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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
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しおりを挟む「あぅ……っシャル、いっ言っておくけど仕事のついでなんだぜっ体験授業は……!」
呻くだけの俺が、大人しく待っている言いつけを破ったので呆れられていると思ったらしい。
アゼルは必死に小声で言い訳を始める。
違う。絞め技で落ちそうなだけだぞ。
「その、おっ俺は別に我慢できなかったわけじゃねぇ……あの、あれだ、俺は学校行ったことねぇから、生徒の気持ちになってみようって思っただけだ! いい魔王だ! 俺はいい子だぜシャル!」
「せいふくきてしごとしてたのかあぜる……あとそろそろ……おまえのあいで……いしきがおちるぅぅ……」
「!? あっあうぁしっ死ぬなぁぁぁあッ!!」
「きゅうぅぅ~……」
アゼルの懸命な言い訳にどうにか返事を返すと、ようやく愛が強すぎて抱き潰していたことに気づく。
するとアゼルは俺を解放し、今度はべそべそと泣きそうになりながら、がっくんがっくん教室の中から引きずり出した俺の上半身を揺すった。
──あぁアゼル、大丈夫だ。
俺はお前に怒ったりしない。
そういう一途を極めて俺しか見えていないところも含め、愛しているとも。
なので死んだりしないから、グロッキーになる前に揺するのをやめるんだ。
取り敢えずは。
脳みそがシェイクされている俺の願いが届くまで、結果として今しばらくの時間がかかったことをお知らせしておこう。
◇
「と、いうことで……魔法陣学の体験授業に来てくれた、アゼル・ハウリング君だ。みんな仲良くするように」
「…………」
「「「…………」」」
生死の境を彷徨いかけた俺はなんとか復活したので、学園長からの頼み通りアゼルを教室へ招いて生徒たちに紹介した。
──の、だが。
教室内は物の見事に静まり返っている。
アゼルが黙り込んでいる理由は、おそらく学校へ通ったことがないせいだろう。
当然クラスで自己紹介なんてしたことがなく、自分がなにか言わないといけないなんてこと、わかっていないからだ。
しかし生徒たちが黙り込んでいる理由は、俺にも推察できかねた。
生徒に扮した今のアゼルは、魔法学園なら魔王の顔が知れていると見て変装をしているので、バレてはいないと思う。
魔族カラーの黒いブレザーを身に纏い、目元がまるごと隠れるクリンクリンのパーマなカツラを被っているのだ。
更に、瓶底並の厚みがある眼鏡をかけているからな。
もはや顔が見えるのが鼻と口元だけだ。
ん? 俺は変装していてもわかるぞ。
それに変装をしたアゼルは、どこからどう見ても人間年齢二十代前半程の男だったはずが──すっかり十代前半の幼い容姿に変わっていた。
顔は隠されているが唇は小ぶりで桃色だし、頬は心なしかもっちりとしていてあどけない。
身長も俺より少し小さくなり、前よりも華奢だ。
それでも俺は絞め落とされかけたが。
理由は曰く「人魚の肉って滋養強壮にいいんだけどな、血は吸血系の魔族の見た目だけ若返ンだよ」らしい。
寿命が伸びたわけでもなく、一時的に見た目だけが若くなるようだ。
乱獲されないのかと心配になったが、魔族は寿命が長いのであまり不老長寿なんかには興味がないのだとか。
……それよりも俺は密かに、人魚さんに俺にするような吸血をしたのかとドギマギしているのだが……。
それは仕事が終わるまで秘めておこう。
閑話休題。
それほどしっかりと変装をしている今のアゼルは、威圧感があるわけもなく。
気配も魔力も押さえ込んでいるので、むしろ見た目的にも人間くらいの戦闘力しかないように見えるんじゃないだろうか。
いつものように恐れられることはないと思うが、他になにか問題があるのかもしれない。
自己紹介直後の静寂に、腕を組む。
取り敢えず空いている席についてもらおう。
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