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後話 欠陥辞書夫夫
02
しおりを挟む「いや、アゼルは載ってないと思うが、俺は載ってるだろう? 昔アゼルにお詫びする為にアクシオ谷までお前に運んでもらったり、あぁ、お菓子屋さんの配達が間に合わないから、カプバットに運んでもらっている。他にもいろいろ細々と、俺は頼りっきりだぞ」
俺は考えるまでもなく、ガドの言葉を否定した。
俺のどこを見たら、人に頼らなくてもピンチを乗り越える強かな人間に見えるのだろうか。
(そんなに冷たいだろうか……むしろ頼りすぎるくらい頼っているが……?)
むむ、と考える。
まぁ、アゼルは確かにふざけてられない本当のピンチは、ちっとも頼らないからな。
命令はするが、それだけだ。
手を貸してくれ、一緒に来てくれ、そんなことは言えない。
例えば仮に仕事が多くて毎日が辛いと感じていたとしても、黙ってずっと一人で全部こなすタイプだ。
本当に助けて欲しい時程、それを悟られまいとし、自分で抱える。
怒り方でもわかるだろう。
本気で怒ると無表情だからな。
本当に溢れ出しそうな感情は、めちゃくちゃに押さえつける。
とことん追いつめられないと、弱音を吐くことすらできない。
それがアゼルの悪い癖だ。
現にそれで数十年間ずっと孤独に、黙々と魔王業をしていたわけだからな。
よそからの刺激で不安になりがちな繊細な男なのに、我慢強くていけない。
根っから強がりだから、手に負えないんだ。困ったアゼルだろう。
耐え忍ぶのがうまくないのに耐え忍ぶもので、実際に数十年間耐えられたから、始末が悪い。
外側が強いから、周囲も気が付けないんだ。俺としてもこれは困ったところである。
アゼルについての見解は同意し、そう説明して頷いて見せた。
だがガドは違う違うと首を振り、俺をビシッと指差す。
「いいや、ダブルコンボで載ってねェ。こういう、本当に大変な時はお前ら自分だけでなんとかしよう~って前提でいんだろォ? 選択肢に、俺を頼るというのがねぇ。大問題だぜ」
「それはアゼルだけだろう? そしてガドをピンポイントで頼るのか」
「まァず俺。そしてその他」
なるほど、ガドはガドを初めに頼ってほしいようだ。
かわいらしかったのと気持ちは嬉しかったのでヨシヨシと頭をなでてあげると、尻尾のフリが機嫌良さそうなものに変わった。
んん、ガドは細身で爬虫類じみているが身長百九十センチはある大きな男なんだがな……。
人懐こい竜人なので、とてもかわいい。ガドはいい子だ。
「ン~……じゃねぇ。シャルゥ? お前もだぜ。お前ら二人の騒動、勇者連れ去り事件と、絵画王子事件。俺達はいつだって事後報告なんだよ。おかしい! ってなった時にはもう終わってんの」
「それ二つとも報告する暇なかったぞ。それにだな、自分の不始末を他の人にどうにかしてくれないか? なんて言わない。俺はそこまで馬鹿じゃないんだ」
「暇なんていくらでもあるだろォ? 両方とも、最中に魔王はなにも言わなかったぜ。お前は魔王に泣きつくことも、今回俺を呼ぶこともなかったぜ。イケナイなァ……クク、シャルはお馬鹿だ。ちょびーっとは魔王を頼るようになったのは、イイコトだけどなァ」
「ん……情けないことに、無条件に信じてくれる筈だと託すしかなかったからな……」
頑なにせがまれてことの次第を全部話したので、ガドは全て知っている。
頼るというか、甘えや願望だったのかもしれないが、アゼル任せだったな。
アゼルに根拠なく信じてくれと、厚顔無恥な発言をしていた。
うーん。考えれば考えるほど、俺は人に頼っているぞ。甘ったれだ。
するとガドはもう一度デコピン、いやデコフワでそぉーっと俺の額を弾いた。
ピンしていいんだぞ。
勇者さん、いやシャルさんは頑丈だからな。
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