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終章 本日のディナーは勇者さんです。
03
しおりを挟む──とまぁ、そんなことがありつつも魔王城に帰ってきた翌日。
「指一本動かねぇぜ。全然だ。俺は弱ってる。そうだろ?」
「パパ、ばたんきゅー?」
「ふふん。バタンキューだッ」
今回の立役者であるアゼルは、おなじみの私室にてふかふかベッドの中でタローを膝に抱き、満身創痍をアピールしていた。
驚きだろう?
完全に無傷で冗談みたいだが、アゼルは実際に双子をお仕置きして荒れた広場に更地を作った後、ぱったりと倒れたのだ。
詳しく説明していこう。
俺も困惑を窮めたのでうろ覚えな部分もあるが、ご了承頂きたい。
実のところ、あんまり壮絶な戦いだったのでコマ送りでしか覚えていない神の腕との戦い。
俺は全力で補佐をしたが、メインで戦ったのはおそらくこの世に存在する最大の矛であるアゼルだ。
深淵魔法で穴を開けてもすぐに回復する。殲滅魔法を集中砲火しても多少皮膚が闇の浸食を受けるくらいで、ジワリと回復。
おびただしい数の触手は何度鎌で切り取ろうが再生するし、その無理ゲー感はまさに魔王を彷彿とさせる。
俺は足でまといにならないようにしていたので、アゼルは何度もボロボロになった。
即時回復していたが、百八十年以上一度も尽きたことのない魔力が、初めて尽きたらしい。
全ての片付けが終わって夜が明けた途端──バタンキュー。
それはもう電池切れのようにぱったりと、アゼルは倒れてしまったわけだ。
突然倒れたアゼルにそれはもう狼狽した俺は、焦りに焦った。
ライゼンさんの回復魔法はそれほど魔力は回復しないが、疲労や怪我等は魔族ならキレイさっぱり治る。
にも関わらず。
HPゲージは全快、MPゲージはギリギリなアゼルは、直立で倒れ伏したまま動かない。
そしてそっと呟く。
『……俺は頑張った……だからもう、限界だ……もうほんの少しも我慢できねぇ……深刻な……シャル不足だぜ……ッ!』
うん。と、いうことだ。
どうやら俺ポイントであるSPゲージがずっと枯渇していたせいで、やる気を失ったらしい。
タローを故郷ごと救うべく掲げた〝娘のため〟というやる気の源もなくなったしな。
儀式を行わずとも千年に一度魔族と協力すれば再封印できると証明したし、俺とリューオがパーティーで撒いた種も芽吹く。
ボコボコにされたアマダは気づきを得て魔界のみんなに謝罪し、双子は十分の九殺しの末路。
タローはニコニコ。とどめに『パパ大好き!』と抱きつく必殺技もかました。
アゼルはもう頑張らなくてもよくなってしまったのだ。
となれば、性根のポンコツ魔王が顔を出すのは仕方がない。
一晩眠って完全復活を遂げているにも関わらずタローを抱き抱えて離さず、俺にか弱いアピールをしているのは、そういう経緯である。
本当に、アゼルはかわいい男だと思う。
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