本能寺燃ゆ

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第一章「純愛の村」

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「しかし、こんなところに川があるとは知りませんでした。よく見つけられましたな」

「虫ですよ」

「虫?」

「虫がいるところは、必ず近くに水場があります。蜂や蟻、蚊や蠅も、水なしには生きてはいけませぬからな」

 虫を探して、山中を歩き回っていたという。

「それは、ご苦労様でした」、源太郎は頭を下げた、「ですが、この川は……」

 水源を発見したのは有難いが、ここからでは水を村に引き入れることは難しい。

「そこも案があります。この川は……」

 川の上流が、上の村に近いらしい。

 といっても、相当距離があるが、それでも源太郎の村よりは近い。

 そこから上の村で現在使っている川に引き込む。

 新しい川が合流すれば、水量が増え、堰をあけることができ、上の村も、下の村も潤う。

 その話を聞いて、庄屋や村人から大反対の声があがった。

「村がこんな様子になっとるのは、上の村のせいや! なんであいつらのために、そないなことせなあかんのや!」

「せや、あいつらに水なんかやるこたねえぇ!」

 源太郎もそう思う。

 が、十兵衛は違うようだ。

「確かに、上の村への色々な思いはあるとは思いますが……」

 村ひとつで水を引くよりは、上と下の村がともに力を合わせて作業すれば、労力は半分に減ると話した。

「まあ、そらそうやけど……」

 十兵衛の話は、いちいち納得がいく。

 が、頭ではそれが正しと分かっていても、気持が追い付かない。

「皆さんの気持ちは分かりますが、しかしこれ以上旱が続けば、どのみち上の村もこの村も駄目になりますよ。それに、拙者も山崎様から事の次第を問われれば、いえ、拙者はこのようにしてはどうかと勧めたのですが、庄屋さんはじめ村の衆が不服のようでとしか答えることができず、そのことを山崎様がお聞きになれば、あの性分故に……」

 吉延の激しい気性なら、庄屋や村人に対して何らかの裁可を下すのも明白だ。

 それが理解できたのか、庄屋が慌てて、

「おぬしら、ごちゃごちゃ言わずに、やるんや!」

 と、村人たちを怒鳴りつけた。

 村人たちは目を白黒させていた。

 相変わらず変わり身が早いと源太郎は可笑しかった。

 そういう話を、権太は父から聞き、十兵衛は凄いと思った。
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