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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

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  ◇ ◇ ◇


「シャル! キョウハ、ナニシテアソンデクレル?」

「そうだな、今日はしりとり。果物縛りだ」

「クダモノシバリ! マルオハクダモノスキダ! デモ、チハモットスキ! スキ!」

「アゼルがいいよって言ったら、少しあげるんだがな」


 パタパタと朝の食事を終えた俺の周りを楽しげに飛んでいるコウモリもどき。

 彼は俺の専属世話係、マルオだ。
 イントネーションは北の大地の丸い苔玉と同じで頼む。

 バスケットボールサイズの大きな丸いコウモリもどきには大きな目玉が体の中心にあって、口はなんと頭頂部にあった。

 マルオは初めて会った時、唯一俺が名前をつけたコウモリもどきなのだ。

 忙しいお城の従魔であるマルオが仕事に遅れないように少しだけだが、俺が食事を終えたあとの隙間時間に一緒に遊んでいる。

 食後のおやつに添えられていたカットされた桃をつまみ、マルオの口に入れてやりながら、俺はテーブルに肘をついた。


「マオウサマ、イイヨッテイワナイ。マオウサマ、シャルタイセツ!」

「そうだな、アゼルは俺を大切に飼ってくれている。とても感謝してるぞ。……俺はそれになにか返したいんだが、どうしたらいいものか……」

「? シャル、マオウサマニ、プレゼント?」


 くりくりの大きな目玉で俺を見つめるマルオは、きょとんと体を傾げる。

 プレゼント……そうだな。それができればいいのだが、無一文でこの部屋から出られない俺にはあげられるものが血液しかない。

 だがそれは何度言っても、たくさんは受け取ってもらえていないのである。

 しょんぼりと肩を落とす俺を元気づけようと、マルオはテーブルについた腕に滑らかなカエルのような肌を擦りつけて、翼をはためかせた。


「マオウサマ、サイキンケットウデイソガシイ! ツカレノトレルオハナ、サイテルトコ、マルオシッテル!」

「! それはいいな」


 マルオはニコニコと目を細めながら、嬉しそうにその花の咲いている場所を教えてくれた。
 魔王城からそう遠くはない、切り立った崖の隙間にあるらしい。

 乾燥した岩場にしか咲かないそれは、風が吹くと飛ばされてしまうので崖の隙間に咲くのだそうだ。

 過酷な環境でも一定数咲いているため回復効果の高い花で、お茶にするといいらしい。流石世話係だ。

 俺はアゼルが部屋から出てもいいと言ってくれた時に外出をお願いして、こっそりそこへ行って花を手に入れようと心に決める。

 目標が決まってスッキリとした気持ちで、俺は意気揚々とマルオと果物縛りしりとりを始めたのだった。





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