ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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お祖母ちゃんの金庫 2

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 一度などタクシーに乗って本家に行き、「近々売るはずの土地の権利書を取り上げられた」と理路整然と訴えたので従伯父が喧嘩腰で父を説教しに来た、という騒動があったそうだ。

 父はもちろん何のことやらわけがわからず、話し合いですぐ誤解は解けたのだが「あの時はすっかり騙された」と一緒に通夜の酒の席で笑っていた。

 祖母の実家は大工の家系で、若い頃は気の荒い従兄弟同士の喧嘩で負けた方が田んぼに放り投げられるところを散々見てきたので、と父は笑い、

ほに、そっただ目さ遭わねえでよがったやぁ本当に、そんな目に遭わないでよかったなあ

 と、彼らが帰った後で可笑しそうにつけ加えた。

 そんなあれやこれやが続いてすっかり懲りた父は、祖母専用の金庫を買い与えた。これで一安心と思っていたら今度は当の祖母が鍵をなくしてしまい、母が私に電話で相談してきた。

「土曜で金庫買った店も休みだし、おばあちゃんも『鍵盗られた』って騒ぐし……なじょしたもんだべどうしたらいいもんか

「二十四時間対応の鍵開けサービスに電話したら?」

「鍵開け屋?そっただもんがあんのそんなものがあるの?」

「車でも家でも金庫でも、鍵をなくしたり閉じこめちゃったりした時に電話一本で開けてくれるんだって」

 当時はまだなじみの薄いサービスだったし、幸い自分もお世話になるような事はなかったのだが、テレビの情報番組で時々取り上げられていたので覚えていた。

「ふうん。だって、静子の家と違っておらほ私の家は田舎だもの、そっただのぁねぇんだそんなものはないんだ」 

「電話帳で調べてみなよ。ハローページじゃなくてタウンページの方。八戸とか盛岡ならあるかもしれないよ?」

 ちなみに当時は即時性のある連絡手段といえば固定電話が主流で、地域の個人宅の電話番号が掲載された「ハローページ」と商店や会社の電話番号が掲載された「タウンページ」が加入者宅に毎年配られ、古い物は回収されていた。
 黄色いタウンページは今のそれより分厚ぶあつく、ハローページはさらに数倍のページ数があった。膨大な資料を指して「電話帳のよう」と形容したりしたものだが、若い人にはもう通じないのかもしれない。

おらほさ来てけんべかうちに来てくれるかな遠がべぇ遠いだろうし……」

「それも聞いてみたらいいじゃない」

「ふうん……んだらそれならお父さんさ言ってみる」

 我ながらいい提案だと思ったのだが、母は気乗りしないようだった。とりあえず礼を言われて通話を終えた。
 未知の職種に後込みしたのか探してもやっぱり見つからなかったのか、そして祖母をどうやって納得させて待たせていたのかはわからないが結局、月曜日に八戸から金庫屋の人が来てくれて無事解決したそうだ。
  
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