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 いくら探しても良いところが無いーーただの悪口と。
 友達が好意を持って呼んでくれるーー呼ばれ続ける愛称。
 
 この違いがわかるアオイは、それに憧れ、異常なほどの執着心を見せた。
 せっかく出来た友達を巻き込むのは承知で、その意思を突き通す。

「貴方の呼び名は、良い所探せばいくらでもあるじゃ無い! 何で悪い所探しをするのよ!?」
「そ、そんな風に、言われても……嫌なものは嫌のよ!」
「何が嫌なの!? コウは貴方に悪意を持って呼んだりして無いじゃない。
 呼び易いって、沢山呼びたいって証拠じゃない!」
「……そ、そうなの?」

ーーそう、なのだろうか。

 深く考えていたわけじゃない、なんとなくそうしただけだ。
 名前の呼び方なんて、所詮区別するためのもの。
 オノレノだって、複数いる小野とレノの中にいる“小野麗乃”を区別する為だけに用意されたものだ。

 レノ本人だってわかってる。
 レノと呼ばれたくとも、そうはさせてくれない状況で、仕方がない事。

ーーでも。”その仕方がない“に……レノが嫌がっている様に、俺には思えたんだ。

 ただ、俺の事が嫌いで、俺に呼ばれるのが嫌なだけかもしれない。
 ただの思い過ごしかもしれないから、確信はない。

ーー俺だったら、作業感のある呼び名なんて、嫌だから。

 その気持ちを、押し付けていただけだったのかもしれない。

「じゃあ、言わせて貰うけど! 神田君の言う、『呼び易い』という意見に反対だわ。
 “オノレノ”に対して、“オノレノ”は、わざわざ1文字多くなっていて、長くなっているじゃ無い!」
「長さなんて関係無いわ。太郎と桃太郎がいても、桃太郎は太郎と呼ばれず、長くとも桃太郎としか呼ばれないもの」
「すり替えよ、それ。話題のすり替えだわ!
 私にはみんなが呼んでくれる、私を呼ぶためだけの名前、“オノレノ”があるの。
 わざわざ、オノレノにする必要、無いと思います!」
「オノレノンも、あなたを呼ぶためだけの名前だわ。
 それに、慣れ親しんでいる呼び方・呼び易さに文字数と関連付けて考えるのは不当だわ」
「例えば!? 他に例えていってくれなーい?」
「“鉛筆”。えんぴつは英語で言うと同じ4文字の“ペンシル”だけど、呼び難いわ」
「残念でしたー! ペンシルはカタカナ。pencilだから……6文字ですー!」
「とにかく。長さは問題じゃ無いわ。
 今の問題は、呼び慣れた呼び方かどうかの話なの」
「……ま、まあ良いわ。呼び易い、は認めてあげても良いわよ!? 
 でも、それだけじゃない! 私にとってのメリットは?」
「メリット、ね……」
「……ほ~ら、無いじゃない! 私に良い事無いなんて、あんまりじゃないの?!」
「ーー正直な話。私も……驚いてるわ」

ーー空気が、変わった。

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