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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園

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「…………」
「どうしたぁ、やっぱり無理なんだろぉ? ふふふん! おいみんな、せんせぇはおかえりだ! 生ぬるい教師はみぃんなお払い箱だぜぇ~!」

 考え込む俺を見かねてかクテシアスから発破をかけられるが、集中していた俺にはうっかり聞こえていない。

「…………よし」
「あ、あれ? やんのか?」

 しばし思考し、生徒たちに恥ずかしくないレベルの重ねがけ魔法陣を脳内で描き、それを実践するべく手をあげた。

 小さめでいいだろうか……。
 あまり大きいと魔力がな。

「固定」
「やんのか!?」
「硬化」
「え……」

 スキルを発動し、フォンッ、と大人の事情で、手のひらに二十センチ程度の固定の魔法陣を作った。

 もう片方の手のひらに全く別の魔方陣を描き、それをポンと重ねる。

 シン、と静まり返った教室内から、訝しげな視線が突き刺さったが、これで終わりではないので気にしない。

「発光」
「!?」
「軽量、浮遊、爆発、起爆。それからええと、一応結界。万が一破裂したら、破片が飛ばないように……」
「…………」

 続けてもう片方の手のひらに、どんどん魔法陣を作っていく。

「わかりやすく、意味のある魔法陣を付けないといけないから難しいな……。ただ発動させるだけの重ねがけならあと三つはかけられるが……」
「…………」
「さぁ、ここに卵がある。これをここに入れる。卵には透過をかければ結界を通れる。入れた後にそれだけを選んで解除すればいい」
「…………」
「完成だ。危ないから掴んだらダメだぞ」

 作った魔法陣を片っ端から重ねていき、最後に卵を取り出して魔法陣の中に入れた。

 氷室に入りきらなかったので、今日の帰りに食堂の厨房に渡そうと思っていた卵だ。

 ふむ……いい感じだぞ、八重魔法陣。

 少しの狂いもなく合わせた魔法陣はなにがなにやらで、おそらく本人以外解読できないだろう。

 取り敢えず人間国ではここまで重ねられる人はあまりいなかったと思うが……。

 世間知らずな引きこもりだったから、意外と誰でもできるなら恥ずかしいな。

 不安になりつつも、俺は出来上がった魔法陣をそっと投げて、教室の真ん中上空に浮かべた。

 これは、浮遊によって浮いているのだ。
 卵は軽量を付与して、浮かびやすくしているぞ。

 そして発光によって光り始めた卵を眺め、本来は刺激がなければ爆破しない爆破の魔法陣を、頃合をみて起爆により爆発させる。

 ん? そういえば教室が静かだな。
 俺の魔法陣に興味をもってくれたのか?

 だとしたら嬉しいぞ。

「起爆」

 ──ボンッ! と爆破音。

 ヤジが飛ばなくて安堵した俺がにこにこと起爆の魔法陣を発動させると、空中の発光卵は薄煙をあげて爆発した。

 しかし結界により爆煙は広がらない。

 それをすこしずつ晴らしていけば、硬化により無傷だった卵が、何事もなかったかのように光り輝いていた。

 ああ、でももうすぐ発光の魔法陣の魔力が切れるから、消えてしまうな。

 消えてしまう前に俺は前へ歩いていき、軽く跳んで卵を回収する。
 食べ物を無駄にしてはいけないからな。

 さてこれで終わりなんだが──どうだろうか。

 教室でできる派手さはこれが限界だ。

 地味でも汎用性がある魔法が魔法陣だとわかってもらえればいいが、物足りなかったかもしれない。

「ええと……終わりだぞ?」

 反応を伺うように教室を見回すと、静まり返った教室の生徒たちは、みんな一様にポカンと口を開けて俺を見つめていた。

 うっ……や、やはりだめか。
 そうだな。このくらいアゼルなら寝起きでもやれるもんな。

 宝物庫の元・俺のベッドにかけられているとんでもない強度の魔法陣結界は、たぶん二十は重ねているからな……。

 一桁ぐらいなら魔族は朝飯前だったか。
 俺は肩をすくめてクテアシスに進言した。

「申し訳ない、足りなかったな。十ぐらいは重ねておけばよかったが、わけがわからなくなりそうだったから八つしか重ねていないんだ。古代魔法陣でも書こうか?」
「……えっ? え?」
「授業時間が減ってしまうのは困るが、待ってもらえれば書くだけなら書くぞ。発動したら大規模爆破が起こるので、それは勘弁だ」
「ええええええええええええッッ!?!?」
「!?」

 ──途端。

 クテアシスは俺の言葉を聞くや、ハッと耳を劈く大声をあげる。

 今度は俺が驚いて、ぽかんと口を開けてしまった。



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