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第一章:役立たずから英雄へ
29.作戦会議①
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僕が固まっていると、アーク様は微笑みながら僕の頭を撫でてくれた。
「大事な弟が初めてのお願いをしてくれたんだ。それを叶えるのが、兄である僕の役目だろう?」
「……アーク様」
「兄とは呼んでくれないのかい?」
……恥ずかしい。
「……ダメ、かな?」
「…………アーク、兄上?」
「よし! それじゃあ、イシスも呼んでこよう! 彼も兄と呼んで欲しいに決まっているからな!」
「いきなりはハードルが高過ぎます! 少し余裕をもって……って、イシス様も来てくれているのですか!」
「イシスお兄様も!」
王位継承権を持つ二人が揃って戦場にやって来ているなんて、あり得ない事じゃないだろうか。
万が一があれば、ライブラッド王国を継ぐ者がいなくなってしまうんだから。
「相手に特級スキル持ちが二人もいるからね。こちらも惜しんではいられなかったんだよ」
そう言いながらアーク様……いや、アーク兄上はイシス様を呼びに行った。
だが、特級スキル持ちか。そうなると、判明している数だけで見ればこちらの方が上回っているんじゃないかな。
「アーク兄上とイシス様、それに母上とコリーヌさんがいます。特級スキルの数だけを見れば――」
「リッツもいるではないですか!」
「え? 僕?」
「そうね。話を聞く限り、リッツの【緑魔法】も特級スキルでしょうね」
ニーナからもそのように言われたが、正直あまり自覚がない。
ユーグリッシュ様と会話もできるし、力を手に入れる事もできたけど、いまだに使いこなせているという自信はないのだ。
「レイリア第二皇女を助けるのでしょう?」
「キリシェ?」
「ならば、リッツ殿は戦場のど真ん中に行くことになります。自信がなければ、自分を信じなければ、すぐに死んでしまいますよ?」
真っすぐに見つめられながらの言葉には、キリシェの想いがこもっている。
……そうだ。ここはすでに戦場であり、一瞬の迷いが死に直結してしまう場所なんだ。
「……すみませんでした、キリシェ。そうだね、僕も僕のスキルを信じないといけないね」
「はい。事実、バルザーリへ向かう時の襲撃者から姫様を救ってくれたのはリッツ殿ですよ?」
「そうですね。ありがとうございます、キリシェ」
僕が僕自身を完全に信じられるようになるには時間が掛かるだろう。
だけど、今だけは僅かな時間であっても僕が僕を信じなけれならない。
「ニーナ! リッツ!」
「イシスお兄様!」
「無事で何よりです、イシス様!」
「……あん?」
……え?
「……」
「……兄、だろ?」
「うぐっ!?」
「……だよなあ?」
「…………無事で何よりです、イシス、兄上」
「そりゃそうだろう! なんたって、俺様だからな!」
わしゃわしゃと頭を撫でられながら、イシス兄上は満面の笑みを浮かべてくれた。
そして、やって来たのはイシス兄上だけではなく、【剣帝の加護】を持つアーク兄上よりも頭一つ大きく、屈強な肉体を持つ男性騎士が一緒だった。
「こちらはライブラッド王国軍の大隊長を務めている――」
「ゼス・ボルドーと申します」
鋭い眼光が僕たちを見回し、視線が止まった先にいたのはレイ大隊長だ。
レイ大隊長は目が合うとニコリと微笑んだのだが、ゼス大隊長は鼻息荒くため息をついた。
「バルザーリ軍は精強な軍だと聞いていたが、まさか大隊長がこのような優男だとはな」
「おい、ゼス!」
「アーク王子。侮られるのは慣れているので気にしておりません、お気遣いなく」
「……侮られる事に慣れているのか?」
「はい。そのおかげで、楽に勝利を手にする事もできますから」
「つまらんな」
「ゼス!」
二度目の叱責には怒気がこもっており、ゼス大隊長は仕方ないといった感じで口を閉ざした。
「本当に申し訳ありません、レイ大隊長。それにバルニシア辺境伯も」
「あはは! なーに、レイも慣れたもんだから気にしないさ。ただし、実力は折り紙付きだから、その実力を見たら態度を改めてくれないかしら?」
笑ってはいるが、コリーヌさんも恐らくは怒っている。
それもそうだろう。自らが才能を見つけ出し育て、大隊長にまでなったレイ大隊長をバカにされたのだから。
「……わかりました。でしたら、私をレイ大隊長と同じ部隊に配属していただけるのですかな?」
「いやいや、それはさすがに戦力バランスが――」
「いいんじゃねえか?」
総大将としてはっきりと断ろうとしたアーク兄上だったが、遮るようにしてイシス兄上が口を開いた。
「……イシス、何を考えているんだ?」
「ゼス大隊長は特級スキル持ちだ。俺とアーク兄上と合わせれば三人。さらにバルニシア辺境伯も確か特級スキル持ちだっただろう? リッツも合わせれば五人だから、戦力的には十分だろう」
「だが、あちらにも未確認の特級スキル持ちがいる可能性は高い。皇子だけが特級スキルとは限らないんだぞ?」
「……あのー、兄上たち?」
言い合っている二人に声を掛けるのには勇気が言ったが、戦況を大きく左右する事なので伝えなければならない。
本当なら本人に言ってもらいたかったのだが、ただ微笑んでいるだけで言う気配がないので、僕が言うしかないのだ。
「どうしたんだい、リッツ君?」
「なんだ、リッツ?」
「えっと、僕の母上なんですけど、こちらも特級スキル持ちですよ?」
「「……え?」」
揃って声を漏らすと、二人の視線が揃って母上に向いた。
「大事な弟が初めてのお願いをしてくれたんだ。それを叶えるのが、兄である僕の役目だろう?」
「……アーク様」
「兄とは呼んでくれないのかい?」
……恥ずかしい。
「……ダメ、かな?」
「…………アーク、兄上?」
「よし! それじゃあ、イシスも呼んでこよう! 彼も兄と呼んで欲しいに決まっているからな!」
「いきなりはハードルが高過ぎます! 少し余裕をもって……って、イシス様も来てくれているのですか!」
「イシスお兄様も!」
王位継承権を持つ二人が揃って戦場にやって来ているなんて、あり得ない事じゃないだろうか。
万が一があれば、ライブラッド王国を継ぐ者がいなくなってしまうんだから。
「相手に特級スキル持ちが二人もいるからね。こちらも惜しんではいられなかったんだよ」
そう言いながらアーク様……いや、アーク兄上はイシス様を呼びに行った。
だが、特級スキル持ちか。そうなると、判明している数だけで見ればこちらの方が上回っているんじゃないかな。
「アーク兄上とイシス様、それに母上とコリーヌさんがいます。特級スキルの数だけを見れば――」
「リッツもいるではないですか!」
「え? 僕?」
「そうね。話を聞く限り、リッツの【緑魔法】も特級スキルでしょうね」
ニーナからもそのように言われたが、正直あまり自覚がない。
ユーグリッシュ様と会話もできるし、力を手に入れる事もできたけど、いまだに使いこなせているという自信はないのだ。
「レイリア第二皇女を助けるのでしょう?」
「キリシェ?」
「ならば、リッツ殿は戦場のど真ん中に行くことになります。自信がなければ、自分を信じなければ、すぐに死んでしまいますよ?」
真っすぐに見つめられながらの言葉には、キリシェの想いがこもっている。
……そうだ。ここはすでに戦場であり、一瞬の迷いが死に直結してしまう場所なんだ。
「……すみませんでした、キリシェ。そうだね、僕も僕のスキルを信じないといけないね」
「はい。事実、バルザーリへ向かう時の襲撃者から姫様を救ってくれたのはリッツ殿ですよ?」
「そうですね。ありがとうございます、キリシェ」
僕が僕自身を完全に信じられるようになるには時間が掛かるだろう。
だけど、今だけは僅かな時間であっても僕が僕を信じなけれならない。
「ニーナ! リッツ!」
「イシスお兄様!」
「無事で何よりです、イシス様!」
「……あん?」
……え?
「……」
「……兄、だろ?」
「うぐっ!?」
「……だよなあ?」
「…………無事で何よりです、イシス、兄上」
「そりゃそうだろう! なんたって、俺様だからな!」
わしゃわしゃと頭を撫でられながら、イシス兄上は満面の笑みを浮かべてくれた。
そして、やって来たのはイシス兄上だけではなく、【剣帝の加護】を持つアーク兄上よりも頭一つ大きく、屈強な肉体を持つ男性騎士が一緒だった。
「こちらはライブラッド王国軍の大隊長を務めている――」
「ゼス・ボルドーと申します」
鋭い眼光が僕たちを見回し、視線が止まった先にいたのはレイ大隊長だ。
レイ大隊長は目が合うとニコリと微笑んだのだが、ゼス大隊長は鼻息荒くため息をついた。
「バルザーリ軍は精強な軍だと聞いていたが、まさか大隊長がこのような優男だとはな」
「おい、ゼス!」
「アーク王子。侮られるのは慣れているので気にしておりません、お気遣いなく」
「……侮られる事に慣れているのか?」
「はい。そのおかげで、楽に勝利を手にする事もできますから」
「つまらんな」
「ゼス!」
二度目の叱責には怒気がこもっており、ゼス大隊長は仕方ないといった感じで口を閉ざした。
「本当に申し訳ありません、レイ大隊長。それにバルニシア辺境伯も」
「あはは! なーに、レイも慣れたもんだから気にしないさ。ただし、実力は折り紙付きだから、その実力を見たら態度を改めてくれないかしら?」
笑ってはいるが、コリーヌさんも恐らくは怒っている。
それもそうだろう。自らが才能を見つけ出し育て、大隊長にまでなったレイ大隊長をバカにされたのだから。
「……わかりました。でしたら、私をレイ大隊長と同じ部隊に配属していただけるのですかな?」
「いやいや、それはさすがに戦力バランスが――」
「いいんじゃねえか?」
総大将としてはっきりと断ろうとしたアーク兄上だったが、遮るようにしてイシス兄上が口を開いた。
「……イシス、何を考えているんだ?」
「ゼス大隊長は特級スキル持ちだ。俺とアーク兄上と合わせれば三人。さらにバルニシア辺境伯も確か特級スキル持ちだっただろう? リッツも合わせれば五人だから、戦力的には十分だろう」
「だが、あちらにも未確認の特級スキル持ちがいる可能性は高い。皇子だけが特級スキルとは限らないんだぞ?」
「……あのー、兄上たち?」
言い合っている二人に声を掛けるのには勇気が言ったが、戦況を大きく左右する事なので伝えなければならない。
本当なら本人に言ってもらいたかったのだが、ただ微笑んでいるだけで言う気配がないので、僕が言うしかないのだ。
「どうしたんだい、リッツ君?」
「なんだ、リッツ?」
「えっと、僕の母上なんですけど、こちらも特級スキル持ちですよ?」
「「……え?」」
揃って声を漏らすと、二人の視線が揃って母上に向いた。
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