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第147話:トーヤ、感謝される
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「トーヤ少年、今日は何から何まで、本当にありがとう」
「ありがとうございました、トーヤさん」
ジェンナとの話し合いが終わったあと、トーヤはアリアナとレミからお礼を口にされた。
「いえいえ、私がお誘いしたことですし、やりたいと思ってやったことですから、お気になさらず」
「そうは言っても、仕事と住む場所を提供してもらえたのだから、何かお礼をしなければいけないよ」
トーヤとしては自分のためにと思ってやったことなので、お礼をしてほしいとはまったく考えていない。
しかし、アリアナはそう思っておらず、むしろ何かしなければ気がすまない、といった表情だ。
「うーん……それでしたら、古代の魔導具が安全に使えるよう、研究をお願いできますでしょうか?」
「転移の魔導具を、安全にかい? だが、転移先がどこに設定されているか分からないのだよ?」
安全にと言われたアリアナは、首を傾げながらそう口にした。
「ですので、その転移先を任意で設定できるように、研究をお願いしたいのです」
「……に、任意でだって?」
「その通りです。そもそも、転移先が設定されているということは、それを設定した人がいるということです。昔の人にできて、今の人たちができないという理由にはならないのではないですか?」
トーヤが説明すると、アリアナは真剣な面持ちで考え始める。
「……確かに、トーヤ少年の言う通りだね。私としたことが、いろいろと変化があり過ぎて、研究者としての本質を忘れるところだったよ」
「アリアナさんならできると信じているからこそ、私も提案しているのです」
「……嬉しいことを言ってくれるじゃないか、トーヤ少年!」
信じていると言われたことが思いのほか嬉しかったアリアナは、やる気に満ち溢れた表情に変わる。
「でも、アリアナさん。まずは私たちも、ジェンナ様やラクセーナの商業ギルドへ恩返しをしなければですよ?」
そこへ冷静に、レミが口を挟んできた。
「むむ、それはそうだな。……だがまあ、寝る時間を削ればなんとか――」
「あ、それをするくらいなら、しっかり休んでくれた方が私としてはありがたいです」
根っからの研究者体質なのか、それとも自分と同じワーカーホリックなのか。アリアナの発言を聞いたトーヤはすぐに休んでほしいと伝えた。
「そうかい? だけどねぁ……」
「疲れた状態では、できるものもできなくなりますし、思いつくことも思いつけなくなります。それが大事な研究であれば、なおのことです」
「しかしだねぇ……」
トーヤが真面目に伝えても、アリアナは言葉を濁すばかりで、なかなか納得してくれない。
そんなアリアナを見たトーヤは、日本人だった頃の自分を思い出してしまう。
自分とアリアナは違うだろう。それは魔導具の研究という、好きなことを仕事にしているのだから当然だ。
寝ずに研究をしても、楽しいのかもしれない。
しかし、それでもトーヤは好きなことだからこそ、全力で取り組めるよう万全の体調で挑んでほしいと思ってしまう。
「もしも無茶をして体調を崩してしまっては、本末転倒です。それに、アリアナさんを心配してくれる人が、あなたの近くにいるのですよ?」
「私の近くに? ……あぁ、なるほど。そういうことね」
トーヤの言葉に最初こそ首を傾げそうになったアリアナだったが、すぐ横でレミが見ていることに気づくと、柔和な笑みを浮かべた。
「……分かった。なるべく規則正しい生活をするようにするわ」
「なるべく、ですか?」
「……し、仕事がない時はね! が、頑張らないといけない時とか、あるじゃない?」
理解しているのか、していないのか。アリアナは研究をしたい欲が強すぎて、頭では分かっていても、言葉では出てこないようだ。
「…………はぁ~。レミさん、アリアナさんの手綱はお任せしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです、トーヤさん」
「た、手綱って!! それに、レミちゃん!?」
アリアナの手綱をレミに一任したトーヤは、二人を残して商業ギルドをあとにした。
「ありがとうございました、トーヤさん」
ジェンナとの話し合いが終わったあと、トーヤはアリアナとレミからお礼を口にされた。
「いえいえ、私がお誘いしたことですし、やりたいと思ってやったことですから、お気になさらず」
「そうは言っても、仕事と住む場所を提供してもらえたのだから、何かお礼をしなければいけないよ」
トーヤとしては自分のためにと思ってやったことなので、お礼をしてほしいとはまったく考えていない。
しかし、アリアナはそう思っておらず、むしろ何かしなければ気がすまない、といった表情だ。
「うーん……それでしたら、古代の魔導具が安全に使えるよう、研究をお願いできますでしょうか?」
「転移の魔導具を、安全にかい? だが、転移先がどこに設定されているか分からないのだよ?」
安全にと言われたアリアナは、首を傾げながらそう口にした。
「ですので、その転移先を任意で設定できるように、研究をお願いしたいのです」
「……に、任意でだって?」
「その通りです。そもそも、転移先が設定されているということは、それを設定した人がいるということです。昔の人にできて、今の人たちができないという理由にはならないのではないですか?」
トーヤが説明すると、アリアナは真剣な面持ちで考え始める。
「……確かに、トーヤ少年の言う通りだね。私としたことが、いろいろと変化があり過ぎて、研究者としての本質を忘れるところだったよ」
「アリアナさんならできると信じているからこそ、私も提案しているのです」
「……嬉しいことを言ってくれるじゃないか、トーヤ少年!」
信じていると言われたことが思いのほか嬉しかったアリアナは、やる気に満ち溢れた表情に変わる。
「でも、アリアナさん。まずは私たちも、ジェンナ様やラクセーナの商業ギルドへ恩返しをしなければですよ?」
そこへ冷静に、レミが口を挟んできた。
「むむ、それはそうだな。……だがまあ、寝る時間を削ればなんとか――」
「あ、それをするくらいなら、しっかり休んでくれた方が私としてはありがたいです」
根っからの研究者体質なのか、それとも自分と同じワーカーホリックなのか。アリアナの発言を聞いたトーヤはすぐに休んでほしいと伝えた。
「そうかい? だけどねぁ……」
「疲れた状態では、できるものもできなくなりますし、思いつくことも思いつけなくなります。それが大事な研究であれば、なおのことです」
「しかしだねぇ……」
トーヤが真面目に伝えても、アリアナは言葉を濁すばかりで、なかなか納得してくれない。
そんなアリアナを見たトーヤは、日本人だった頃の自分を思い出してしまう。
自分とアリアナは違うだろう。それは魔導具の研究という、好きなことを仕事にしているのだから当然だ。
寝ずに研究をしても、楽しいのかもしれない。
しかし、それでもトーヤは好きなことだからこそ、全力で取り組めるよう万全の体調で挑んでほしいと思ってしまう。
「もしも無茶をして体調を崩してしまっては、本末転倒です。それに、アリアナさんを心配してくれる人が、あなたの近くにいるのですよ?」
「私の近くに? ……あぁ、なるほど。そういうことね」
トーヤの言葉に最初こそ首を傾げそうになったアリアナだったが、すぐ横でレミが見ていることに気づくと、柔和な笑みを浮かべた。
「……分かった。なるべく規則正しい生活をするようにするわ」
「なるべく、ですか?」
「……し、仕事がない時はね! が、頑張らないといけない時とか、あるじゃない?」
理解しているのか、していないのか。アリアナは研究をしたい欲が強すぎて、頭では分かっていても、言葉では出てこないようだ。
「…………はぁ~。レミさん、アリアナさんの手綱はお任せしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです、トーヤさん」
「た、手綱って!! それに、レミちゃん!?」
アリアナの手綱をレミに一任したトーヤは、二人を残して商業ギルドをあとにした。
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