91 / 151
祖母の葬儀 2〜助っ人、咲恵ちゃん〜
しおりを挟む
ちょっと前ならメールアドレス、今ならSNSのIDでも交換するのかもしれないが、お互い「同じ東京だし実家に帰って会おうと思えば実家に帰ってくれば会える」みたいな油断があったせいか、わざわざ連絡を取らずにいるうちに彼女が留学したり私が結婚、出産で転居したり……と気づけば驚くような年数が経っていた。
仲が悪く疎遠になっていた訳ではなく、何度か連絡を取って会おうとはしたのだが、その度にタイミングが合わなかったりライフスタイルの変わり目だったりーーお互いの近況について、風の噂ならぬ親戚ネットワークで情報だけは仕入れていたのも、そこまでの無沙汰に気づかなかった一因かもしれない。
公私共に海外を行き来しながら、キャリアウーマンとしてシングル生活を謳歌しているかに見えた咲恵ちゃんだが数年前に突如、結婚して神奈川に引っ越したというお知らせの葉書が来た。
翌年の年賀状には「一度遊びに来てください」と添え書きされていた。
当人同士でシンプルに籍だけを入れた、いわゆる「地味婚」というやつでこちらの親世代や年寄り達がずいぶんやいのやいの言ったらしい。
私が豊と結婚を考えた時は、「新郎新婦がミラーボールの光とスモークの中ゴンドラに乗って登場しお色直しはおかわり自由」なバブルのド派手婚ーーの時代はさすがに過ぎ去っていたものの、「身内に対するケジメ的な儀礼を欠くのは失礼である」という風潮は色濃く残っていた。
「家も離れていてお互い高齢の親戚も多いし、お互いの家族で顔合わせして籍だけ入れたらいいんじゃないか」という話も二人の間で一応出たのだが、両方の親から(それぞれのお国言葉で)「とんでもない」「そんなわけにはいかない」という反応が返ってきたためあっさり断念してしまった。
向こうで型通りの式を挙げ、披露宴を開いた事自体はーーこちらの親戚や旧友も遠路はるばる駆けつけてくれたしーーそれなりにいい思い出になっているのだが、自分の意志を貫いた咲恵ちゃんのことは格好いいなあと思っていた。
ちょうど悠也の診断がつく前のトラブル頻発期で、ある意味乳児期以上に子育てに手が掛かる時期だったのだが、いつか落ち着いたら咲恵ちゃん宅に遊びに行きたいとは思っていたのだーー子どもがいようといまいと同世代の晩婚カップルの理想のような家庭を築いている事を信じて。
「今日はありがとうね。こっち帰ってきてたの、知らなかった」
「そ。晴れてバツイチ。あはは」
離婚のこと、触れないでおこうかとも思ったのに明るい……
仲が悪く疎遠になっていた訳ではなく、何度か連絡を取って会おうとはしたのだが、その度にタイミングが合わなかったりライフスタイルの変わり目だったりーーお互いの近況について、風の噂ならぬ親戚ネットワークで情報だけは仕入れていたのも、そこまでの無沙汰に気づかなかった一因かもしれない。
公私共に海外を行き来しながら、キャリアウーマンとしてシングル生活を謳歌しているかに見えた咲恵ちゃんだが数年前に突如、結婚して神奈川に引っ越したというお知らせの葉書が来た。
翌年の年賀状には「一度遊びに来てください」と添え書きされていた。
当人同士でシンプルに籍だけを入れた、いわゆる「地味婚」というやつでこちらの親世代や年寄り達がずいぶんやいのやいの言ったらしい。
私が豊と結婚を考えた時は、「新郎新婦がミラーボールの光とスモークの中ゴンドラに乗って登場しお色直しはおかわり自由」なバブルのド派手婚ーーの時代はさすがに過ぎ去っていたものの、「身内に対するケジメ的な儀礼を欠くのは失礼である」という風潮は色濃く残っていた。
「家も離れていてお互い高齢の親戚も多いし、お互いの家族で顔合わせして籍だけ入れたらいいんじゃないか」という話も二人の間で一応出たのだが、両方の親から(それぞれのお国言葉で)「とんでもない」「そんなわけにはいかない」という反応が返ってきたためあっさり断念してしまった。
向こうで型通りの式を挙げ、披露宴を開いた事自体はーーこちらの親戚や旧友も遠路はるばる駆けつけてくれたしーーそれなりにいい思い出になっているのだが、自分の意志を貫いた咲恵ちゃんのことは格好いいなあと思っていた。
ちょうど悠也の診断がつく前のトラブル頻発期で、ある意味乳児期以上に子育てに手が掛かる時期だったのだが、いつか落ち着いたら咲恵ちゃん宅に遊びに行きたいとは思っていたのだーー子どもがいようといまいと同世代の晩婚カップルの理想のような家庭を築いている事を信じて。
「今日はありがとうね。こっち帰ってきてたの、知らなかった」
「そ。晴れてバツイチ。あはは」
離婚のこと、触れないでおこうかとも思ったのに明るい……
0
あなたにおすすめの小説
ことりの古民家ごはん 小さな島のはじっこでお店をはじめました
如月つばさ
ライト文芸
旧題:ことりの台所
※第7回ライト文芸大賞・奨励賞
都会に佇む弁当屋で働くことり。家庭環境が原因で、人付き合いが苦手な彼女はある理由から、母の住む島に引っ越した。コバルトブルーの海に浮かぶ自然豊かな地――そこでことりは縁あって古民家を改修し、ごはん屋さんを開くことに。お店の名は『ことりの台所』。青い鳥の看板が目印の、ほっと息をつける家のような場所。そんな理想を叶えようと、ことりは迷いながら進む。父との苦い記憶、母の葛藤、ことりの思い。これは美味しいごはんがそっと背中を押す、温かい再生の物語。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯
☆ほしい
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。
でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。
今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。
なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。
今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。
絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。
それが、いまのレナの“最強スタイル”。
誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。
そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる