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第十話 人の心、クズ知らず。
22(side今日助)
しおりを挟む「~~~~……っべ、勉強が切りよく終わったから、まぁ、ちょっと遊んでただけだよ」
「ぶっ、他のもいる。似てんなー。俺以外はカーワイー」
「あ、あはは……」
──くっ……咲のが一番気合い入れて描いたんだけども……!
はむはむと耳たぶを食みながらノートを長い指が滑ると、心臓がうるさくてかなわない。笑って誤魔化す。
というか、人前で友達と言うにはあんまり近すぎる距離感を披露するのは、控えてほしいのが本音だ。
たった二ヶ月でもこのカフェの店員として認知されつつある咲に濃厚接触をはかられれば、周囲からの視線は避けられない。
俺の羞恥センサーはそれらを敏感に察知する。──のに。
振り解けないのだから、俺は自分で呆れるくらい咲が好きだった。
チュ、チュ、と耳の裏にキスをするに至る咲には、少しも伝わってないんだろうけどなぁ。
「キョースケの作ったやつならなんでもスキ、ってわけじゃねぇケド」
「ん、わかってる。っは、くすぐったい……」
「嘘でもスキって言ったほうが嬉しい?」
「はは。別に、嘘はいらないぜ。俺にはホントだけがいいな」
「そ。ホントは、キョースケの作ったやつならなんでも食える、で」
「ぅひっ……!」
「おままごとセットでも、喉詰まらない大きさなら食うし」
ビクッ、と身が跳ねた。
教科書やノート、筆記用具を片付ける手がしばしば止まる。
俺の恋心が伝わっていなくても、咲の愛情表現は〝例え嫌いなものでも無機物でも躊躇なく食べるよ〟で。
要するにそのくらい、俺が作ったものに価値を感じてくれてるらしい。
独特の言い方をする咲の言葉の意味は、彼の言葉が甘さを含んでから、ある程度話してくれると理解できるようになった。
なってしまうと、たまらない。
普通に言われるより自分で気づいたほうが恥ずかしいし、嬉しいとか……ホント、ズルい人だなぁ……。
バックパックに全てを詰め込みながら、ままごとセットは食べなくていいと笑ってごまかす。
すると咲は俺のバックパックを奪いつつ「ガチめに考えたのに」と首を傾げて、入り口に向かって歩き出した。
……くそう。そういうとこだぞ。
そんなこと、本気で考えないでくれ。とめどなく好きになる。
そして教科書やノートパソコンが入った重いカバンを、さり気なく持たないでほしい。好きが止まらない。
そうして額に手を当てながら、相変わらずの咲と二人並んで店から出る。
カランッ、とドアベルを鳴らしてドアを開いた時──肩を丸めて駅へと歩いて行く見知った男を一人見つけた。
ん? あれは……翔瑚か?
「キョースケ、手ェ貸して。歩くから」
「ぷっ、はは、わかった」
俺がその男を翔瑚を認識した時には、咲はすでに俺の手を取って歩き始めていて、それに逆らわずについて行く。
思わず笑った。
翔瑚を見つけて構いに行かない選択肢はない咲なのに、俺を放置して翔瑚のもとへは行かない。
もし咲が俺に待ってて、と声をかけて歩いて行ったなら、俺は胸に少しの寂寞を抱いて、今とは違う色が混ざった笑顔で送り出していただろう。
けど翔瑚を見つけてもなかったことにしたならば、万が一翔瑚があとでそれを知った時、きっと俺と同じ寂寞を抱いて笑ったはずだ。
本当に俺と翔瑚で格差なく愛している咲だから、自然とそうしてくれる。
あーあ、幸せだなぁ。
そう思いながら、シュンと気落ちした様子の翔瑚を背後から抱き寄せる咲の横で、俺はふふふと笑った。
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