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十三皿目 ラブリーキングに清き一票

05(sideアゼル)

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「ふふふ……お話しましょう……これは私がまだ宰相ではなかった頃の話です……」

 やさぐれた青い顔のライゼンが、おどろおどろしい言い方で話し始める。

 肝試しにはまだ早い時期だと思うぜ。
 そもそも魔界、ホラーサイドだから怖くねぇけどな。

「短髪が似合わないのと髪の手入れをするのが好きなので、当時も長髪にしていた私は、今より背も小さくもう少し華奢でした。そして前魔王様は魔王様よりも内外ともに実力主義で武力を重んじていた為、お城には屈強な男たちが多かったのです」
「ん」
「元々女性が少ない魔王城はほとんど男だけになり、自由な魔族なので男に走る者が増え始めます。そしてどうせ男に行くなら女性っぽい男にイこうという心理のもと、まだそれほど地位の高くなかった私は、ノリで散々セクハラ紛いの行為をされ揶揄われ、おじさん世代の男魔族に多大な偏見とトラウマを味わわされたということでした」
「おじさん世代か」
「はい。だから魔王様がやってきた時は若くて落ち着いた人が来たと内心小躍りしましたよ……! 昔は言葉を覚えるまでカタコトで話していて、魔王様はお可愛らしかったのに……!」

 話し終わったライゼンは当時を思い出して、また火花を弾けさせそうなくらい怒りに震えていた。

 相当屈辱的だったみたいだな……。闇が深い。後半がボソボソとして聞こえなかったけど。

 ちなみにライゼンと同世代な魔族、ユリスの父親で海軍長のワドラーも昔はユリスみたいに華奢だったらしい。
 髪の長いアイツも、セクハラの餌食だったそうだ。それで仲良くなったとか。

 そんな話を聞いたら女装が屈辱的なのもわかる気がして、俺はこれ以上無理を言えなくなった。
 絶対着物とかいう魔界の東方の街の衣装が似合うと思ったのによ。

 俺も昔は切るのを面倒がっていて髪が長かったが、そんな視線に刺されたことはない。
 セクハラはおろか、触れられたことすらねえかんな……。美人な奴は両方にモテるから大変だぜ。

 腕を組んでしみじみと呟く。
 そんな俺を、ライゼンは微妙な空気を纏わせ苦笑いで見つめてきた。なんだよ。

「あの頃の魔王様はどんどん人を避けるようになっていったので、ご存じないでしょうが……今より大人しくてお綺麗でしたから、やましいことを考える輩はそこかしこにいましたよ。なお今でも、魔王様は見るといいことがあると言って、お城で縁起物扱いされてます」
「オイ嘘だろ」
「さらに言うと、シャルさんは声を掛ければ必ず挨拶をしてくれることと一見堅物そうな容姿を裏切ってかわいらしく手を振ってくれるので、見たら癒やされる移動型癒やしスポット扱いされていますね。最近はタローもいるので、癒やしマシマシだとか。ちなみに本人たちは全く気づいてませんよ」
「それは本当だろ」
「両方本当です」

 話が逸れると不意を打って俺の知らない魔王城ジンクスが判明し、今度は俺が引き攣った顔でライゼンを見つめる羽目になった。

 シャル単体だと、なんかこう、俺のものだと知らない新人共をたまにタラして来やがるのは知ってたけどよ。

 アイツ鈍い上に天然だから全く気づいてねぇけど、人を胸キュンさせることに関しては不動のキングだからな。魔王もキュンさせるからな。ソースは俺。



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