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祖母の葬儀 1〜助っ人、咲恵ちゃん〜
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翌朝は心配していたほどの大降りではなかったものの、数日前の固くなった雪の上に新雪が積もった。
父は朝暗いうちから晃夫を連れてお墓の雪掻きに出かけた。帰って来てからも家の中と外を忙しく行き来しては、参列者が室内に収まりきれるかどうかしきりに気にしていた。
晃夫が颯也と一緒に家の周りの新雪を掃き、土地だけは余っている典型的な田舎家の庭の一角に受付のテントが設営された。
畑中君と母のアドバイスと、平均気温は高いが空っ風のキツい真冬の関東平野のサッカー当番で先輩ママ達から伝授された防寒対策の合わせ技を駆使する事にした。
ヒート何ちゃらインナーの本家本元からパチもんまであるだけ持ってきた防寒下着を全て重ね着し、背骨に沿って腰と肩甲骨の辺りに貼らないタイプの使い捨てカイロをガムテープで装着する(貼るタイプより温かいそうだ)
折しもデフレ経済と節約ブームの真っただ中、老舗企業の苦戦を尻目にGAFAと組んだら日本征服できるんじゃないかってほどの勢いで業績を伸ばす某ファストファッション企業が、鳴物入りで発売した発熱下着をきっかけに世は空前のババシャツブームだった。
ダメ推しで母に借りたモヘアのカーディガンをジャケットの下に仕込み、受付開始前までは手袋二枚重ねでいざ出陣。レスラーのように膨れた腕周りが少々ぎこちないが、背に腹は代えられない。
まだ雪がちらつく中、咲恵ちゃんが運転するワゴンカーに乗り、祖母方の親戚達が到着した。
彼女や祖母方のおばさん達が揃いも揃って黒のタートルネックセーターをインナーにもってきているあたり、熟練度とか達人感ってもんが違う。
カジュアルなイメージのニットはよくてフォーマル風のコートがNGという父の理屈もよく理解できないが、グローバルスタンダードなポリティカル・コレクトネスを持ち出したところでローカルルールと父ルールの合わせ技には勝てないだろう。
そんな不毛な争いよりも、今日を無事に生き延びて全てから解放される明日に希望を託したい。
「しーちゃん、久しぶり!全然変わってないね!」
駐車場に車を停め、受付のテントに顔を出した咲恵ちゃんは私を見るなり白い息をもうもうと吐きながら破顔一笑した。髪を染め、着膨れも手伝って少しふっくらしているが、若いときの可愛らしい雰囲気は十分残っている。
「咲ちゃんこそ!何年ぶりかな」
「何だかんだ二十年ぶりぐらいじゃない?」
「やだ、そんなに?」
高校の時は新聞部で毎週のように顔を合わせていたのに、受験期になったらクラスもコースも違い、たまたま上京する時に盛岡行きのーー当時は新幹線の始発だったーー直通バスに乗り合わせて数時間喋り倒して別れた。
思えば確かにそれ以来だ。
父は朝暗いうちから晃夫を連れてお墓の雪掻きに出かけた。帰って来てからも家の中と外を忙しく行き来しては、参列者が室内に収まりきれるかどうかしきりに気にしていた。
晃夫が颯也と一緒に家の周りの新雪を掃き、土地だけは余っている典型的な田舎家の庭の一角に受付のテントが設営された。
畑中君と母のアドバイスと、平均気温は高いが空っ風のキツい真冬の関東平野のサッカー当番で先輩ママ達から伝授された防寒対策の合わせ技を駆使する事にした。
ヒート何ちゃらインナーの本家本元からパチもんまであるだけ持ってきた防寒下着を全て重ね着し、背骨に沿って腰と肩甲骨の辺りに貼らないタイプの使い捨てカイロをガムテープで装着する(貼るタイプより温かいそうだ)
折しもデフレ経済と節約ブームの真っただ中、老舗企業の苦戦を尻目にGAFAと組んだら日本征服できるんじゃないかってほどの勢いで業績を伸ばす某ファストファッション企業が、鳴物入りで発売した発熱下着をきっかけに世は空前のババシャツブームだった。
ダメ推しで母に借りたモヘアのカーディガンをジャケットの下に仕込み、受付開始前までは手袋二枚重ねでいざ出陣。レスラーのように膨れた腕周りが少々ぎこちないが、背に腹は代えられない。
まだ雪がちらつく中、咲恵ちゃんが運転するワゴンカーに乗り、祖母方の親戚達が到着した。
彼女や祖母方のおばさん達が揃いも揃って黒のタートルネックセーターをインナーにもってきているあたり、熟練度とか達人感ってもんが違う。
カジュアルなイメージのニットはよくてフォーマル風のコートがNGという父の理屈もよく理解できないが、グローバルスタンダードなポリティカル・コレクトネスを持ち出したところでローカルルールと父ルールの合わせ技には勝てないだろう。
そんな不毛な争いよりも、今日を無事に生き延びて全てから解放される明日に希望を託したい。
「しーちゃん、久しぶり!全然変わってないね!」
駐車場に車を停め、受付のテントに顔を出した咲恵ちゃんは私を見るなり白い息をもうもうと吐きながら破顔一笑した。髪を染め、着膨れも手伝って少しふっくらしているが、若いときの可愛らしい雰囲気は十分残っている。
「咲ちゃんこそ!何年ぶりかな」
「何だかんだ二十年ぶりぐらいじゃない?」
「やだ、そんなに?」
高校の時は新聞部で毎週のように顔を合わせていたのに、受験期になったらクラスもコースも違い、たまたま上京する時に盛岡行きのーー当時は新幹線の始発だったーー直通バスに乗り合わせて数時間喋り倒して別れた。
思えば確かにそれ以来だ。
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