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下位ダンジョン窓口

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「おい! いい加減にしないと――」
「サラマンダーなら火のダンジョンと火山のダンジョン、それに捕食のダンジョンに生息しています」

 冒険者の言葉を遮り、アヤはサラマンダーが生息しているダンジョンを紹介し始めた。

「ベイル・ギュリエラ様はアイアンランクですので、火山のダンジョンか捕食のダンジョンがお勧めです」
「……捕食のダンジョンは行ったことがねえなぁ」
「平均的なサラマンダーの出現率で言えば火山のダンジョンが良いでしょう。ですが、一発で多くのサラマンダーを狩るなら捕食のダンジョンです」
「一発で、だと?」
「当たり外れが多いということです。火山のダンジョンにはまばらにサラマンダーが生息していますが、捕食のダンジョンには群れで生息しているんです」

 群れ、と聞いた冒険者のこめかみがピクリと動いた。

「捕食のダンジョンに行こう」
「でしたら火炎瓶ファイアボトルを持っていくことをお勧めします」
「それは何故だ?」
「ダンジョンの名前にもなっている捕食、これはメインで出現する食人植物から名付けられているからです」
「食人植物だと?」
「はい。捕食のダンジョンで一番気をつけるべきは食人植物、名前をフラワーバイトと言います」

 極採色の姿を持つフラワーバイトはダンジョンの天井にぶら下がって冒険者が下を通るのを待っている。
 気づかずに下を通ってしまうと一気に降下して大人の人間を丸呑みし、消化液で溶かし食してしまう。
 植物ということもあり弱点は火、攻撃が届かなくても火炎瓶を投げつければ火が燃え広がりそのまま灰になる。

「丸呑みされてしまうとそれまで、フラワーバイトの消化液は大人を数分で溶かしてしまうと言われているので注意が必要です」
「火炎瓶か……値が張っちまうなぁ」
「群れで生息していますが、それも見つけられればの話です。確実に数を集めるなら火山のダンジョンがいいでしょう」

 腕を組みしばらく考えていたベイルだったが、決断したのかニヤリと笑ってアヤに告げた。

「――火山のダンジョンだな」
「分かりました。入場許可証を発行するのでしばらくお待ちください」
「手早く頼む」
「はい!」

 後ろに下がったアヤは事務所職員へ声を掛けて入場許可証を発行し、すぐに窓口へと戻る。

「こちらになります」
「おう。嬢ちゃん」
「なんでしょうか?」
「最初はすまんかったな。時間に余裕がある時は、捕食のダンジョンも試させてくれよ」
「いえ、私も初めてだったので緊張してしまいました。気をつけていってらっしゃいませ」
「ありがとよ!」

 最初は怒声を上げていたベイルが最後にはお礼を口にするまでになっていた。
 両隣の職員は面食らい、後ろで見ていたアルバも口を開けたまま固まっている。
 そんな中でヴィルだけはニヤリと笑い歩き出すとアヤの肩を叩いていた。

「次もやってくれるんだろう?」
「はい!」
「だそうだ。アルバ、さっさと行かないと休憩時間が終わるぞ?」
「……へっ? あっ! い、行ってきます!」

 休憩を言い渡されていたことを思い出したアルバはすぐに駆け出して裏口から出ていった。
 アヤは問題ない。その点に関してヴィルは心配していない。ヴィルの心配は――周囲の職員にあった。

(さて、アヤが仕事のできる奴だと知った他の職員はどう反応するのか)

 見下した相手が自分と同じくらい、もしかしたら自分以上に仕事ができると分かった時、どういう反応を示すのか。

「……おい! 聞いているのか!」
「あっ、すみません!」

 右隣の冒険者が怒鳴り声を上げた。

「……話を聞いていたの? ここは行ったことがあるって言ったわよね?」
「も、申し訳ありません!」

 左隣では案内ミスがあった。

(……やはりこうなったか。アルバを休憩に行かせたのはマズかったか?)

 ミスをした職員はアヤを見下していた職員である。
 アルバならこのようなミスを起こすことはなかっただろうとヴィルは後悔した。

(今はそんなことを考えている場合じゃないか)

 左隣の冒険者を見てひとまず安堵したヴィルは、右隣の冒険者に横から声を掛けた。

「申し訳ありません。お話は聞いていました、ヴォルカルカの剛角が必要ということでしたね?」
「……その通りだ」
「でしたら大森林のダンジョンがお勧めですが……アイアンランクであればパーティを組むこともお勧めします」
「大森林のダンジョンかぁ」
「ランクFのダンジョンですと水のダンジョンに生息していますが、水辺に現れることが多いので水棲のモンスターとも一緒に戦うことになるのと、出現率も低いのであまりお勧めはできません」
「……分かった、パーティを探してみるよ」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 サッと事務所に下がり人数指定の入場許可証を発行して冒険者に手渡した。

「それとこちらをパーティ募集の掲示板にお願いします」
「ありがとよ。それとそっちの女の子」
「は、はい!」
「もう少しこの兄ちゃんを見習いなよ」

 最後には笑顔でパーティ募集の掲示板へ移動した冒険者。
 ヴィルは怒鳴られた職員に声を掛けて休憩へと入ってもらう。
 左隣の職員へ視線を向けると、女性冒険者の対応は終わっており次の冒険者の対応を行っていた。

(あっちは大丈夫そうだな。アルバが戻ってきたら休憩に入れて、それからアヤを休憩に、それから――)

 ヴィルは目の前の冒険者の対応を行いながら頭の中でスケジュールを組み立てていく。
 隣に立つアヤにはすでに意識を向けていない。安心して任せられると信頼しているからだ。

(……次は何を教えるかなー)

 最終的には指導方針にまで思考を飛ばしながら、ヴィルはアヤの隣で仕事をこなしていくのだった。
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