赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

８

Ｓｈａｌｌ Ｔｈｅｙ Ｄａｎｃｅ？

　パーティーが開かれているメインホールは上階に劇場式の座席があり、花火の後に開かれたダンスパーティの様子をそこから見物することができた。

　ワルツってのはとにかく円を描きながら円を描く踊りなんだなーーそう恒星は思った。地球と月とが互いに公転しながらさらに太陽系を巡るように。

　宴の最終盤。燦さんざめくホールの中央をまるで床の上から浮いているかのように、氷上を滑るかのようにーーユーラにリードされてアップテンポのワルツを踊る玄英は古今の愛好家が魅了され渇望した伝説の黒薔薇、あるいはジークフリートを誘惑する黒鳥姫ブラックスワンオディールのようでもある。

　シャンデリアの光を乱反射する近未来ルックと、王室御用達職人による由緒正しい正統派ーーそれぞれの個性ほど対照的なタキシード姿の二人が無言のままひたすら流麗に舞う。神々しいような禍々しいようなただならぬ輝きを放つその空間は、さながら爛熟したウィーン世紀末の淫靡な佇まいを思わせる。

　どこから情報が回るのか、バーや遊技場、他のフロアに散らばっていたはずの客達も興味深そうに三々五々集まって来た。音楽が終わると、二人の貴公子には会場じゅうからスタンディングオベーションの大喝采が送られた。

　世界的なネットワークと発言力を持つ、美形の大富豪で大人の男ーーただし、人柄は最低で耳を疑うような黒い噂もある。
　ユーラが玄英にまったく相応しくない男だというのは百も承知だ。が、こういう光景を目の当たりにすると「それ」を差し引いたとしても、自分ごときでは太刀打ちできないのでは……と恒星は思ってしまう。

ーー何があっても、俺は玄英の味方でいるだけだ。