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時が解決してくれた事も、ほんの少しですがあったようで?

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 キャリアとスキルアップを積んで転職の度に待遇が上がるのが欧米流だと聞くが、日本の転職事情はむしろ逆だ。大量放流されたところでみんながみんな新しい岸辺にたどり着き、恵みの蓮の葉に乗れるとは限らない。
 ふるいにかけられる基準は多くの場合、本人の人柄や努力とは無関係な年齢だったり家庭事情だったり、転職市場の保守性だったり……大部分の人はそういうところで足を取られてしまう。どうせ選別する側だって御大層な人間でもないくせに。

 急に冷たい年の瀬の風が吹きすさぶのを感じた……

「それってもう、話を元に戻せないんですか?」

 水島課長に抗議するのは違う、と思いながらも俺は黙っていられない。

「アメリカの大会社だか知りませんが、掟破りのカチコミ……いや、道場破りみたいなもんでしょう?D社のように日本人の庭や自然とのつき合い方まで地道に研究する姿勢があるならまだしも、トップダウン式に参入して上手くいく業種じゃありませんよ。結局、誰の得にもならない」

「今ここで、憶測だけで物を言っても仕方がないわ」

 課長はいつもの調子でピシャリと言い切った。

「上層部も混乱していてが明かないし、私達も今しがた話を聞かされたばかりよ。不透明な部分ばかりだけど私は私で情報を集めてみるし、個別の相談にも乗るつもり。不安でしょうけど、当面の間はこれまで通り業務を進めて欲しいのーー我が社の製品を必要としているお客様のために」

 みんなは一旦それまでの仕事に戻ったが、内心それどころではないはずだ。
ーーアジア資本のアメリカの企業か……玄英、何か知ってるかな。

 アンジェラは昨日帰国したらしいが、玄英は商談のためさらに数カ国を巡る予定だと言う。何でも僻地にいてネット環境が整わないとかで、リモートでの会話もできていない。やり取りはメッセージのみだ。

ーー俺は玄英と違ってただの一社員に過ぎないし……相談して何かがわかったところで、何もできないのかもしれないけど……

 それでも顔を見ながら話を聞いてもらいたい。
 早く帰って来て「ご褒美ください」と甘えて欲しい。
 声を聞いて息遣いと体温を感じたい。
 髪を撫で唇に触れ、肌を合わせられたらどんなに救われるだろう。

 啖呵ならぬ傷心のポエムを一日10個は作ってしまいそうな程度には、俺も不安だし動揺している……何より寂しい。

ーーって、女子かよっ。俺、キモッ!

ーー会社の事はなるようにしかならんし、玄英だって予定の仕事が終わりゃ帰って来るんだしっ!しっかりしろ、俺。


 そして何故かこのタイミングで、ユーラからの訴えが刑事・民事ともに取り下げられたと連絡があった。

 ガルテン松山の買収劇は速報で報道された。D社でももちろん把握している。

「本人も気が済んで、さすがに馬鹿らしいと悟ったんじゃないですか」

 電話の向こうで古賀さんがそう言った。

「すみません、今一番お忙しい時でしょうに……ありがとうございます」

「いえ、私はほとんど何もしてないんですよ、謙遜でも何でもなく。これまでのかかった費用もあちらが全額負担するそうですし。少なくともひとつは肩の荷が下りましたね。よかったじゃないですか」

 確かに例のダンス記事も元ネタはそっと削除され、ユーラの告訴を巡る炎上も全く別なターゲットが現れて嘘のように下火になっている。あんなに悩んでいたのが悪い夢でも見ていたようだ。

「一難去ってまた一難という気しかしないんですが……今度は失業の危機ですよ?」

「だからうちに来ればいいじゃないですか。既にイェン社との業務提携について交渉準備に入っています。君の知恵も貸して欲しい」

 さすが古賀さん。割り切ってビジネスに徹している。

「俺は今の会社に残りたいんですよ。本当にもう何ともできないんでしょうか」







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