22 / 55
1章 魔法と令嬢生活
番外編〜誕生日会〜
しおりを挟む
※作中に新キャラ(に近い)人が登場します。
校正後verの2話と17話に名前が出ます。2024年12月以降に読み始めた方は大丈夫です。
ーーーーー
この世界に、日付という概念はなかった。
必要ではなかったからだ。
しかし、1か月前にカレンダーが現れた。
きっとそれに詳しい転生者が絡んでいるのだろうと睨んでいるが、定かではない。
それを聞けば、間接的に自分は転生者だと明かしているようなものだからだ。
とまあ、なにが言いたいかというと。
この世界には『誕生日』という概念がなかったのだ。
だから私は、適当に誕生日を決めた。
それが今日11月5日だ。
__朝。
「ミュラー様、朝でございます。お起きくださいませ」
リエが私を起こそうと声をかける。
私の朝は、こうして始まる。
「おはよーリエ。もうちょっと寝るー」
寝返りをうち、彼女から顔を背ける。
「いえ、起きていただきます。コノン」
「はいっリエ様! お任せください!」
無駄に元気な声がしたかと思うと。
「ひゃひゃひゃひゃ!………なに!?」
こしょこしょ攻撃が突如始まった。
驚いて裏返った声で非難する。
「お嬢様はこうしなければ起きていただけないとようやくわかったのです。観念してください!」
なんてこと。
「わかった、起きるから止めてえええ」
絶叫し、潔く負けを認めた。
息を整えた私を見て、リエとコノンが同時に言った。
「お誕生日おめでとうございます、ミュラー様」
「おめでとうございます、お嬢様!」
頷いて笑みを見せる。
「ありがとう、2人とも!」
その後は、普段とあまり変わらない日常を過ごした。
ただし、誰が伝えたのか、顔を合わせる侍従侍女すべてが祝いの言葉を言ってくれる。
使用人の中でも下級には伝えられていないところを見ると、階級社会を垣間見る。
だからと言って私に変えられることではないし、冷たいことを言うようだが、そもそも改善する利点が私がない。
得がないし、貴族社会では異端とされる行動をとるほどバカではない。
__夜。ディナーのとき。
誕生日パーティーが開かれることになった。
伯爵家から帰ってきた姉が近寄った。
「誕生日おめでとう、ミュラー」
「ありがとうございます、お姉様」
軽く頭を下げる。
「6歳だっけ?」
「そうです」
「早いわねえ」
「お姉様がなにを言います。急に老けてしまわれましたか」
冗談のつもりで笑いかける。
「そんなわけないでしょ?」
それがわかる姉は戯けている。
「そうでしたね、失礼しました」
姉が私を立ち上がらせて案内する。
「ご飯の前に会ってほしい人がいるの」
「どなたでしょうか。私は知っていますか?」
「名前だけなら知っているわよ~」
誰だろ、マジで思いつかない。
キョロキョロする若い男性が目についた。
会ったことはないが………まさか彼が?
彼は姉に気がつくと、手を振った。
彼女も小さく手を振っている。
「ミュラー、彼はテンタルト子爵家嫡男レイバンス様」
おっと、上の階級の方だったか。
不躾な視線を送ってすまない。
「お初にお目にかかります。ロイリー・ハイカルの妹ミュラーと申します」
カーテシーも忘れずに披露する。
「ご丁寧にありがとうございます。レイバンス・テンタルトと申します」
軽く会釈を返される。
………ん? 聞いたことある気がする。
「言ったことはあるけれど、彼とは婚約する予定です」
………?
フィアンセ………?
えっレイバンス様と婚約!!
「姉の婚約者様でしたか………失礼しました」
「まだしていませんよ?」
そういうことじゃない。
「では許嫁様ですね」
「そうですね。ロイリーはあなたのことをよく褒めています。仲良くさせていただきたい」
「こちらこそでございます。義兄様?」
格上かつ年上にも関わらず、どこかかわいさがあって、思わずからかってしまった。
「んなっ! まだしていないと言ったではないか!」
「ふふふ、申し訳ありません。レイバンス様」
あまりにも私が楽しそうに笑っているので、レイバンス様は姉を標的に据えたようだ。
「ロイリー、言っていたことと違うじゃないか」
「きっとからかわれますよ、と言いましたよ?」
「本気だとは思わなかったぞ………」
姉をぽんぽんとつつく。
「それでお姉様は私をなんだとおっしゃったのです」
「内緒よ!」
「気になりますよ~」
「私は食べてくるがいいか」
「拗ねてるんですか?」
「そんなわけないだろう!」
「レイバンス様、ミュラーに張り合うのは悪手ですわ」
「其方までそう言うか!」
2人でカラカラ笑っていると、両親がやって来ていることに気づいた。
「お父様、お母様」
「ミュラー、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
あれ、これってレイバンス様の両親挨拶になるのでは?
「ご機嫌よう、ハイカル男爵卿、男爵夫人殿」
今度はちゃんとしたお辞儀。
「ああ、久しいなレイバンス殿」
「来てくれたのですね」
「はい夫人。招待状を受け取って小躍りする気分でありました」
「まあ、口が上手いこと」
ほほほと母が褒める。
「そこで談笑するのもよいが、食べに行ってくれ。冷めてしまう」
「もうあなたったら。嫉妬でもしているんですか?」
「アマリ! 私が誰に嫉妬していると申すか!」
さっき見た光景と同じことが繰り広げられている。
お父様もレイバンス様も、妻の尻に敷かれる運命なのだろう。合掌。
「お母様、好きです」
純粋な気持ち半分、父の反応を見たい気持ち半分。
「6歳になったというのに甘えん坊さんですわね~。それがいいんですけれど。ロイリーはなかったものね」
抱擁が返ってきてふふんと得意気になる。
姉はあまり甘えてこなかったらしい。
私を説得したときもとても大人っぽかったので、察してはいたが。
「いいではありませんか。私は甘えるタイプではないのです」
「ですが、殿方は甘えられたい方が多いですわ。ねえケイリー様」
母から父の性格が暴露され、少し慌てたように肯定する。
「う、うむ。別に私がそうとかいう話ではなく、一般的にそういう傾向にあるな。なあレイバンス殿」
今度は婿殿に話が飛ぶ。
「え!? あ、はい、ソウデスネ」
父と婿殿をも巻き込んだため、姉にとっては説得力のあるものとなったようだ。
「善処いたします。それではレイバンス様、まいりましょうか」
「は、はい」
連れていかれた義兄様を見送り、美味しいディナーに手をつけようとリエを探しにいくのだった。
校正後verの2話と17話に名前が出ます。2024年12月以降に読み始めた方は大丈夫です。
ーーーーー
この世界に、日付という概念はなかった。
必要ではなかったからだ。
しかし、1か月前にカレンダーが現れた。
きっとそれに詳しい転生者が絡んでいるのだろうと睨んでいるが、定かではない。
それを聞けば、間接的に自分は転生者だと明かしているようなものだからだ。
とまあ、なにが言いたいかというと。
この世界には『誕生日』という概念がなかったのだ。
だから私は、適当に誕生日を決めた。
それが今日11月5日だ。
__朝。
「ミュラー様、朝でございます。お起きくださいませ」
リエが私を起こそうと声をかける。
私の朝は、こうして始まる。
「おはよーリエ。もうちょっと寝るー」
寝返りをうち、彼女から顔を背ける。
「いえ、起きていただきます。コノン」
「はいっリエ様! お任せください!」
無駄に元気な声がしたかと思うと。
「ひゃひゃひゃひゃ!………なに!?」
こしょこしょ攻撃が突如始まった。
驚いて裏返った声で非難する。
「お嬢様はこうしなければ起きていただけないとようやくわかったのです。観念してください!」
なんてこと。
「わかった、起きるから止めてえええ」
絶叫し、潔く負けを認めた。
息を整えた私を見て、リエとコノンが同時に言った。
「お誕生日おめでとうございます、ミュラー様」
「おめでとうございます、お嬢様!」
頷いて笑みを見せる。
「ありがとう、2人とも!」
その後は、普段とあまり変わらない日常を過ごした。
ただし、誰が伝えたのか、顔を合わせる侍従侍女すべてが祝いの言葉を言ってくれる。
使用人の中でも下級には伝えられていないところを見ると、階級社会を垣間見る。
だからと言って私に変えられることではないし、冷たいことを言うようだが、そもそも改善する利点が私がない。
得がないし、貴族社会では異端とされる行動をとるほどバカではない。
__夜。ディナーのとき。
誕生日パーティーが開かれることになった。
伯爵家から帰ってきた姉が近寄った。
「誕生日おめでとう、ミュラー」
「ありがとうございます、お姉様」
軽く頭を下げる。
「6歳だっけ?」
「そうです」
「早いわねえ」
「お姉様がなにを言います。急に老けてしまわれましたか」
冗談のつもりで笑いかける。
「そんなわけないでしょ?」
それがわかる姉は戯けている。
「そうでしたね、失礼しました」
姉が私を立ち上がらせて案内する。
「ご飯の前に会ってほしい人がいるの」
「どなたでしょうか。私は知っていますか?」
「名前だけなら知っているわよ~」
誰だろ、マジで思いつかない。
キョロキョロする若い男性が目についた。
会ったことはないが………まさか彼が?
彼は姉に気がつくと、手を振った。
彼女も小さく手を振っている。
「ミュラー、彼はテンタルト子爵家嫡男レイバンス様」
おっと、上の階級の方だったか。
不躾な視線を送ってすまない。
「お初にお目にかかります。ロイリー・ハイカルの妹ミュラーと申します」
カーテシーも忘れずに披露する。
「ご丁寧にありがとうございます。レイバンス・テンタルトと申します」
軽く会釈を返される。
………ん? 聞いたことある気がする。
「言ったことはあるけれど、彼とは婚約する予定です」
………?
フィアンセ………?
えっレイバンス様と婚約!!
「姉の婚約者様でしたか………失礼しました」
「まだしていませんよ?」
そういうことじゃない。
「では許嫁様ですね」
「そうですね。ロイリーはあなたのことをよく褒めています。仲良くさせていただきたい」
「こちらこそでございます。義兄様?」
格上かつ年上にも関わらず、どこかかわいさがあって、思わずからかってしまった。
「んなっ! まだしていないと言ったではないか!」
「ふふふ、申し訳ありません。レイバンス様」
あまりにも私が楽しそうに笑っているので、レイバンス様は姉を標的に据えたようだ。
「ロイリー、言っていたことと違うじゃないか」
「きっとからかわれますよ、と言いましたよ?」
「本気だとは思わなかったぞ………」
姉をぽんぽんとつつく。
「それでお姉様は私をなんだとおっしゃったのです」
「内緒よ!」
「気になりますよ~」
「私は食べてくるがいいか」
「拗ねてるんですか?」
「そんなわけないだろう!」
「レイバンス様、ミュラーに張り合うのは悪手ですわ」
「其方までそう言うか!」
2人でカラカラ笑っていると、両親がやって来ていることに気づいた。
「お父様、お母様」
「ミュラー、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
あれ、これってレイバンス様の両親挨拶になるのでは?
「ご機嫌よう、ハイカル男爵卿、男爵夫人殿」
今度はちゃんとしたお辞儀。
「ああ、久しいなレイバンス殿」
「来てくれたのですね」
「はい夫人。招待状を受け取って小躍りする気分でありました」
「まあ、口が上手いこと」
ほほほと母が褒める。
「そこで談笑するのもよいが、食べに行ってくれ。冷めてしまう」
「もうあなたったら。嫉妬でもしているんですか?」
「アマリ! 私が誰に嫉妬していると申すか!」
さっき見た光景と同じことが繰り広げられている。
お父様もレイバンス様も、妻の尻に敷かれる運命なのだろう。合掌。
「お母様、好きです」
純粋な気持ち半分、父の反応を見たい気持ち半分。
「6歳になったというのに甘えん坊さんですわね~。それがいいんですけれど。ロイリーはなかったものね」
抱擁が返ってきてふふんと得意気になる。
姉はあまり甘えてこなかったらしい。
私を説得したときもとても大人っぽかったので、察してはいたが。
「いいではありませんか。私は甘えるタイプではないのです」
「ですが、殿方は甘えられたい方が多いですわ。ねえケイリー様」
母から父の性格が暴露され、少し慌てたように肯定する。
「う、うむ。別に私がそうとかいう話ではなく、一般的にそういう傾向にあるな。なあレイバンス殿」
今度は婿殿に話が飛ぶ。
「え!? あ、はい、ソウデスネ」
父と婿殿をも巻き込んだため、姉にとっては説得力のあるものとなったようだ。
「善処いたします。それではレイバンス様、まいりましょうか」
「は、はい」
連れていかれた義兄様を見送り、美味しいディナーに手をつけようとリエを探しにいくのだった。
12
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
いつまでもドアマットと思うなよ
あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる