聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第一部 宰相家の居候

199 迂闊クンが少なくとも一人

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「アンタ、何やらかしたんだよ…イザクの奴、カンカンじゃねぇか……」

 シーカサーリ王立植物園からの帰路、イザクに研究所に残ると言われ、シーグと二人で帰る途上で、馭者席のファルコが小窓越しにそんな風に声をかけてきた。

「何で、やらかしたのが私前提なのよ。ヒドくない?こっちは冤罪晴らしたいだけなんだってば」

「一応、連絡してきた連中には、見張り付けといたけどな。疑われるような『何か』をやらかしたんじゃねぇのかよ」

 シーグが怪しいと言った4人ほどの話を、いつ、どこで連絡をとったのか…なんて事は、きっと聞くだけ野暮なんだろう。

「エドヴァルド様に出発前に渡した、既成事実狙われないための霊薬エリクサーもどき、アレをたまたま、ギーレンでも開発しようとしていた人がいたのよ。それでその情報を盗まれかけたものだから、似た研究をしていたイザクと、研究をさせていた私とに、一時的に疑いの目が向くのは、しょうがないっちゃ、しょうがないでしょ?」

「え、あれ、イザクのオリジナルじゃなかったっけか?」

「今のところは、イザクの方が一歩先んじてたみたいだけど、そりゃ、研究者としての才能があるなら、製作を思い立つ人はいるでしょ。ましてギーレンとアンジェスじゃ、お互いの情報なんて、入りようがないんだから」

 の様に、専門の学会があって、論文が被らないように「何を研究しているのか」と言った情報の共有をしたりとかはしない――と言うか出来ないのだから、ますます分かる訳がない。

「ああ、なるほどな。お互いにそれと知らずに同時進行で薬を開発してた訳か」

「まあ、そんなとこ。この際だから、薬は二人でより完璧なものに仕上げて貰った方が、後々エドヴァルド様の役にも立つと思って、手を組んで貰う事にしたの。まずはエドヴァルド様が姑息な罠に引っかからない事の方が大事だから、出来上がった後の所有権の話とかは、もう、その時で良いかと思って」

「で、その研究を横から掠め取ろうとしているヤツがいる、と」

「うーん…研究成果を自分のものにしたかったとは思えないのよ。何せ首席研究員の研究分野だったから、掠め取ったところで、あっと言う間にボロが出るだろうから。だから考えられるのは、他国か王宮かに情報を売って、お金を得たかったか――植物園そのものの評判を落としたかったか、どっちかだろうとは思うの」

「普通、自分が働いている職場の評判落とすか―?」

「分からないわよ?今の境遇に不満があるなら『俺を見る目がない植物園なんぞ潰れてしまえ!俺はもっと自分を評価してくれる職場に行ってやる!』…ってなるかも知れないし」

「……それは確かに有り得そうだな。そうか、金か名誉かまでは今の段階では絞り切れねぇ、と」

「イザクは多分、疑われた事そのものよりも、自分にかけられた冤罪が完全に晴れるまで、薬の実験に集中出来ない事に腹を立ててるのよ。首席研究員との共同研究になった事は、結果オーライでしかないから」

「ははは。違いない。薬の事に関しちゃ、アイツも結構譲れない部分を持ってるからな」

 納得がいったとばかりにファルコは笑い、その後私はベクレル伯爵邸で馬車から降ろされた。

「まぁ確かに、薬が完全な形で完成するのは悪い話じゃない。疑わしい連中は、この後手分けして見張っておくわ。動きがあったら連絡する」

「お願いね。別に朝まで待たなくて良いから、何かあったら夜中でもすぐ知らせて」

「……後でお館様に怒られるのは、アンタ一人にしてくれねぇか。何気に俺らを巻き込もうとすんな」

 ファルコ、なんでそーゆートコは鋭いかなぁ……。

*        *         *

 夜。
 意外に夜更かしの心配をしない内から、どうやら動きがあったみたいだった。

 ベランダの窓がコンコンと音を立てて、ファルコがガラス越しに手招きをしていたのだ。

「悪ぃ。あんま時間ねぇから、ココで今話すわ」

 そう言うや否や、懐から一通の手紙を取り出して見せる。

「植物園に一日一度、夕方に手紙の回収やら配達を請け負う連中が出入りしてるみたいだな?だから夕方、この出入りの男を捕まえた…っつーか、今、酒場で無理やり飲ませて、手紙を掠め取って来たんだけどよ」

 読んだら、酔いつぶれている本人の懐に戻すと言っているから、とりあえずは読むしかない。

 封蝋が壊れているのは、後でいくらでも戻せるから気にするなと言う事らしい。
 どうやって…とかは、今は聞くまい。

「!」

 ざっと目を通した私は――軽く目を瞠った。

「まずは一人…ってところか?」

 確認してくるファルコに、軽く頷く。

 宛先は、ギーレン王宮内の調合室にいるらしい男性の名前になっており、差出人の名前は「テルン・スヴェンソン」――最初の自己紹介時に突っかかってきた、あの男だ。

 手紙には『前回渡した薬草では不十分だったらしい事が判明したから、追加を渡す。もし今、調合が失敗していても、その分は見逃して欲しい。返事は不要。明日、自分か仲間かが、前回と同じ時間、場所で薬草を持って待つ』などと書かれている。

「………バカ?」
「おい」

 私の心の底からの嘆息ためいきに、ファルコからの速攻のツッコミが入る。

「いや、だって!話を洩らしたのって、今日の昼間だよ?しかも大根役者が雁首揃えてヘタな芝居して!普通二、三日は警戒しない?しかも明日って!薬草盗まれてるんだから、警備固めるとか思わない?って言うか、私がコレ受け取る側だったら、ワナ警戒して行かないよ⁉」

「だいこん役者って何だよ…まあ良いけど。だから手紙、いったん持って来たんじゃねぇか。コレ自体は、そのスヴェンソンってヤツは確かに落とせるだろうけど、残りが誰か分からねぇ。この手紙以外、今はまだこれといった動きはねぇし、イザクが植物園にまだ残ってるから、その気があっても、盗みに入りようがない。一応、イザクが帰った後にしばらく誰か残しても良いが、そもそもアイツ今日帰る気あるかどうかが微妙だからな」

 ああ…何か、首席研究員リュライネンと、二人しか分からない話題で果てしなく盛り上がっていそうだ。
 ファルコの予想は、私でさえ確定事項な気がしていた。

「どうする?手紙握りつぶして、植物園内の犯人だけあぶり出すならそれでも良いし、このまま手紙を配達させて、相手もまとめておびき出しても良い。あと、今の手紙は証拠として手元に残して、筆跡を真似た手紙を相手に渡す事も可能だ。ハジェスやゲルトナーは、そう言った事が得意だからな。何なら、中身を多少、こっちに都合の良いように書き換えたって良い」

「……わぁ」

 何でもアリか〝鷹の眼〟――いや、知ってたけど。

 一瞬遠い目になりかけたけど、ふと、最後の案は存外アリなのではと思い返した。

「確かに相手ごと一網打尽にしたいけど、盗まれた薬草では、薬として不完全だって言う事と、今、改良した薬を作ろうとしているって言う情報とが王宮側に渡るのも困るのよね……ファルコ、じゃあ中身を書き換えてくれる?そうね『明後日に、一斉在庫確認を、突然室長がやると言い始めた。その作業が終わるまでの間だけで良いので、薬草を保管庫に戻させて欲しい。終わればまた返す。とにかく、今、薬草がないとバレるのは非常にマズい』――的な感じで」

「なるほど、確かにそれなら相手側も、罠の危険性よりも、在庫確認でバレる事への恐れの方が上回って、出て来ざるを得なくなるな。分かった、ならその方向で、配達人起こして、酔い覚め処方して、王都に向かわせるわ」

「よろしく。あとイザクにも、もう今日はいっそ帰って来なくて良いって伝えておいて。理由は、この手紙の話しておいてくれれば分かるでしょ?」

「……せめて仮眠くらいとらせてやれよ。鬼か」

「いやぁ、だって、私がイザクなら、泥棒来るかもって言われたら、絶対に寝ないよ?むしろ休めとか帰って来いとかって言う方が怒るって。そもそも今だってあれだけ憤ってるんだから」

 徹夜したあたりででも、殴ってでも寝かせたら良いんじゃ?と呟いたら、ファルコに心底呆れた顔をされた。

「……なあ」
「何?」
「もういっぺん聞くけど『懲りる』って言う単語は、今、どこに旅に出てんだ?」

 どこかな?と首を傾げてみたら、思い切り頭をはたかれた。
 ひどい。
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