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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

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 ──その日の夜。

 さぁあとは寝るだけといった頃に、アゼルはスキップしながら俺の部屋へ駆けてきた。

 ベッドで横になっていた俺は少し眠気を帯びた目を擦り、ベッドに腰掛けアゼルと相対する。

 ドヤ、と不敵に笑いながら、アゼルは機嫌よく両手を大きく広げた。


「シャル! 城の連中をねじ伏せたぜ! だから明日から、城の中なら好きにうろついても構わねぇ。俺は執務室で仕事してるから、まぁ、退屈なら遊びに来てもいいぞ!」


 褒めろと言わんばかりに、キラキラとした瞳でふふんと鼻を鳴らされる。

 更にこれみよがしにパチンッと指を鳴らされたかと思うと、パキッ、とガラスの割れるような音がした。


「結界を解除した。いいか? 明日になったらだぞ」


 人間の出入りを封じる結界を消してくれたアゼルは、明日になったらだと念を押す。
 アゼルはきちんといつか俺に言ったとおりに、城の中での自由行動許可を有言実行してくれたのだ。

 そんなアゼルを見つめる俺は、なんだか眩しいものを見るように目を細めてしまった。

 魔王に負けて、まだたったの三週間しか経っていない。それだけの付き合いだ。

 でもアゼルは俺にほんの少ししか求めないのに、部屋も食事も平穏も好きなものも与えて、約束だって対等に守ってくれた。

 つんけんとしたもの言いの中には俺を大切に扱う気持ちがあって、その理由はまるでわからない。

 けれどこっちの世界に来てからはそう貰えるものじゃなかった気持ちを、たくさん貰ってしまっている。

 ──やっぱり、この気持ちを返したいなぁ。

 この温かな気持ちを、俺もアゼルに返したい。誰かに思いやってもらえることは、本当に温かく、幸せだから。


「ありがとう、アゼル。明日は必ずお前の執務室へ行こう。待っていてほしい」

「っ、し、かたねぇな……うぅ」


 できるだけ感謝の気持ちを込めてお礼を言うと、アゼルはまたいつものように真っ赤になって震えながら、顔を背けてしまった。

 発作にも慣れてきたな。
 前に身体が悪いのかと聞いたが、違うと言われた。でもやっぱり心配だ。

 そこで思い浮かんだのは、マルオに聞いた花のことだ。

 やはりあれをアゼルにプレゼントしたい。日頃の感謝を込めてだ。俺はその気持ちが強くなって、復活したアゼルに声をかける。


「アゼル、城の少し外なんだが……明日、アクシオ谷に行っても構わない「ダメだ」なんでだ……」


 厳しく睨みつけられながらもの凄い速さで否定されて、俺はがっくりと肩を落とした。

 どうしてだ。魔王城の裏手は崖だらけだ。
 そこに行くのだから本当にすぐそこだ。

 俺ががっくりと落ち込むからかアゼルは渋い表情で焦ったが、すぐに立ち直って仁王立ちで腕を組む。




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