【2章完結】前世で若くして病死した私は、今世の持病を治して長生きしたいです[ぜんわか]

ルリコ

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1章 魔法と令嬢生活

021 変われども

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 あれから3ヶ月が経った。


 あれよあれよと、いつの間にやら令嬢教育が始まっていた。

 最初は言葉遣い。
 『~ですわ、おほほほ』と、いつも穏やかに微笑む練習をした。

 言葉遣いはどうにかなっても、自然な笑みというのがどうにも難しかった。
 講師のアルロッテ様(貴族らしい)はかなりハキハキ指摘する女性なので、面と向かって「気味が悪い」と言われた。
 遠慮を知らないのかと呆れつつ、頑張って直している最中である。


「酷いと思いませんか、お姉様。いくら事実でも、伝え方ってものがなってないようですわ」

 今日はどちらも授業が休みなので、姉と2人でお菓子をつっつきあっているところだ。

 愚痴を溢した私に、姉は曖昧で素晴らしい笑みを浮かべた。

「それはそうかもしれないけれど……まずは落ち着きましょう? 深呼吸よ」

 令嬢の鑑みたいな言動をする姉に憧れと寂しさを覚えながら、彼女の言う通り深呼吸した。

「落ち着けたかしら?」

 胸中に渦巻くものがなんなのか。

 わかってる。
 端的に言えば、姉が姉らしくない。

 取り繕う話し方が。態度が。


 気づけば首を横に振っていた。

「お姉様。いつもの話し方に戻してほしいです」

 なんか……どこかに行ってしまいそう。

「でも……これが正しいあり方よ。令嬢としてはこれが正しいわ」
「妹に対する少女としては間違いです」

 令嬢としてのロイリーと、私の姉としてのロイリーを分けてはいけないのか。
 彼女は、それの区別ができないほど子どもではないはずだ。

 もちろん、私もできると思っている。
 できる自信がなかったら、誰にも愚痴なんて言えない。

「わかったよ、ミュラー。公私を分けるくらいはいいよね」
「はい、お姉様!」

 私が笑うと、控えめだった彼女の笑みは太陽みたいに輝いた。
 彼女は、内緒だと前置きし、言った。

「実はね」

 他人の秘密は蜜の味、とはよく言ったもので。

「私もアルロッテ様、苦手なの。厳しいから」
「なら他人のことを言えないではありませんか!」

 手をぱちんと合わせた。
 同じだったことに喜んだ。

「でも私は、ミュラーみたいに大っぴらに言ってないからいいのよ」
「私だってお姉様以外には言ってませんよーだ」

 くすくすとお互いを見合った。

「そういえば、お姉様はいまなにを習っているのですか?」
「お茶会の主催者側の対応かな」
「では、招待状も書いているのですか?」
「そうだね、それがどうかした?」

 チャンスかもしれない。
 姉の直筆招待状をもらうチャンスが到来したっ。

「練習でもなんでもいいので、私に招待状をください!」

 すると姉は軽く返事をくれた。

「うん、いいよ」
「本当ですか!?」
「大げさよ」
「そんなことありません!」

 私の真意が理解できていなさそうな姉に、力強く否定した。
 それに対し、彼女はクッキーを口元に運んでいる。


 こんな日常がずっと続いてほしい。

 ふとそう思ったときだった。

「お嬢様。そろそろお戻りくださいませ」

 控えていた姉の侍女が時間を知らせた。

「もうそんな時間かしら?」
「お嬢様がまだご準備を終わらせになられていないので、お戻りになるように、との侍女長様からの命にございます。どうかご勘弁を」

 準備?
 なんのことだ?

「お姉様、準備とはなんのですか?」

 姉はそう問われると迷いの見える所作で、目を逸らした。

「……カルンにはあと少しで終わらせると伝えてきなさい。早く」
「はっ」

 さっと頭を下げた侍女はすぐに翻して去った。
 それを見る姉は悲しそうだった。

「……」
「今日のお茶会は、とあることを伝えるためのものなの。
 どう考えてもあなたは悲しむし、なんなら止めるかもしれない。そう思ってすぐに言えなかった」

 なんだ。
 なんの重大発表だ。

 婚約か。
 いや、それだったら、私は悲しまないし止めもしない。


 じゃあ……なんだ?

「……」
「伯爵家の侍女になるの。私」
「……え?」

 もう?
 まだ8歳よ!?
 いくら才女といえど、早すぎる……!

 本家に姉を取られたことに、ぽっかり空虚な思いがした。
 急に紅茶の香りがわからなくなる。

「なぜですか?」

 確かに、伯爵家に仕える時期を直接聞いたことはなかった。
 学院に入学すると同時になるものだと、私は思い込んでいた。

 確認しなかった私が悪い。
 気づかってくれた姉に文句を言う資格はない。

「お母様が主催したお茶会に参加したのを覚えてる?
 あのとき、伯爵閣下の奥様もお越しくださっていたの」

 覚えている。はっきりと。

 弟カイレーと仲良くなれたきっかけだ。

 じゃあ、それで評価されたということか。

「おめでとうございます」
「なにも言ってないけど……よくわかったね」

 たしかにひとつ会話を飛ばしたかもしれないが。
 これぐらいできないと、舞踏会での会話なんてやってられないんじゃないか。

「さっきの侍女の言葉から察するに……明日か明後日なのでしょう?」
「そうよ」

 やっぱりそう、なのか。

「なぜ先に言ってくださらなかったのです。気持ちの整理がついた状態で送り出したかったです」
「そうね、そういう見方もある……。ごめんね」
「行くときはお伝えください。どこにいても駆けつけます」

 言葉が、嫁を送り出すみたいになっている。
 自覚しながらも止めなかった。

「うん、ありがとう。こんなにも姉思いの妹がいて幸せ者だなあ」
「もっと幸せになってください」

 先程送り出した侍女が戻っていることに気づいた。

「それじゃミュラー。住み込みで働くことになるけど、週に1日は帰ってこれるから」
「はい」
「明日、出かける。ちゃんと呼ぶよ」

 なんと言って別れようか、姉は思案しているようだった。

「これからのお姉様に幸福が待っていますよう、お祈り申し上げます」
「……私も祈ってる。ありがとう」




 ばたんとドアが閉まってからも、放心していた。

「ミュラー様」

 いつのまにか、リエがいた。

 姉が寄越したのだろうな。

「リエは私から離れない?」

 前世で周りに人が少なかったから、私はいつも寂しがっていた。
 それがいまも引き継がれているのか。
 身近にいた唯一の姉が、すぐに会えないところに行くと思うと、既に悲しい。
 そして確認を怠った自分に対して怒りが湧いてくる。

 驕るな、立場を弁えろ、と何度も戒めたのに。
 ……ばっかじゃないの。

「もちろんでございます。私めはあなた様だけの侍女でありますれば」

 ぐっと握りしめた拳を、しわだらけの温もりが包んだ。
 彼女は跪いて答えた。

 でも、こんな醜い葛藤は見せるべきではない。

 そもそも、前提条件となる“転生”について、私は誰にも言わない。
 この世界しか知らない人にとって、この事象は混乱するだけだ。

 自分で解決すべきだと思うから。私は相談しない。

「絶対、離れない?」

 意地悪な質問だ。
 この世に絶対はないと理解しているというのに。

「はい、絶対です」

 彼女は全く迷いを見せず言い切った。


 これからいろんなことがあるだろう。

 苦しいことも経験するだろう。

 それでもいまは。
 不安も含めて私を肯定し勇気づけてくれる、リエやロイリー、コノンがいれば。
 なにがあっても、なんとかできるような気がした。


 私は大丈夫だ。
 きっと。





ーーーーー

1章、本編の最終話です。
お読みいただき、ありがとうございました。


2024/11/18 校正完了
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