ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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祖母からの電話 2〜祖母の異変?〜

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 ほうが、元気でばいい。病むねぇそうか、元気ならいい。病気をするな

 祖母の言葉は母よりさらに南部訛りががきつい。補聴器をつけているのかどうかはわからないがこちらの言葉は聞き取りづらいようだ。

「静子、正月さ来るが?」

 私は首を傾げた。独身の頃はお盆と年末年始、大学時代にはゴールデンウィークや春休みにも帰省していたが、年末年始の時期にはここ十年以上帰っていない。

 家庭を持って車での帰省になってからは一切合切をまとめて(?)お盆の時期だけに少し長めの帰省をすることにしている。

 夏は行き帰りの日にちををずらしていくらか混雑を避ける事ができるが、日程の決まっている年末年始は渋滞を避けられない上に雪や寒さのためにどうしても足が遠のく。
 活火山だが心配性の父が、あれこれ要らぬ気を揉むという事も少しはある。

「ごめんね、お祖母ちゃん。お正月は帰れないんだよう」

 私はなるべくゆっくりと、はっきりした口調で答えた。

「帰んないのが」

 どうせ「ダメもと」で電話してきたのだろうと思いきや、予想以上に落ち込む祖母に心が痛んだ。

 田舎のお盆と年末年始は二大イベントだが、墓参りや親戚回りといったオフィシャルな行事が絡むお盆と違い、正月は家族だけで過ごす。
 カウントダウン何ちゃらだとか、いかにもな賑々しさはなく昔ながらの個人商店は大晦日と三が日きっちり休むような田舎の正月だが、住んでいる人の心理的には都市部の数倍イベント感が違うような気がするーー何より昭和の頃は、近隣の多くの家では農閑期の出稼ぎに出ていた父ちゃんが帰ってくる特別な日だった。
 祖母の中ではいまだに年末年始に孫がいないことの方がイレギュラーなのかもしれない。

「したら、夏さ来るが」

「うん、夏に行くよ」

「んだら、婿さんさよろしぐ。 わらすどうへで夏さ来う子ども達も連れて夏に来なさい。病むねえ」

「うん。夏に行くからお祖母ちゃんも体大事にして」

「夏さ来るが。わらすへで来るが」

「うん。颯也も悠也も連れて、夏に行くよ。体に気をつけて長生きしてね」

「うんうん、んでばな。病むねえ」

「じゃあね。元気でね」

 病むねえ、と祖母が哀しげな口調で最後に繰り返したのがずっと耳に残っていた。何となく気になって次の日、母に電話をした。

「ふうん、おばあちゃんがねえ。短縮ダイヤルでも押したんだべが」

 母はいつも以上に気の抜けた、のんびりとした調子で答えた。
 実家の電話機は短縮ボタンの一番目と二番目にそれぞれ私の家と弟の携帯の番号を登録してある。
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