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自称アーティストvsなんちゃってアーティスト?

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「はい?ですが、会場では他の準備もありますし、会場責任者として一度は途中経過の確認を……」

「それらは一切ご遠慮ください。ご依頼主のチャン様からも先生に一任する旨を承っております。何しろ会場全体にカウントダウンと新年ニューイヤー、サプライズウエディング用の三種類の飾り付けというご依頼ですので」

「ですが……」

 こんな話は寝耳に水だ。プロデューサー氏は頭の中で急いで同時進行の計算式を組み立てた。

パーティスタッフの打ち合わせや余興のリハーサル、時間前に到着した客の待機場所には別会場を用意、飲み物やパーティ料理はセッティングまでして開会直前に運び込む……

「承知しました。その代わり時間厳守でお願いしますよ」

「もちろんです。そのための人海戦術ですから」

 助手は自身たっぷりに頷き、ヌマノボー氏は貫禄たっぷりに微笑んだ。

「お任せください。お客様の一生の思い出になるよう、会場中を素敵なフラワーアートで埋め尽くさせていただきますわ!」

 そこにヌマノボー氏側のスタッフが、見方によっては古き良き珍宝館のモニュメントに見えなくもないチャレンジングな創作物を台車に乗せて運んで来た。何でもクリスマスツリーと日本の門松の両方をイメージしたアレンジの土台だという。

 もっとも美しい目鼻のパーツを集めて画像合成しても、絶世の美女の顔にはなるわけではないという話をどこかで聞いた事がある。
 ひょっとしたらユーラのご自慢のパーティホールは、彼の期待しているような3イベントいいとこ取りの近未来的フラワーデザインに彩られるのではなく、クリスマスとお正月セール同時進行中の日本の大衆スーパーの店頭で和洋折衷の披露宴を行なっているようなカオス個展会場と化すのかもしれない……

  そして後日、新たなSNSの炎上材料か訴訟騒動として全世界に消費されるのだろうか……幸い、ユーラ直轄案件なのでプロデューサーの責任の範囲外となる。触らぬ神に何とやら、だ。

「準備中」「Don't Disturb」の両方の札を掛けていたはずのホールの入り口から、看板も空気も全く空気を読まずに顔を出した者がいる。貫頭衣と袈裟を組み合わせ鮮やかな刺繍を施した民族衣装を身につけ、角製の長細い楽器を手にしたアフリカ系らしき男性だ。

《会場でライブのリハーサルを行いたいのです。ホールは今、使えますか?》

《ンドゥール様。ただいま準備中でして。リハーサル室を別にご用意いたします》

《練習したいわけではなく、会場の音響が確認したいんだ。別な部屋じゃ意味がないよ。パーティというのは花よりも音楽の方が大事でしょう》

 これにはヌマノボー氏が聞き捨てならないといった表情で、何か言いかけた。プロデューサーは慌ててンドゥールをホールの外に押し出し、説得を試みた。

《ホールは開場直前にご案内します。別室でもチューニングとコンディション確認くらいはできますよ》

《こっちだってサプライズ演奏なのに。他の客にネタバレしてしまっては台無しだ!》

ーーまったく、自称芸術家同士って連中は!

《開会直前まで、他のお客様は入れません。ところで、マネージャーのモリー様はどちらに?》

《先ほど会社から急な連絡があって。すぐに戻りますよ》

 プロデューサーは部外者だらけのホールに施錠すると、渋るンドゥールをどうにかこうにか乗客用のスタジオに案内した。


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