赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

文字の大きさ
上 下
113 / 144

恒星、いよいよ身の振り方を考える?

しおりを挟む
 課内は騒然となったーーそりゃそうだ。地元密着型のニッチ分野の強みで、爆発的な成長やグローバル展開とも無縁な代わりに食われるか潰れるかの過当競争もない。和をもって尊しとなす安定重視の社風の社内にはそんな不穏な気配なんかまるきり無かったし、全くの初耳だもの。

「一体どういうことですか?」

「確かにここ数年の感染症対策関係で業績は横這いだったけど……」

「でも『D-クロエ』シリーズは大好評で、異例のヒットを受けて来年からの全国販売も決定したし、海外からの問い合わせも……」

「おそらく狙いはそこでしょう」

 やはり戻って来たばかりの内川補佐が説明した。

「アメリカのカーター・イェン社が当社の株の50パーセントを買い占め、経営権を取得しました。敵対買収ってやつです」

「敵対買収……」

「カーター・イェン社?」

「日本ではまだ無名だが、アジア資本の新興農業関連アグリビジネス企業です」

 日本の会社の影になって大々的ブランド名が出るとは限らないが、我が国の食料供給は輸入農産物や種苗、農薬等の分野においてグローバル企業に大きく依存しているーー特にアメリカの。

 自国内市場でも長年勝ち組であり続けた寡頭独占業界に風穴を開け、急速に成長したのがこのカーター・イェン社だと内川補佐は説明した。
 このところの世界的食糧問題も相まって一躍注目を浴びている、良くも悪くもタブーなき会社だという。判官びいきをお家芸とする日本人から見ても、この会社の成功譚はなかなかえげつなさそうだ。

「なぜそんな世界的大企業がうちのような小さな会社を?」

「しかもいきなり買収だなんて。これまで交渉もちかける素振りどころか噂すらなかったのに」

「下手すると急成長した『D-クロエ』シリーズの事業のみ吸収して、再び他社に売り渡すという可能性も……」

 マジかよ。そんな社会派深夜ドラマみたいな出来事が、平坦と平凡を絵に描いたような俺の職場で起きるなんて。

「今進めてる仕事はどうなるんですか?D社との提携は?」

「社員の私達は?」

「年明けに経営陣が刷新されるでしょうね。それ以外、まだ何も決まってないのよ。あちら流だと最終的には事業と部署を大幅に合理化して、大量リストラもあり得るかもしれないわね」

「そんな!」

「急にそんなこと言われても!」

 みんな一斉に「マンションのローンがあるのに!」とか「奨学金の返済が!」などと悲鳴を上げた。隣の課からも叫び声が聞こえる。

 さっきまでの「釣り◯カ日誌」か「ショ◯ニ」を地でいくような「鬼のいぬ間に洗濯」的な長閑のどかな社内風景はどこへやら、今の社内は何かの弾みで暴動が起きてもおかしくないような上へ下への大騒ぎに違いない。

ーーひょっとして海外から社長を迎えて、玄英の会社みたいに英語が社用語になっちゃったりすんのか?いや、そんなことより。

 このままじゃ俺も、玄英と甘々な(いや、バイオレンスな……?)避寒バカンスどころか正月早々失業者かもしれない。彼と恋人として対等につき合うこともおぼつかなくなる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...