ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

文字の大きさ
90 / 151

祖母の葬儀 1〜助っ人、咲恵ちゃん〜

しおりを挟む
 翌朝は心配していたほどの大降りではなかったものの、数日前の固くなった雪の上に新雪が積もった。

 父は朝暗いうちから晃夫を連れてお墓の雪掻きに出かけた。帰って来てからも家の中と外を忙しく行き来しては、参列者が室内に収まりきれるかどうかしきりに気にしていた。
 晃夫が颯也と一緒に家の周りの新雪を掃き、土地だけは余っている典型的な田舎家の庭の一角に受付のテントが設営された。

 畑中君と母のアドバイスと、平均気温は高いが空っ風のキツい真冬の関東平野のサッカー当番で先輩ママ達から伝授された防寒対策の合わせ技を駆使する事にした。
 ヒート何ちゃらインナーの本家本元からまであるだけ持ってきた防寒下着を全て重ね着し、背骨に沿って腰と肩甲骨の辺りに貼らないタイプの使い捨てカイロをガムテープで装着する(貼るタイプより温かいそうだ)

 折しもデフレ経済と節約ブームの真っただ中、老舗企業の苦戦を尻目にGAFAと組んだら日本征服できるんじゃないかってほどの勢いで業績を伸ばす某ファストファッション企業が、鳴物入りで発売した発熱下着をきっかけに世は空前のババシャツブームだった。

 ダメ推しで母に借りたモヘアのカーディガンをジャケットの下に仕込み、受付開始前までは手袋二枚重ねでいざ出陣。レスラーのように膨れた腕周りが少々ぎこちないが、背に腹は代えられない。

 まだ雪がちらつく中、咲恵ちゃんが運転するワゴンカーに乗り、祖母方の親戚達が到着した。
 彼女や祖母方のおばさん達が揃いも揃って黒のタートルネックセーターをインナーにもってきているあたり、熟練度とか達人感ってもんが違う。

 カジュアルなイメージのニットはよくてフォーマル風のコートがNGという父の理屈もよく理解できないが、グローバルスタンダードなポリティカル・コレクトネスを持ち出したところでローカルルールと父ルールの合わせ技には勝てないだろう。
 そんな不毛な争いよりも、今日を無事に生き延びて全てから解放される明日に希望を託したい。

「しーちゃん、久しぶり!全然変わってないね!」

 駐車場に車を停め、受付のテントに顔を出した咲恵ちゃんは私を見るなり白い息をもうもうと吐きながら破顔一笑した。髪を染め、着膨れも手伝って少しふっくらしているが、若いときの可愛らしい雰囲気は十分残っている。

「咲ちゃんこそ!何年ぶりかな」

「何だかんだ二十年ぶりぐらいじゃない?」

「やだ、そんなに?」

 高校の時は新聞部で毎週のように顔を合わせていたのに、受験期になったらクラスもコースも違い、たまたま上京する時に盛岡行きのーー当時は新幹線の始発だったーー直通バスに乗り合わせて数時間喋り倒して別れた。

 思えば確かにそれ以来だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ことりの古民家ごはん 小さな島のはじっこでお店をはじめました

如月つばさ
ライト文芸
旧題:ことりの台所 ※第7回ライト文芸大賞・奨励賞 都会に佇む弁当屋で働くことり。家庭環境が原因で、人付き合いが苦手な彼女はある理由から、母の住む島に引っ越した。コバルトブルーの海に浮かぶ自然豊かな地――そこでことりは縁あって古民家を改修し、ごはん屋さんを開くことに。お店の名は『ことりの台所』。青い鳥の看板が目印の、ほっと息をつける家のような場所。そんな理想を叶えようと、ことりは迷いながら進む。父との苦い記憶、母の葛藤、ことりの思い。これは美味しいごはんがそっと背中を押す、温かい再生の物語。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

☆ほしい
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...