ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

文字の大きさ
上 下
39 / 151

祖母、主治医と大喧嘩する 2

しおりを挟む
へそっこ曲げでしまって『はあ行がねもう行かない』って」

「それは困ったね」

「そうでもねえが。はぁ三年も前の話だ」

「え、そんな前の話?」

 漫画のように「ズコッ」とコケそうになった。年配者と言うのはどうして時々時制を無視して昔の話をするのだろうか。
 六十代前半の親を「年寄り」の部類に入れてしまっては怒られそうだが、干支がひと回りしてしまうと十年以内の出来事は現在進行形の範疇なのかもしれない。

「それで?別の病院に行ったの?」

「んねでぁ。おばあちゃんの方は元々病院ば好ぎがんねぇ病院を好きではない人だもの。はあ、そのまんまさ」

「じゃあ三年間放ったらかしなの?具合悪くならなかった?」

こえぇばしんどければ病院さへでげ病院に連れて行け』って言い出すべと思って様子ば見でだった様子を見ていた。んだども、本人はけろっとしてお父さんがなんぼいくら『別な医者様さ行ぐべす行こう』っつても聞がねえんだもの」

「だよね。心配だよね」

先頃せんころ、やっと介護認定受けでさ。その時に頼んで測ってもらったの。 したっきゃ正常だじょうそしたら正常だって

「えっ、本当に?」

 祖母の高血圧が治った……というよりは診断基準の違いなのだろう。

 昔はいくつから上が高血圧、と機械的に決まっていたが今は数値だけでは決めないと聞いたことがある。結果的には血管の病気で亡くなったわけだが、どちらかというと急性の老衰のようなものだろう。

「ならいいけど……でも、通院やめるほどの大喧嘩って相当じゃない?何があったの?」

「さあ。どうせ大したことじゃながべぇ。爺様先生も年寄りだし、うちのおばあちゃんもきがねえきかん気が強い人だもの」

 歳をとると人間が丸くなる、というのはどうやら幻想らしい。感情抑制を司る前頭葉は加齢とともに機能が低下していくそうだ。

「お父さんが代わりに謝りに行ったら若先生が出て来て『何、お互い様だ』って笑ってだって。そっちはそれで済んだんだども」

 若先生になら私も面識がある。悠也が一歳くらいの頃、帰省中に熱を出してたまたま休日外来の当番医だったところに駆け込んだ。もう十年近く前になるが、髪を黒々と染めた年齢不詳の御仁だったのを記憶している。
 こちらのかかりつけ医ではまずお目にかからないような、昭和テイストの毒々しいピンク色のシロップ薬を処方してもらった。

 昭和の子どもだった私は、甘い物なんてほとんど置いていない家だったので、滅多に出さない熱を出すと甘いシロップ薬が飲めると喜んでいたものだ。懐かしいような心配なような気になった。

 案の定、悠也はシロップを2回ほど飲んだ後は嫌がって飲まず、飲んだ分も結局後でもどしてしまったので合わなかったのかもしれない。

 それでも無事、帰宅の日までに熱は下がったので感謝はしている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...