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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
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しおりを挟む「……まぁ、その、なんだ」
折れたチョークをそっと置いて、新しいチョークを取った。
なに食わぬ顔で完成間近の魔法陣を書きつつ、背を向けているのをいいことに、拗ねたように唇を尖らせる。
「今の魔王様は、温厚な魔王様じゃないか。気安くやっほーと声をかけてあげると、意外と普通に返事を返してくれる」
「アディ先生ぇ! あたしらの話聞いてた?」
「あーしら自殺願望はないからっ」
密かにアゼルはいいこなんだぞ! という旦那様よいしょなアピールをするが、間髪入れずに「ないわー」という反応を返された。
(ぐっ、ここで引いては、魔王の妃の立場が廃る……!)
「うぅ……き、聞いてくれ。騙されたと思って、気さくに接してみてほしい。笑いかけると赤くなってそっぽを向くが、照れているだけだから是非にっこりと。ほら、ええと……お妃様、とかも人間だが大事にされているし、彼も魔王様を大好きだと言っていた」
素知らぬ顔を心がけながらそっとそっとアゼルに親しんでほしいとさらに続けると、彼女たちはついに哀れみ混じりの顔でやれやれと微笑む。
「先生……大事なことを教えてあげるから、聞いて? あのね、今の魔王様はお妃様のことになると、まったく温厚じゃなくなるから……ッ! 有名なスウェンマリナでの大宣言を知らないの……ッ!?」
「だ、だい……? なんだそれは……?」
「だめだこの先生誰かスケッチブロマイド!」
「おっと懐から魔王様スケッチブロマイドが!」
どうにも俺のたび重なるアピールを無知故の発言だと思ったらしい。
一人の女生徒が懐から生徒手帳を取り出し、そこからスケッチブロマイドなるものを手にとった。
そして「ほら見て! そして裏も読んで!」と押し付けられるスケッチブロマイド。
「えぇと……、おぉ」
そこには白黒の軽いタッチで描かれたアゼルの姿絵があった。
昔の姿絵なのか髪が長くて顔つきがやや幼く、なんだか美人さんだ。
なるほど。スケッチブロマイドとは、簡単な肖像画か。
知らないアゼルの姿を知って、心持ちほっこりとした。
ぺらりとめくって裏面も見る。そこに書かれていた文章が大宣言らしい、が……。
「…………」
〝スウェンマリナにて施行されし新法大宣言〟
〝魔王様の隣にある青い魔力をもつ黒髪の人間は、魔王様のお妃様である。
何人もこれを決して傷つけてはならない〟
〝法を破りし者は、全て死罪とする。
正当な理由はなく、そうあれと定められた魔王様の絶対法である〟
〝ただし、異を唱える者の挑戦は認められる。魔王様に勝利し彼の紋章を奪うことができれば、全ての罪を不問とし王座を手にすることが可能である〟
〝──これらを前提とし、挑戦と同時にその者は処刑宣告をされるものとする〟
「……や、やはり本当に俺に危害を加えると存在を消し去る法律があったのかッ!」
「いや先生じゃないよお妃様だよッ!?」
そうなんだがそうじゃないというかなんというか端的にどちらも俺なんだ──!
内心で思わず訴えてしまうがそんなことは言えるわけがないので、俺は目を丸くして震えるしかない。
ば、馬鹿な。
俺がトルンの呪いでツンツンになっていた時の法律云々は、リューオたちが後でそんなものはないと言っていたのに、やはりあったのか。
俺はこの各種宣言や迷言を添えてあるらしい魔王様スケッチブロマイドが、どの程度魔界中に流布されてるのかを想像して、頭を抱えたい気分になった。
ちなみにこのブロマイドは、魔王城非公認であるそうだ。
そうだろうとも。
姿絵はともかく自分の独占欲発言が記録されて流布されるなんて、シャイなアゼルはもちろんライゼンさんが許すはずがない。
有り体に言えば、うちの子のおバカ発言だからな。
[スケブロイメージ]
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