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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
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しおりを挟む俺はクテシアスに向き直って、就任初日なのに風向きの宜しくないクラスの雰囲気に、眉を垂らす。
「完璧とは言い切れないが……君たちに少しでも有意義な授業ができるように、尽力するつもりだぞ。クテシアス」
「うげっ、なんで名前知ってんだよ?」
「? 名簿をもらったからな」
「見てねぇじゃん」
「全部覚えてる」
「はぁ!?」
クテシアスは俺の答えに「昨日決まったはずなのに気持ち悪いぃぃ~っ!」と叫んで蠍の尻尾をくねらせて、肌をさすった。
なんでだ。しかも他の生徒たちまで気持ち悪いと言い出した。
……もしかして、教師いじめなのか? いや、安易に自分の生徒を疑ってはいけない。
子どもは純粋無垢なのだ。
大人がなるべく受け入れ、話を聞き、理解しなければ。
たった一週間だが、俺は教師としてしっかり務めるつもりだぞ。
ちなみに名簿の名前を全部覚えているのは、俺は記憶力は悪くないほうだからだ。
もう何年も前に覚えたお菓子のレシピを未だに覚えていて、普段クッキーやらケーキやら作っているのだから、多少自信がある。
それにどこかで教師は初めにクラスの生徒の名前を全部覚えると聞いたことがあった気がしたので、一夜漬けだが頑張った。
なのにドン引きされてしまって、内心肩を落とす。
「き、気持ち悪いのか……」
ああええと、そうか。
名前を聞いたりして会話を発展させることもできたな。
(くっ、やってしまった……!)
気落ちする俺にクテシアスはキッと目を吊り上げて、挑発するように口角をあげる。
「ふんっ! せんせぇよぉ、名前を覚えたからって、信用できねぇなぁ~。俺たちは馬鹿な教師にはうんざりしてんだ、実力を見せてもらうぜぃ?」
「う……が、頑張ろう。どうやって実力を見せればいいんだ?」
「──はい! 魔法陣重ねがけの実演がいいと思いまぁす!」
実力を見せるとはどういうことか尋ねれば、今度は廊下側の後方から声が上がった。
「おっナイス提案だぜぇ、シーラー! それにすっかぁ~!」
シーラーと呼ばれた女生徒は、確かペガサス魔族のシルット・ウィニアルト。
純白の翼が美しく、小柄で活発そうな少女だ。白に近い金色をしたショートの髪が良く似合う美少女なので、魔力が高いのだろう。
ウィニアルトの言葉にクテシアスは指を鳴らし、喜々と乗っていった。
周囲の生徒たちも同意しながら笑っていて、なんだか楽しそうだ。
よかった。意外と歓迎されていたのか。
「さあせんせぇ、やってみろよぅ? できないならできないで、帰ってもいいんだぜぇ?」
「重ねがけか……」
ニヤニヤと笑うクテシアスに、俺はしばし腕を組んで顎に手を当てる。
人間国の基準で言うと、魔法陣の重ねがけはなかなか高度な技術。
なのに魔界の学校では、生徒にここまで教えているのか。すごいな……。
そしてこれが最初のテストということは、すでに魔方陣学を習っている彼らは、みんなできるのだろう。
ならそれを基準に授業を始めなければならないわけで、俺の思考は感心しきった。
(重ねがけが初級なら、もしかして、古代魔法陣なんかも使えるのか? 凄い。だとしたら魔界の民の技術レベルは、とんでもないことになるな……。俺なんて血を吐きながら習得したから、低レベルの授業をしないように気を抜けないぞ……!)
ぐるぐるぐるぐる。
思考回路の回転数が上がっていく。
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