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十三皿目 ラブリーキングに清き一票
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しおりを挟むリューオの衣装は、ふわりとしたセーラー服のような服だ。
襟の部分はピンクで、リボンは鮮やかな赤にフリルまで付いている。
丈が短くへそ出し状態になり、リューオの見事に割れた腹筋が夏らしく晒された、実に愛らしい衣装なのだ。
太ももが惜しげもなく見せつけられた短すぎるスカートも、当然ピンクである。
白のニーソックスと赤いローファーはオーガの女児用なのか、百九十近い長身のリューオでもぴったりのサイズだった。
そして薄いブラウンの手袋に、付け袖。
セーラー服の後ろで絞られているらしい長いリボンが僅かに揺れ、威圧感を出している。
頭の上には、かわいらしい飾りが付いたミニハット。こだわりの逸品だな。
それじゃあ──話を戻そう。
金髪ツンツンの凶悪な顔つきでアゼルよりガタイのいいリューオが、このラインナップの衣装を身にまとって出てきたら、だ。
「……ぇ、ぇう……」
──そりゃあ俺だって、目をそらしてしまうに決まっているだろう……!
目を開けられずに顔を手で覆い、あんまりな惨状に震え上がった。
笑えない。
笑えないくらい悲惨だ。
俺がリューオなら、三日は部屋から出たくない程恥ずかしい。
雄々しい巫女さんなんか目じゃないぞ。
大の大人が魔法少女だか美少女戦士だか、わからない格好をするなんて。
「あはははははは! 勇者、君は最高じゃないか! 絶対に似合うと思ったんだ!」
どうしようかと悩み込んでいると、空気を読まない殺されたがり幼女のおじさまボイスが、冷え切った沈黙を引き裂いた。
「これほど愉快な格好なら、あの無駄に似合ってしまったナイルゴウン一行の面白みのない展開に飽いているゲテモノ食いのオカ魔族たちの票を、一気に掻っ攫えるぞ!」
幻術に近い擬態だから声がそのままなグウェンちゃんの、非常にご満悦で全く悪意のない、無邪気な賞賛。
拍手すら送っているそれが聞こえた瞬間、キュピーン、と未来を察知してしまった。
「……うぅ」
俺は困りきって眉を垂らしながら、トコトコとベッドで眠るタローとマルオのもとへ向かう。
「…………結界。魔法反射三重、熱遮断三重、音遮断三重……。また部屋が壊れる。天使なんかきらいだ……」
「──炎、燃えろッ! 渦巻けッ! 百槍百弾百龍擊ィィィィィィィィィイイイィィィイイッッ!!」
「うん?」
──ドゴオオォォォオオンッ!!
俺が避難を完了させた途端、魔法少女というより悪魔超人なリューオの炎魔法が炸裂した。
噴火じみた爆炎と爆風が迂闊な幼女に襲いかかって、俺は泣きたい気分でグウェンちゃんごと吹き飛んだ部屋の壁を見送る。
偽幼女と女装した聖剣の勇者が外でやり合う声を聞きながら、肩を落とした。
ポケットマネーで足りればいいんだが……、と自分の貯金を思い返し、修理費用に震え上がるしかない。
「ん……んー……? んー……おとさ……うーしゃるー、ぎゅーしてぇ」
「……ムッ! オキタ、マルオ! オキタ! オハヨウシャル! ギュー、マルオモ! イイカ? ダメカ?」
「いいよ。おいで、二人とも。できれば寝ぼけたまま、俺の格好には触れないで二度寝をしてくれると、シャルは嬉しい」
こうして意図せずゼオと同じく光のない瞳で諸行無常を噛み締め、悟りを開くこととなった午後。
俺は癒し担当のタローとマルオを抱きしめてなで、寝かしつけることしかできなかった。
(ただアゼルの応援に行きたいだけなのに、魔界はどうしてこうなるんだ……?)
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