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後話 欠陥辞書夫夫
03
しおりを挟む「根本的な俺の指摘をわかってねーなぁ……。いいかァ? 仮にお前、今回みたいな面倒くさい敵に目をつけられて、敵わないのに戦うことになったら?」
「それは……とりあえず剣と魔力を返してもらう」
「それから?」
「筋トレと鍛錬だな。装備も新しく買いに行く。貯金があるからな」
「んでその後は?」
「戦いに行くぞ」
「一人でだろ?」
「? それはそうだ。俺に目をつけたのなら、他の人を巻き込むのはよくない。できる限り強くなるよう努力する。もちろん人にも頼るぞ。優秀な人に戦い方を教わったほうがいいから、稽古をつけてもらおう」
「それェ」
いや、どれだ。
もう迂闊に死にかけないように努力もするし、道具も使うし、人も頼っている。
俺は最大限頼りっきりの、おんぶにだっこなあまちゃんじゃないか?
自分の発言を思い返してみても、俺はなにもガドを不服がらせる無謀なことは、思ってなかった。
どうしたものかと悩みつつも、正直、意識改革は難しい。
本当はあまり心配も掛けたくないから、ひっそりと敵を暗殺し、ひっそりと帰ってきたいのだが。
それだと叱られるので、ああしたんだ。
これ以上は譲るのに躊躇してしまう。
「その顔は、まだわかってねーなァ? じゃあもし魔王とすれ違ったままずっと絵画の力に縛られていたら、どうすんだ? ン?」
「もちろん絵のことを調べたり、異常を伝える方法を模索したり、きちんと抗ったに決まっている」
「んー……あのなァ、なんで俺んトコこねえの?」
「ん?」
不満の声を上げられ、今度はそぉーっと額を叩かれた。
叩かれたというか、なでられた。
もう三回目だが、叩いていいんだぞ。
合言葉はシャルさんは頑丈、だ。
リピートアフタミー。今のは冗談だ。
「人が増えたらそれだけ視野も広がるし、誰かが変だと気がついたかもしんないだろー? それに伝わらなかったとしても、守ってって頼めば、うっかり切り刻まれることはなかったぜ。俺が刻まれる前に防御魔法貼れたかも知んねーし、お前より早く絵画に走れてたかも。かーも」
そんなこと思いつかなくてぽかんと見つめると、ガドはかもかもと言いながらぐっと顔を近づけた。
至近距離にやってきたのは、いつもと同じにんまりとした笑み。
でもやっぱりその目は寂しそうに思えて……俺はしょんぼりと肩を落とした。
昔の話を思い出したのだ。
ガドは昔一緒に行ったアーライマ探索の時も、俺が落ちるかも知れないと言って心配したことがある。
そして俺が大丈夫だと言って一人で登れば、珍しくしょげかえっていた。
「さっきの例え話で言うと、なんで俺に〝一緒に戦いに行ってくれ〟って頼まねェの? 前提がダメ。自覚がねぇのはもっとダメ。ダメシャル。俺を呼ばないシャルは、ダメの中のダメってやつだぜ」
「う……そ、その考え方は、なかったな……」
「くくく」
有効な返答を持ち合わせていない俺がたじろいで負けを認めると、ガドは満足そうにほらな? とでも言いたげな表情をする。
なるほど……。
辞書にない、と言ったのはそういうことか。
確かに、俺の選択肢にはソロしかない。
ゲームで例えるとみんなで倒したほうが簡単な高難易度モンスターに、わざわざ一人で挑むといった感じか。
だが言っている意味を理解しても、それが悪いことな気はしなくて、うまく納得してあげられなかった。
誰かに面倒を分けたり大切な仲間を危険に晒すくらいなら、自分一人のほうが俺の心も気楽なのだ。
だからますますわからない。
けれどガドを悲しませたのが辛く、伺うような表情をしてしまった。
ポンポンと頭をなでてやると、そっと抱き寄せられる。
もちろん、物凄くゆっくりかつ、そぉーっと。
死なないから普通に抱きしめてくれ。
やはり冗談じゃなく、リピートアフタミーと言うべきだろうか。
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