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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
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しおりを挟む──コンコン。
「ん?」
そうして衝撃の事実に震えたり心配されたりしていると、不意に教室の扉をノックする音がした。
俺は首を傾げて扉に向かって歩き、道中生徒にブロマイドを返却する。
みんなの視線が突き刺さる中、俺がたどり着く前にそっと扉を開けて、顔を覗かせる人がいた。
「アディ先生、アディ先生」
「学園長、どうされました?」
訪問者の正体はこの学園のトップであり、魔王城の学園経営部門責任者である中間管理職──ケンタウロス魔族の学園長だった。
下半身が白馬で、上半身が柔らかな金髪を靡かせる王子様スタイル。
白馬に乗った王子様ではなく、白馬で王子様なお方である。
この場合、髪は鬣と言ったほうが失礼にならないのか、悩ましいな。
しかしなぜかうつくしい顔を青くしている学園長がちょこちょこと手をこまねくので、そっと耳を寄せた。
「今日のこの時間だけ体験授業をしたい生徒がいるんだけど、良いかい……?」
「? こんな半端な時間にですか?」
「仕事を終わらせてからいらしたらしいからね」
「仕事……?」
密やかな声量で告げられた言葉に違和感を感じ、オウム返しをする。
生徒ということは幼い魔族だろうに、仕事をしているのか。
学園長は俺の契約も今日までなので、一日だけお願いしたいんだと重ねて言う。
チラチラと背後を気にしているのが不思議だが、俺としては断る理由はないので、こくりと頷いた。
「わかりました、受け入れは大丈夫ですよ。ちょうど見本の魔法陣を書き映してもらい、あとでグラウンドでテストをするので、それをやってもらいますね」
「本当かい? 助かるよ……! それじゃあ私は仕事がまだあるから、後は任せるね!」
「ん?」
俺が頷くと光明を得たとばかりに晴れやかに破顔して、学園長はすごい速さでパカラパカラと去って行ってしまった。
なんという逃げ足の速さだ。
そんなに緊張して、なにがどうしたのやらわけがわからない。
扉の隙間に首を突っ込み、俺は呆然と学園長が消えていった方向を見つめる。
──そんな俺の頭を、全く気配がなかった逆サイドから、狙っている者が一人。
狙いを澄ませた後、知っているようで違和感のある腕が、もげそうなほど強くガシィッ! と俺の頭を抱擁した。
「んぐ……!?」
「き、来ちゃった……? だったか? こういう時のセリフ」
「ぐふ……っ! なっ、なんっ、アゼル……っ!?」
抱きしめられ、温かな胸板にグリグリ頬を押し付けられながら、どうにか声をあげる。
抱擁の犯人である魔王様で旦那さんな男──アゼルは、俺の声を無視して、足りないとばかりに腕の力を強くした。
待て待て。
来ちゃった、じゃない。
どこで覚えたんだ? そんな青春真っ只中の彼女のようなセリフ。
「ぐ、ぐるる……傷一つねぇなこの、この、うぅ~……っ」
「息が、いきがぁ……」
押し付けられる胸から早鐘を打っている鼓動が伝わるが、俺の鼓動はストップ寸前だ。
更に抱きしめるだけでは飽き足らずスリスリと髪に擦り寄ってきて、手が俺のあちこちをなで回す。
ヒューンヒューンと鳴き出しそうなほど、熱心なハグ。
それだけで痛いくらい状況が伝わる。
──えぇと、そうか。
やはり自分が許可をして送り出すことに決めたはいいものの、我慢ならずに会いに来たのか。
表情や言葉にちゃんと出せないが甘えたなので、忠犬ハチ公にはなれないみたいだな。
というか、アゼルはな……行動が……行動が子犬なんだがな……。
気持ちが上乗せされた腕力がな……?
手加減しても、素でヒグマ並なんだ。
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