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閑話 卵の中
02(sideタロー)
しおりを挟むある日しゃるとまおちゃんは、まおちゃんが大きな宝石を買ったから、喧嘩した。
しゃるに叱られて、叱られるのが嫌だから、まおちゃんは逆に怒り始めたんだ。
どんな大きな宝石なのかはわからないけれど、宝石は高価なんだよ。
しゃるは頻繁な贈り物には困ると言って、磨くのもたいへんと説得していた。
でもまおちゃんはしゃるをあんまり外に連れて行ってあげられないから、代わりにプレゼントをくれるんだって。
プレゼントは、喜ぶもの。
でもしゃるは困るもの。
だからまおちゃんは叱られたんだけど、なんだか言い合いになっちゃった。
しゃるに叱られて悲しいまおちゃんは、悲しいあまり「じゃあもうきらいだ!」って言ったんだ。
私はそれを聞いていて、卵の中で、大好きな二人がバイバイするのかなって、泣きそうになってたよ。
でも違ったんだ。
ちょっと静かになったら、ボスンッて音がしてね。
私の近くで、まおちゃんがずっとごめんなさいを言っていた。
しゃるはべっどに突っ込んだのかも。
べっどはふかふかみたいだから、悲しいときは抱きつきたくなるね。
まおちゃんの声のほうからはガンガンって音がしたよ、べっどじゃないみたい。
私はそれを知っているから、しゃるが見ないことにしなくても、まおちゃんに言えばいいと思う。
まおちゃんはごめんなさいとガンガンをして、しゃるのモヤモヤはなくなると思うの。
しょんぼりなしゃるに聞こえないけれど、ピィピィと話しかける。
「しゃ、シャル!」
「ん? アゼル、休憩時間か?」
そうするとガチャって音がして、突然、まおちゃんの声がした。
しゃるはすぐに元気な声になった。
しょんぼりがなかったみたい。
(まおちゃんまおちゃん、しゃるは見ないことにしているんだよ)
私が告げ口をしても外には届かない。
それでもまおちゃんはしゃるに近づいてきたみたいで、私にも声がよく聞こえた。
「ここ、こっ今夜は、晴れだ! だから、そ、空が……空がよく見える。そういう夜らしいぜ、わかったか?」
「ん、あぁ、わかった。洗濯物が夜干しでも安心なんだな。晴れると嬉しいな」
「馬鹿野郎!」
空がきれいだと言うまおちゃんと、晴れているなら洗濯物が干せるというしゃる。
しゃるはばかやろうらしい。
でもばかやろうはまおちゃんの〝そういう意味じゃないです〟ってことなんだ。
いつも少し、しゃるとまおちゃんは思い違いをしている。
私はそれでね、言葉のうらというのがわかるようになったよ。
まおちゃんは苦手なことなんだって。
しゃるもだね。
「うっぐ、ごほん、……こ、こんな夜は、美しいおま、おまえと、月見散歩にいっ、行きたくなる。でもおまえのほうが、つっつきより綺麗だろうけどな……っ!」
「はっ、俺と……? ……あぁ……。ふ……ん、ふふふ、そうか。俺は月より綺麗なのか、そうか……ふふふ」
「! わっ笑うな、俺が考えたんじゃねぇぞ! なんとかって作者が考えたんだ、俺のセンスじゃないっ」
まおちゃんはなんだかよくわからないことを言って、しゃるが綺麗って言った。
そしたらしゃるは笑っていて、まおちゃんに叱られてる。
おお、しゃる、しょんぼりしてない!
まおちゃんえらい。かっこいい。
「そうだな、是非行きたい。ふふふ、今すぐ行きたくなってしまった」
「いっいいのか」
「もちろん。月より綺麗な俺より、もっとずっと綺麗な旦那さんの誘いを、断るわけがないだろう?」
「!? あ、あぅぅ……!」
笑ったしゃるには、やっぱりまおちゃんはかなわなかった。
えへへ、私にとって、いつものこと。
いつものあったかい二人のお話。
──コトン。
「うん? 卵太郎も行きたいのか?」
思わず揺れると、しゃるはすぐに気づいて私をなでてくれる。
いきたいよ。
私も綺麗なしゃるとまおちゃんをみたい。
早く会いたいな。あったかい場所、あたためてくれる人のそばに。
私も……すみっこでいいから、仲間にいれてもらえれば、いいな。
──その願いは、もうすぐに。
とびきり優しくて、一生懸命で、楽しくて、幸せな二人の、新しい家族に。
『ヒビが入った!』
『なあぁぁあぁぁ!?』
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