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十皿目 ワンとニャー

15(sideアゼル)

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 今日は思ったより会議が長引いて、終わったのは昼飯時の頃合いだった。

 今から用意させるのも悪いか、と思ったので、なんとはなしに食堂でパンでも買い、執務室で書類を確認しながら食べようと考える。

 今日の俺は機嫌がいい。
 ライゼンも執務室にいるだろうし、食後はティータイムをしよう。

 もちろんシャルのお菓子でな!

 上機嫌に城の階下を歩く、階下ではレアな俺だが、下働きの従魔たちは特に気にしない。

 魔王様親しみやすさ度合いを昔の俺を低とするならば、恩人と出会ってからが中。シャルと出会ってからが、高となっているのだ。

 おかげで見ただけで怯えられることはない。
 まだ城下街以外の街では怯えられるけどな。

 特例として──どこぞのユニコーンの骨がシャルにお触りしているのを発見した時の俺は、最低である。

 人間風に言うと馬の骨。

 そうじゃなければ、昔のようにうっかり冷たい言葉を吐いたり、うっかり魔眼で縛ったりしねぇからな。

 とはいえ、気さくに話しかけることはない。
 だが挨拶はされる。それだけで、俺は満足だ。

 機嫌よく食堂のお持ち帰りコーナーに立ち寄って、サンドイッチを一斤分買う。

 列に並ぼうとすると人混みが自然に割れるのは、いつものことである。
 別に、列に並ぶというルールを王が率先して破ったりしねぇのにな。

 途中お持ち帰りコーナーにシャルのお菓子がないかと見たが、当然のように売り切れていた。
 若干闇オーラが出てしまったかもしれない。

 俺のぶんは予約で毎日届けられるとはいえ、やっぱりアイツのお菓子が知らない他人に食われるのは、上機嫌がやや下がる。

 この件については何度か小言を言っているが、ただ養われるだけというのは許しがたいらしい。

 俺はそれが許しがたいってんだよ、真面目め。
 クソ。かわいいかよ。かわいいぜ。

 あの記憶喪失拉致事件があってから、俺はシャルがもっとかわいくて仕方がねぇ。

 傷つけたぶんを補うように、常に構いたくなってしまうんだぜ。
 時間が有限だとわかっているから、大切にしたい。

 かわいいからいじめたくなるし、かわいいからつい口からポロッとでてしまう。
 昨日のことを思い出すと、ヤニ下がった表情が戻らない。

「フッ……フフフフ……クックック……」

 周囲の魔族から見ると、それは暗黒系の笑みに見えるらしいが……今の俺はちっとも気づいていなかった。

 こういうところが、距離を取られる理由だろう。
 頭の中が見えなくてよかった、とどこかでライゼンがため息を吐いている気がするぜ。

 尻尾があれば確実に左右に振りしきっているだろう調子で、ふんふんと機嫌よく歩く。

 するとご機嫌な魔王である俺の目の前から、グレーの軍服を着た、人型のくせに大柄な男がやってきた。

 金髪ツンツンな目つきがバーサーカーそのものである凶悪勇者──リューオである。

 コイツは人間のくせに俺と斬り合える人間詐欺野郎だ。
 魔法を使えば勝てるが、なんとなくコイツは斬り合いで叩きのめしたい。

 まぁ……俺も結構楽しんでるのかも知れねぇ。
 ムカつくけどな。悪くねぇよ。ふふん。


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