上 下
592 / 901
十一皿目 魔界立ディードル魔法学園

28

しおりを挟む

「……まぁ、その、なんだ」

 折れたチョークをそっと置いて、新しいチョークを取った。

 なに食わぬ顔で完成間近の魔法陣を書きつつ、背を向けているのをいいことに、拗ねたように唇を尖らせる。

「今の魔王様は、温厚な魔王様じゃないか。気安くやっほーと声をかけてあげると、意外と普通に返事を返してくれる」
「アディ先生ぇ! あたしらの話聞いてた?」
「あーしら自殺願望はないからっ」

 密かにアゼルはいいこなんだぞ! という旦那様よいしょなアピールをするが、間髪入れずに「ないわー」という反応を返された。

(ぐっ、ここで引いては、魔王の妃の立場が廃る……!)

「うぅ……き、聞いてくれ。騙されたと思って、気さくに接してみてほしい。笑いかけると赤くなってそっぽを向くが、照れているだけだから是非にっこりと。ほら、ええと……お妃様、とかも人間だが大事にされているし、彼も魔王様を大好きだと言っていた」

 素知らぬ顔を心がけながらそっとそっとアゼルに親しんでほしいとさらに続けると、彼女たちはついに哀れみ混じりの顔でやれやれと微笑む。

「先生……大事なことを教えてあげるから、聞いて? あのね、今の魔王様はお妃様のことになると、まったく温厚じゃなくなるから……ッ! 有名なスウェンマリナでの大宣言を知らないの……ッ!?」
「だ、だい……? なんだそれは……?」
「だめだこの先生誰かスケッチブロマイド!」
「おっと懐から魔王様スケッチブロマイドが!」

 どうにも俺のたび重なるアピールを無知故の発言だと思ったらしい。

 一人の女生徒が懐から生徒手帳を取り出し、そこからスケッチブロマイドなるものを手にとった。

 そして「ほら見て! そして裏も読んで!」と押し付けられるスケッチブロマイド。

「えぇと……、おぉ」

 そこには白黒の軽いタッチで描かれたアゼルの姿絵があった。

 昔の姿絵なのか髪が長くて顔つきがやや幼く、なんだか美人さんだ。

 なるほど。スケッチブロマイドとは、簡単な肖像画か。

 知らないアゼルの姿を知って、心持ちほっこりとした。

 ぺらりとめくって裏面も見る。そこに書かれていた文章が大宣言らしい、が……。

「…………」


〝スウェンマリナにて施行されし新法大宣言〟

〝魔王様の隣にある青い魔力をもつ黒髪の人間は、魔王様のお妃様である。
 何人もこれを決して傷つけてはならない〟

〝法を破りし者は、全て死罪とする。
 正当な理由はなく、そうあれと定められた魔王様の絶対法である〟

〝ただし、異を唱える者の挑戦は認められる。魔王様に勝利しの紋章を奪うことができれば、全ての罪を不問とし王座を手にすることが可能である〟

〝──これらを前提とし、挑戦と同時に・・・その者は処刑宣告をされるものとする〟


「……や、やはり本当に俺に危害を加えると存在を消し去る法律があったのかッ!」
「いや先生じゃないよお妃様だよッ!?」

 そうなんだがそうじゃないというかなんというか端的にどちらも俺なんだ──!

 内心で思わず訴えてしまうがそんなことは言えるわけがないので、俺は目を丸くして震えるしかない。

 ば、馬鹿な。

 俺がトルンの呪いでツンツンになっていた時の法律云々は、リューオたちが後でそんなものはないと言っていたのに、やはりあったのか。

 俺はこの各種宣言や迷言を添えてあるらしい魔王様スケッチブロマイドが、どの程度魔界中に流布されてるのかを想像して、頭を抱えたい気分になった。

 ちなみにこのブロマイドは、魔王城非公認であるそうだ。

 そうだろうとも。

 姿絵はともかく自分の独占欲発言が記録されて流布されるなんて、シャイなアゼルはもちろんライゼンさんが許すはずがない。

 有り体に言えば、うちの子のおバカ発言だからな。


[スケブロイメージ]




しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...