赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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エンプレス・ソフィア号、パーティ大作戦

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 一生に一度は乗ってみたいセレブ御用達クルーズ客船エンプレス・ソフィア号。

 その売りは五つ星ホテル並みに至れり尽くせりの船内サービスーーではなく「たとえ目的地がポイント・ネモ(大洋到達至難極。地球上のあらゆる陸地より人工衛星接近時の方が近い)であったとしても決して飽きさせない」と自負する充実したイベントのラインナップだ。
 地上ならチケット争奪戦必至の世界的舞踏団に全米が泣いたロングランミュージカル、VRゲームやカジノーー娯楽が目白押しだし、船内にいながらにして文字通りの森林浴が楽しめる温室庭園併設のスパもある。

「VIP客ばかりの特別なパーティーです。苦情があってはいけない。虫や花粉、匂いなどは大丈夫でしょうね?」

 カウントダウンパーティの会場ホールでは、イベントプロデューサーが各方面の準備に大わらわだ。   
 彼は大手生花店の制服を着たスタッフ達に念を押した。

「もちろんです。花は運び込む前後に、念入りに点検しております」

 いやに雰囲気のあるリーダー格の男がドスのきいた声で答えたのでプロデューサーは内心、怯んだ。

「チーフ。レイコ・ヌマノボー先生がお見えです」

「一年の終わりの夜と始まりの朝に、船でサプライズウエディングなんてロマンティック!会場一杯のフラワーアレンジメントはさらにファンタスティック!芸術はビッグバンですわあああああっ」

「せ、先生……サプライズウエディングは今夜のトップシークレットなのです。どうぞご内密に」

 スタッフに連れられて登場したのは、高々と結い上げたドレッドヘア、パリコレのランウェイからすっ飛んできたような原色のミニワンピースに蛍光色のアクセサリーとサングラスを合わせた、やけにハイテンションな年齢不詳の女性ーー少なくとも日本人にだけは見えない。

 この人物がかの、レイコ・ヌマノボー……

「伝統こそ生き残るために変化すべき」という主張を引っ提げ、SNS中心に流派に囚われない独特のセンスの生け花作品を発表し続ける覆面華道家だ。
 各国の若者を中心に絶大な人気を得ている次世代のジャパニーズ・トラディショナル・フラワー・アーティスト……なんだそうだ。
 居住地、本名、実際の風貌も一切不明かつ神出鬼没であるので「生花界の◯ンクシー」の異名でも呼ばれる。セレブの間では目下、いかに人脈を駆使して彼女を匿名でパーティに呼び、会場を飾った作品映像をSNSでバズらせるかがトレンドとなっている。

 なお、本人は華道の某名門流派の先代家元の庶子を名乗っているが流派は一切の関わりを否定、彼女の作品については「本来の華道が持つ精神性とは無縁の、大衆向けパフォーマンス」と批判したきり黙殺を決め込んでいる。

 プロデューサーには花の事は皆目わからないが、あの色つきのサングラスと派手な長いネイルで、どうやって花を生けるというのかーーSNSで時流に乗った熱狂的なブームもどうせ一過性であろうという事だけは予想できる。
「SNS王」なる二つ名の手前、トレンドを外すことを極端に嫌う主催者ユーラ・チャンが自身のネットワークをフル動員してやっと渡りをつけ、会場全体の装飾を依頼したらしい。
 ブームはまだ人口に膾炙かいしゃしない最高潮の手前で、周囲に最大のインパクトを与える形で最大限に消費するーー見栄っ張りで負けず嫌いの彼らしい。

 成り上がりセレブの二代目や三代目、ネット上で巨額の富を転がすうんちゃらプランナーやらかんちやらコンサルタントといった肩書きのぽっと出の成功者、虚業の王の中の王たるユーラ・チャン……薄っぺらい虚飾と胡散臭いハリボテだらけのメンバーにはお似合いの人選ともいえるが。

「ヌマノボー先生は、創作中に高度な瞑想と精神統一を必要となさいます。作業中は先生のアトリエスタッフ以外、どなたもホールにお入れになりませんよう」
 
 ヌマノボーの助手だという、黒スーツ姿のアジア系の女性が告げた。極めて常識的な装いが師匠との対比でかえって異質に思える。

 やはりサングラスやネイルは外すので、そこを見られたくないのかもしれないなーープロデューサーはちらりと考えた。いや、そんなことより。
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