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人選が絶妙に微妙なのも実は戦略かもしれなくて。

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 俺は慌てた。

 荒ぶりかけていたアレコレが瞬間冷却レベルで縮こまった。
 放り出されてますますふて腐れ、魚河岸のマグロ状態になった玄英のスラックスを拾って手首を解き、50秒で支度してドアを開けた(超人か、俺)
 精一杯取り繕ったつもりだが、お揃いの乱れた髪と皺だらけのコスチュームからモリーは何かを察したらしい。

「お取り込み中のところ悪いんだけど……」と、目を逸らしながら事務的に切り出した。
 玄英の、いざって時の動じなさぶりはこの人譲りなのかも。

「ユーラから仲介役を頼まれたのーーはい、預かりもの」

 モリーはそう言うと仏頂面の玄英に、事件の証拠品よろしく透明ポリ袋に入れられたメモリーカードを手渡した。

「これ……」「まさか……あの……」

 俺と玄英は顔を見合わせた。

「伝言その一。これがオリジナルでコピー等は一切無いそうよ」

「モリー。あの……中身、見た……?」

 玄英はそれを受け取りながら、恐る恐る聞いた。

「見るわけないじゃない」

 弾道ミサイルはひとまずEEZ域外に落ちたようだ。とりあえず胸を撫で下ろす俺と玄英。

「あの……ほ、他には?ユーラは何か言ってましたか?」

「別に。わざわざ口頭で『弟と彼氏が野外でイレギュラーな行為に及んでる動画』だと説明してはくれたけど」

 このセリフで俺と玄英は灰塵すなと帰した。

「あなた達のを見るのは死んでもごめんだけど……ね、野外緊縛ってどんな感じ?実践としてはちょっと興味が……」

 お義姉様、頼むから俺に振らないで!

「モリー!伝言その二はっ!」

 真っ赤になった玄英が小刻みに震えながら遮った。この弟にしてこの姉あり。玄英の斜め上を行くスーパーカリフラジリっぷり。

「ああごめん。伝言その二。和解の印にパーティの最後にあなたと踊りたいそうよ」

ーーあんの野郎!

「踊る?ユーラと?」

 玄英はあからさまな嫌悪の感情を顔に出した。
 
「口出しする気はないけど……デッキでの騒ぎ、私達も見てたわよ。彼と何をトラブったか知らないけど、あの人相手に暴力沙汰は悪手だったわね」

 玄英はますます不機嫌そうに顔をしかめた。

「彼、『訴訟王』とも呼ばれてるけどーー合法非合法、ありとあらゆる手段を使って、息を吸って吐くように徹底的に敵を叩き潰してきた人よ。向こうは半分嫌がらせのつもりで私に取りなしを頼んだんだろうけど、むしろラッキーかもしれないわ」

「……っ」

「どっちにしてもあなた達、大急ぎでランドリーサービスにプレスを頼んだ方がいいわ。じゃあ、頼まれたことは伝えたから」

 モリーはそう言うと凶器になりそうなピンヒールで踵を返し、長いランウェイならぬプロムナードを戻って行った。

「あっ、ありがとうございました」

 お姉様カッコええー。セレブなパリピというより肝っ玉ゴッドマザー感ある。社会派アメドラに出てくる女弁護士みたいだ。

「恒星はどう思うの?」

 ドアを閉めると、玄英はぶすっとした顔で聞いてきた。

「どう思うも何もーー玄英がアイツとダンス踊るなんて、嫌に決まってんだろ」

 俺は正直に答えた。

「僕も嫌」

「でもーーあんたの将来のため、余計なトラブル抱えないためだって思ったらさ。今アイツと正面からぶつかるのはタイタニックが氷山に喧嘩を売るみたいなもんだと思う」 
  
 啖呵で鼻っ柱を折るだけじゃ(心理・物理)勝てない戦いがここにある。

 玄英は天を仰いで、しばらく考えていた。

「ーーだよねえ」

「あんな野郎、玄英にはホントもったいない。嫌なら踊らなくていいさ。俺が代わりに踊ってやる」

「ははは!それいい。見ものだな」

 玄英は腹を抱えて大笑いすると、

「残念なから、ダンスは教えそびれちゃったからな」

 そう言って俺の頬にキスした。

「僕なら大丈夫。自分の足で立てるし戦えるーー恒星さえ味方でいてくれたら、ね」

「玄英、頑張れよ。いつかアイツが足元にも及ばないくらいに成功して、鼻から手え突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやれーーあ、仕事的な意味でな」

「ええっ?鼻から……アハハ、何だって?恒星、それってコトワザ?」

 この言い回しは玄英のツボに入ったらしく、俺が「スラングな言い回しである」ことを念押ししながら繰り返し教えるたびに大笑いしていた。


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