のところは誰も、仕事以外では話しかけてこない。

 ――ただ、シーグだけは、若干状況が違ったらしかった。

「連れ立っての二人組に声をかけられました。昨日、挙動不審だった内の二人で間違いありません」
「……何て?」
「お嬢様やイザクさんと、それぞれの研究内容について話をしたりする事はあるのか、と」

 こちらも、スヴェンソンと同様に何のひねりもないなと、ちょっと呆れてしまった。

 この時期にそんな事を聞いて、怪しまれるとかは考えな――かったんだろうな。
 研究しかしてこなかった人たちって、みんななんだろうか。

「それで何て答えたの?」

「自分はまだ独自の研究が出来るほどではないから、お二人に頼まれる事に手を貸しているだけだ。そう答えました」

「相手の反応は?」

「今度植物園の一般食堂でランチを奢るから、その辺り詳しく聞きたい。二人とも忙しそうだから、私が教えてくれれば凄く有難い。さぞや研究が捗るだろう…と」

「もう真っ黒じゃん。ソレ」

「私もそう思う――思い、ます」

 よほど声をかけられたのが不愉快だったのか、シーグの言葉遣いが乱れている。
 私は苦笑して、シーグの肩をポンポンと叩いた。

「ありがと。じゃあ、今回やらかしたのは三人ってコトで、どうするかちょっと考えるね。二人組の名前も後で聞くね。さすがにここ、廊下だし」

 研究室に戻った私は、表向き記事を纏めている風を装いながら、実際にはどうしたものかと、考えを巡らせていた。

(いや、でもリュライネンさんはともかく、室長に言わないって言う選択肢は流石にないかぁ……)

 そもそも、施設のトップであるキスト室長に裏切りの現場を目撃させる事は、この上ない処分の理由になる。
 キスト室長は、下っ端研究員と違って、多分、一筋縄ではいかない人だ。

 後はどうやって、その情報を王宮に渡さないか――だけだ。

「………あ」

「ユングベリ嬢?」

 うっかり声を出してしまい、怪訝そうなキスト室長の視線と、正面からぶつかり合ってしまった。

「ああ、いえ、えーっと……何でも」

 そう言えば、あった。

 国王やエドベリ王子が、情報を知ってもすぐに問い詰める事が出来ず、かつキスト室長にも、下手に動かないよう牽制をかけられる存在ところ

「何でも?本当に?」

「………」

 私はとりあえず圧力に負けた風を装って、キスト室長に別のところでこっそり話をしたいとだけ囁いた。

 一瞬だけ眉根を寄せて、キスト室長は「……執務室へ行こうか」と呟いた。

「あ、イオタも一緒で構いませんか。彼女にも聞いておく事があるので」
「分かった」

 そうして執務室に移動した私が、黙ってスヴェンソン研究員が王宮の調合室の薬師に宛てた手紙を見せると、目を通している途中から顔色が悪くなり、最後には片手で額を覆った。

 手紙の入手は、商会の従業員たちがたまたま飲んでいた居酒屋に、手紙の配達人が夕食とお酒を飲みに来た時にと言う事にしておいた。

「昨日はイザクとリュライネンさんと、徹夜してますから、薬草を盗みになんて入れなかったでしょうし、今日、イザクにこっそり帰ったフリをするよう、リュライネンさんを誘導しろとは言ってあったんですけど」

「もう今日しかない訳だから、現行犯で確実に押さえるつもりだったか」

「その方が室長もご納得いただけるかと。リュライネンさんもいたら、証人としては上々だとも思いましたし。あ、イオタにはそこに書いてある『仲間』が誰か、名前を聞きたかったんです」

「分かっているのか⁉」

「普段大して交流もなかったのに、不自然に声をかけていますからね。しかも、この時期に。そんな訳でイオタ、二人、誰と誰だったか、今聞いても良い?」

 シーグは、私とキスト室長を見比べるように、頷いた。

「はい、お嬢様。ブラウリオさんと、シーロさんでした」

「……日頃からよく一緒にいるのを見かけるな」

「あー…じゃあ彼らも間違いなく共犯って感じですね」

 あっさりと告げる私に、キスト室長の顔がちょっぴり歪んだ。

「何故……」

「うーん……以前から、もしかしたら思うように自分が評価されていないとか、不満があったのかも知れませんけど、決定打になったのは間違いないくユングベリ商会ウチだろうな、と」

「ヴェサール語の件か?」

「それもありますけど、イザクにしろイオタにしろ、有難くもサンダールさんには認めて頂いていたと聞いてます。色々積み重なったんじゃないかと。……まあ、聞いてみないと最終的なところは分かりませんけどね?」

「確かに、それはそうだが……。それで、自警団には連絡を入れたのか?」

「いいえ?」

「なっ……」

「だって、植物園の評判にヒビが入るじゃないですか。自警団なんて呼んだら。王宮護衛と違って、守秘義務とかないでしょうから。どんなに口止めしようと、あっと言う間に街中に広まりますよ?今この時期にそんな事されたら、これから作って配る情報紙面にだって影響出るじゃないですか」

 自己中?エゴ発言?ドンと来い。
 紙面の効果を下げるなんて、一番の悪手じゃないか。
 ここはもう、権力による隠蔽一択です。ええ。

「自警団には突き出しません。ただし、それ以上の権力ちからのある方にします。恐らく、王宮内の勢力争いの道具にでもされて、ロクなコトにならない気はしますけど、それなら充分な罰だと思いませんか?他人の研究成果を横取りするどころかしようとしたんですから、実際、研究者の風上にも置けないって、室長も思われるでしょう?」

「―――」

 目をみはったキスト室長からは、すぐには言葉が返らなかった。

 多分、倫理を深淵の奥底に落っことした室長には、一番理解しやすい結末はなしだと思うんだけどな……と、しばらくこちらも黙って室長の出方を伺う。

「………ちなみに、ユングベリ嬢は何処にするつもりなんだ」

 それは、いつもの穏やかさが抜けた、高位貴族特有と言っても良い、冷やかに洗練された声だった。

 私は、キスト室長が話を一刀両断しなかった事で、恐らくは折れると確信した。

 口の端ににこやかな笑みを乗せる。

「――ラハデ公爵様宛です」
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