ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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祖母、主治医と大喧嘩する 2

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へそっこ曲げでしまって『はあ行がねもう行かない』って」

「それは困ったね」

「そうでもねえが。はぁ三年も前の話だ」

「え、そんな前の話?」

 漫画のように「ズコッ」とコケそうになった。年配者と言うのはどうして時々時制を無視して昔の話をするのだろうか。
 六十代前半の親を「年寄り」の部類に入れてしまっては怒られそうだが、干支がひと回りしてしまうと十年以内の出来事は現在進行形の範疇なのかもしれない。

「それで?別の病院に行ったの?」

「んねでぁ。おばあちゃんの方は元々病院ば好ぎがんねぇ病院を好きではない人だもの。はあ、そのまんまさ」

「じゃあ三年間放ったらかしなの?具合悪くならなかった?」

こえぇばしんどければ病院さへでげ病院に連れて行け』って言い出すべと思って様子ば見でだった様子を見ていた。んだども、本人はけろっとしてお父さんがなんぼいくら『別な医者様さ行ぐべす行こう』っつても聞がねえんだもの」

「だよね。心配だよね」

先頃せんころ、やっと介護認定受けでさ。その時に頼んで測ってもらったの。 したっきゃ正常だじょうそしたら正常だって

「えっ、本当に?」

 祖母の高血圧が治った……というよりは診断基準の違いなのだろう。

 昔はいくつから上が高血圧、と機械的に決まっていたが今は数値だけでは決めないと聞いたことがある。結果的には血管の病気で亡くなったわけだが、どちらかというと急性の老衰のようなものだろう。

「ならいいけど……でも、通院やめるほどの大喧嘩って相当じゃない?何があったの?」

「さあ。どうせ大したことじゃながべぇ。爺様先生も年寄りだし、うちのおばあちゃんもきがねえきかん気が強い人だもの」

 歳をとると人間が丸くなる、というのはどうやら幻想らしい。感情抑制を司る前頭葉は加齢とともに機能が低下していくそうだ。

「お父さんが代わりに謝りに行ったら若先生が出て来て『何、お互い様だ』って笑ってだって。そっちはそれで済んだんだども」

 若先生になら私も面識がある。悠也が一歳くらいの頃、帰省中に熱を出してたまたま休日外来の当番医だったところに駆け込んだ。もう十年近く前になるが、髪を黒々と染めた年齢不詳の御仁だったのを記憶している。
 こちらのかかりつけ医ではまずお目にかからないような、昭和テイストの毒々しいピンク色のシロップ薬を処方してもらった。

 昭和の子どもだった私は、甘い物なんてほとんど置いていない家だったので、滅多に出さない熱を出すと甘いシロップ薬が飲めると喜んでいたものだ。懐かしいような心配なような気になった。

 案の定、悠也はシロップを2回ほど飲んだ後は嫌がって飲まず、飲んだ分も結局後でもどしてしまったので合わなかったのかもしれない。

 それでも無事、帰宅の日までに熱は下がったので感謝はしている。

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