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第一章:役立たずから英雄へ
21.五年ぶりの対話
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この日は夕食もコリーヌさんの屋敷でいただき、少しばかりの雑談を挟んでから部屋に戻った。
もちろん、母上も一緒だ。
部屋に案内された時も少しは話をしたが、あまりにも疲れていたのですぐに寝入ってしまったのだ。
「リッツの寝顔も久しぶりだったわ」
……寝顔を見られたのは少し恥ずかしい気もするが。
母上は部屋にお茶とお茶請けを持ってきてくれて、これは長い話になると確信する。
だが、僕も聞きたい事が山のようにあるのでありがたい。
正直、今日だけでは時間が足りないのではないかと思うくらいだ。
「さて、何から話したらいいのかしらね……」
そう口にして考え込んでしまった母上を見て、僕は昼の話し合いで気になった事を聞いてみる事にした。
「母上。その、五年前に行方不明となった事について聞いてもいいですか?」
「ん? えぇ、いいわよ」
「その……陰謀と言っていましたが、やはり皇帝ライネルが?」
僕が父上ではなく皇帝ライネルと口にした事に驚いたのか、母上は一瞬だが目を見開いた。
だが、すぐにいつも通り……いや、いつもよりも優しい表情になって質問に答えてくれた。
「その通り……と言いたいところだけど、少しだけ違うわ」
「そうなの?」
「えぇ。皇帝ライネルが関わっているのは間違いないけれど、そこには皇后リリアナも関わっていたわ」
「……そうだったんですね。皇后リリアナが」
皇后リリアナは、母上よりも先に皇帝ライネルに見初められて正室として迎え入れられた。
だが、15歳までアルスラーダ帝国で生きてきてわかった事だが、皇帝ライネルはその人となりを見ているのではなく、スキルを見て全てを決めていると僕は思っている。
皇后リリアナのスキルである【結界魔法】は王城を守るだけではなく、戦場で兵士を守る最強の盾になっていた。
「皇后リリアナは、側室として私が迎え入れられた時から嫉妬の目を向けていたわ。自分が愛されて正室に迎え入れられたと、本気で思っているのね」
「母上は、自分がスキルを見られて側室として迎え入れられた事を知っていたのですか?」
「もちろんよ。自由に生きてきたとはいえ、これでも男爵家の人間だったもの。政略結婚にも理解はできるわ。ただ、相手が皇帝だった事には驚いたけどね」
「そうだったんだね。でも、どうして母上は皇后リリアナが関わっていると気づいたのですか?」
皇后リリアナが母上を貶めるためだけに、自らが出向く事は考え難い。
ならば、その証拠となるものを刺客から得る事ができたのだろうか。
「私の【精霊魔法】はとても強力です。アルスラーダ帝国の騎士が相手でも、そうそう負けるつもりはないわ。当然、私も襲撃を受けた時には反撃に出たのよ。でも……」
「でも?」
「……撃退すべく魔法を放ったのだけど、その全てが結界によって防がれてしまったのよ」
「結界に? という事は、皇后リリアナがその場に?」
まさかの展開だと思ったが、母上は首を横に振った。
「いなかったわ。でも、皇后リリアナの【結界魔法】を疑似的に発動させる魔法具を準備していたのだと思うわ」
「魔法具ですか。そんな高価なものまで準備して、母上を殺そうとしていたのですね」
魔法具とは、魔法を封じ込めて誰にでも使用できるようにした道具の事だ。
物によっては繰り返し使える物や、使い捨ての物もある。
アルスラーダ帝国では戦力増強を見据えて、魔法具の研究に力を入れていたはずだ。
「だからといって、私も簡単に殺されるような人間じゃないしね。魔法を放ちながら帝都とは逆の方へと逃げていき、気づけば国境を越えてカッサニア公国に逃げ延びていたのよ」
笑いながらそう語っているが、僕だったら確実に死んでいただろう。
僕の処分方法が戦争だったのは、もしかすると不幸中の幸いだったのかもしれない。
「そして、助けの手を差し伸べてくれたのが、コリーヌだったのよ」
「コリーヌさんが?」
「えぇ。疲労困憊になって森の中で倒れていたところを、コリーヌが助けてくれたの。最初は私もリッツみたいにかしこまっていたんだけど、堅苦しいのは肩が凝る! とか言ってね。それを私の身分を知ってからも貫いてくれたから、私も自分にできる事をしようと思って留まっているのよ」
「そうだったんだ。コリーヌさんと出会えて良かったね、母上」
僕は本心からそう口にしたのだが、母上は何故か困ったような顔をしてしまった。
「どうしたの?」
「ううん……リッツは、私が助けに来なかったことを恨んでいないの?」
「母上を恨む、ですか? どうして?」
「私はあなたが戦争で死にそうになっていた時、何もできなかったわ。本当なら、この身を挺して守らなければならなかったのに」
母上は、僕が危険な目に遭っている時に助けられなかった事を悔いている。
だが、それは仕方のない事だ。母上だって命を狙われていたのだから。
「僕は気にしていないよ。それよりも、母上と再会できたことを喜んでいるし、生きていてくれた事に感謝しているんだ」
「リッツ……」
「生きていてくれてありがとう、母上」
「……私の方こそありがとう、リッツ」
それから、僕と母上は夜を通して語り合ったのだった。
もちろん、母上も一緒だ。
部屋に案内された時も少しは話をしたが、あまりにも疲れていたのですぐに寝入ってしまったのだ。
「リッツの寝顔も久しぶりだったわ」
……寝顔を見られたのは少し恥ずかしい気もするが。
母上は部屋にお茶とお茶請けを持ってきてくれて、これは長い話になると確信する。
だが、僕も聞きたい事が山のようにあるのでありがたい。
正直、今日だけでは時間が足りないのではないかと思うくらいだ。
「さて、何から話したらいいのかしらね……」
そう口にして考え込んでしまった母上を見て、僕は昼の話し合いで気になった事を聞いてみる事にした。
「母上。その、五年前に行方不明となった事について聞いてもいいですか?」
「ん? えぇ、いいわよ」
「その……陰謀と言っていましたが、やはり皇帝ライネルが?」
僕が父上ではなく皇帝ライネルと口にした事に驚いたのか、母上は一瞬だが目を見開いた。
だが、すぐにいつも通り……いや、いつもよりも優しい表情になって質問に答えてくれた。
「その通り……と言いたいところだけど、少しだけ違うわ」
「そうなの?」
「えぇ。皇帝ライネルが関わっているのは間違いないけれど、そこには皇后リリアナも関わっていたわ」
「……そうだったんですね。皇后リリアナが」
皇后リリアナは、母上よりも先に皇帝ライネルに見初められて正室として迎え入れられた。
だが、15歳までアルスラーダ帝国で生きてきてわかった事だが、皇帝ライネルはその人となりを見ているのではなく、スキルを見て全てを決めていると僕は思っている。
皇后リリアナのスキルである【結界魔法】は王城を守るだけではなく、戦場で兵士を守る最強の盾になっていた。
「皇后リリアナは、側室として私が迎え入れられた時から嫉妬の目を向けていたわ。自分が愛されて正室に迎え入れられたと、本気で思っているのね」
「母上は、自分がスキルを見られて側室として迎え入れられた事を知っていたのですか?」
「もちろんよ。自由に生きてきたとはいえ、これでも男爵家の人間だったもの。政略結婚にも理解はできるわ。ただ、相手が皇帝だった事には驚いたけどね」
「そうだったんだね。でも、どうして母上は皇后リリアナが関わっていると気づいたのですか?」
皇后リリアナが母上を貶めるためだけに、自らが出向く事は考え難い。
ならば、その証拠となるものを刺客から得る事ができたのだろうか。
「私の【精霊魔法】はとても強力です。アルスラーダ帝国の騎士が相手でも、そうそう負けるつもりはないわ。当然、私も襲撃を受けた時には反撃に出たのよ。でも……」
「でも?」
「……撃退すべく魔法を放ったのだけど、その全てが結界によって防がれてしまったのよ」
「結界に? という事は、皇后リリアナがその場に?」
まさかの展開だと思ったが、母上は首を横に振った。
「いなかったわ。でも、皇后リリアナの【結界魔法】を疑似的に発動させる魔法具を準備していたのだと思うわ」
「魔法具ですか。そんな高価なものまで準備して、母上を殺そうとしていたのですね」
魔法具とは、魔法を封じ込めて誰にでも使用できるようにした道具の事だ。
物によっては繰り返し使える物や、使い捨ての物もある。
アルスラーダ帝国では戦力増強を見据えて、魔法具の研究に力を入れていたはずだ。
「だからといって、私も簡単に殺されるような人間じゃないしね。魔法を放ちながら帝都とは逆の方へと逃げていき、気づけば国境を越えてカッサニア公国に逃げ延びていたのよ」
笑いながらそう語っているが、僕だったら確実に死んでいただろう。
僕の処分方法が戦争だったのは、もしかすると不幸中の幸いだったのかもしれない。
「そして、助けの手を差し伸べてくれたのが、コリーヌだったのよ」
「コリーヌさんが?」
「えぇ。疲労困憊になって森の中で倒れていたところを、コリーヌが助けてくれたの。最初は私もリッツみたいにかしこまっていたんだけど、堅苦しいのは肩が凝る! とか言ってね。それを私の身分を知ってからも貫いてくれたから、私も自分にできる事をしようと思って留まっているのよ」
「そうだったんだ。コリーヌさんと出会えて良かったね、母上」
僕は本心からそう口にしたのだが、母上は何故か困ったような顔をしてしまった。
「どうしたの?」
「ううん……リッツは、私が助けに来なかったことを恨んでいないの?」
「母上を恨む、ですか? どうして?」
「私はあなたが戦争で死にそうになっていた時、何もできなかったわ。本当なら、この身を挺して守らなければならなかったのに」
母上は、僕が危険な目に遭っている時に助けられなかった事を悔いている。
だが、それは仕方のない事だ。母上だって命を狙われていたのだから。
「僕は気にしていないよ。それよりも、母上と再会できたことを喜んでいるし、生きていてくれた事に感謝しているんだ」
「リッツ……」
「生きていてくれてありがとう、母上」
「……私の方こそありがとう、リッツ」
それから、僕と母上は夜を通して語り合ったのだった。
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